渋る乱太郎を置いて、第三協栄丸さんからあの人を請け合ったのは気まぐれなんかじゃなくて、多分オレと同じ立場だったからだと思う。
親無し、加えて、赤子のような非力さ。
本当の赤子ならまだ野犬の食い物にできたかもしれないけど、どう見たってオレよりも年上の女の人を、放っておけるほどまだ冷めてはいなかった。
… … …
その日は洗濯のバイトを頼まれていた。 バイトといっても直接銭を渡してもらえるものではなく、前にオレがバイトで出来なかった時、代わりにやってもらった掃除当番のお礼という事で、代わってくれた乱太郎と兵太夫、金吾の敷布と褌を洗濯しようと、桶を抱えて井戸の方へ歩いている途中。
「あ、きりちゃん!」
すっかり食堂のお姉さんという立場になったハルさんが、オレの方へ手を振りながら近付いてくる。 にこにこ笑ってるから、なんかいいことでもあったんすか? 尋ねると、
「いや、きり丸に久々に会えたなあって思っただけだよ」
そんな風に返されてしまって、くすぐったくなって、隠すようにぶっきらぼうに「そっすか」と言ってしまった。
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