――土井目線――



「お会いしたかった」


やけに濡れた眼をして私の首に手を回すハルは、確かにそう漏らした。


「ちょっ、離れなさいハル!」
「えー」
「えー、じゃない!!」


腑に落ちないような顔をして、しかしハルは私から渋々離れた。それでもまだ必要以上に近い。何なんだ一体。
以前から私に対して、恋慕を抱いている節があったのなら話は別だが、ハルからは恋愛感情云々という気は更々感じられなかった。
そもそも彼女が“それ”を出したらどうすべきか、学園の教師すべてに通達された、だから私だけでなく他の先生も彼女の言動には注意していたはずだ。
ハルが色術などを用いて、卵はおろか教師を懐柔してこの学園の内部崩壊を企てているのなら、迷わず殺せと学園長に言われていたのだった。ハルの話をすべて信用していたわけではないのだ、彼だって。


(だが、ハルはそんなそぶり微塵も出さなかった。この世界で生きていくことに手一杯のようだった)


それはいつも一緒にいるおばちゃんだけでなく、山田先生や山本先生、小松田くんや勿論生徒たちもこぞって同じ感想を述べた。「普通の女中のようによく働いている」と。学園長も、以前のお使いでその言葉を理解したとおっしゃっていた。


――しかし。




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