「そそ、それは本当に迷惑をかけたな! きちんと団蔵は叱っておくから安心しろ、ギンギンに!!」


顔を赤くしたシオエさんは早口にそうまくし立てると、団蔵を探してギンギン言いながら走り去った。
ぽつんと残された、この人。
確か初日に、お風呂でくのたまと間違えた人だったよな。そういえば、あれ以来顔を見てなかったなあ。


「えっと、わざわざ返しにきてくださってありがとう」
「当然の事をしたまでです。兵太夫がやんちゃをして申し訳なかった」
「あー、それはもう気にしないで下さい。あとでわたしからあの子にお話しときますから」


そうか。
肯定を示しても腑に落ちないような表情をした彼は、なにごとか言いたそうにわたしの前に立っていたが、結局何も言うことなく「それでは」とだけ言うと、綺麗な黒髪を揺らして背を向けた。


「――あ、あの! この前はお風呂中、お邪魔してしまってすみませんでした!」
「!! 覚えて、」


ひどく驚いたらしい彼は勢いよくこちらを振り返った。
いやあ、まあ、そりゃあね。覚えてますよね。あの出会いはね。
あの時ちゃんと確認せず何の気無しにに近付いたことを詫びると、何故か頬を桃色にして気にするなとそっぽを向いた。何なんだろう。




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