「それだけ言いたかっただけです。 引き止めてすみません、えーと、」 「立花仙蔵先輩ですよ、ハルさん」 「おおっ! 雷蔵、はっちゃん!」
どこから降ってきたのか、シュタッと着地する雷蔵とはっちゃん。 そうだ、この二人に兵太夫と団蔵を捕まえてくれるよう頼んでいたんだった。
「おや。立花先輩、頬が赤くなっていらっしゃいますが、熱でも?(風呂場の話ってなんのことですか?)」 「心配には及ばん。たいしたことでは無い(貴様鉢屋だろ、というか何処から盗み聞きしていた)」 (うわあ……三郎と立花先輩、どんな矢羽音飛ばしてんだよ……)
笑顔の雷蔵と立花くんに引き換え、はっちゃんだけ苦笑いしているのは何でなんだろうか。まあいいか。
「私は失礼する。あー、ハルさん、」 「はい?」 「あの日のことはお互い忘れよう。食堂の仕事、頑張って下さい。では」 「――っ! はいっがんばります!」
立花くんは、ふっと口元だけ笑うと、さっきの雷蔵とはっちゃんみたく一瞬で消えた。 なんだー立花くんも普通に良い人だったんだなー。風呂場のアクシデントも、こっちが確実に悪いのに気遣かってくれたし。蟠りが解けたみたいでよかった。
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