春編

私達はどこで道を間違えたのだろうか。
間違えなければ今も一緒にいることができたのだろうか。
…いや、どうであれ私達には破滅の道しか残されていなかったのだろう。
きっと最初から間違っていたのだ。
あの時ああしていなければ…なんて思っていても、どこかで歯車が狂って結末は同じになることは容易に想像できる。
それほどまでに彼と私の関係は危うかった。
その危うさ故に崩れ去るのも簡単だった。



4月。桜が満開の頃、私は早乙女学園に入学した。
入学してから気づいたのだが、隣のクラス…Sクラスに小さい頃の幼なじみであるトキヤくんがいた。
彼に昔の面影など全くなく、その美しく整った顔は常に無表情だった。
話しかけてみようと思ったがそんな勇気はなく、月日はどんどん過ぎていった。
その間に友ちゃんという友達もでき、卒業まで共にするパートナーも決まった。
パートナーになったのは、聖川財閥の御曹司である聖川真斗様だった。
「よろしくお願いします」
「ああ、…よろしく」
聖川様は私と同じくピアノを得意としていたので、男の人が若干苦手である私もその話題ですんなりと打ち解けることができた。



5月。春らしいポカポカした日差しが気持ちいい午後。
早々に授業が終わったので私は教室に残って聖川様と課題曲の練習をしていた。
「ここはもう少しですね、…」
「ああ、…」
2、3回通してやってから気づいたところをお互いに言い合う。それが私と聖川様の練習方法になりつつあった。
その時、教室の扉が開いた音がした。
誰か忘れ物を取りにきたのだろうか…そう思いながら扉のほうに目を向けると、驚いたような顔をしたトキヤくんが立ち尽くしていた。
「…ああ、これは失礼しました。教室を間違えてしまったようです」
彼はそう言って丁寧にお辞儀をし、ちゃんと扉を閉めて去っていった。
「あの一ノ瀬も間違えることがあるんだな」
「そうですね」
トキヤくんは風の噂によると完璧主義な人であるらしい。現にこの間行われた小テストでも完璧に歌い上げ全クラス1位になっていたのでその噂は本当のようであった。
それ故にこんな小さいミスをやらかすとは到底思えないのだが。

…それが単なるミスではないような気がしたのは1週間後である。
「七海ー」
先週から風邪を引いて休んでいた一十木君が今日からようやく学園に姿を表した。
ちなみに彼はトキヤくんと同室である。
「あ、一十木君。おはようございます。風邪は大丈夫ですか?」
「おはよー!うん、もう完璧に治っちゃった」
ピースをしていつものようにニカッと笑う。私はそんな彼を太陽のようだと思った。
「そういえばさー…七海。先週トキヤと会えた?」
「えっ?」
「いやーなんか部屋でギター引いてたら『あなたと同じクラスの七海さんはどこにいるか知ってますか?』って言われてさー。あの日教室残って練習するって言ってたじゃん?だからAクラスにいると思うよーって言ったんだけど」
「え…」
トキヤくんが?
一十木君は続ける。
「あのあと部屋に戻ってきたトキヤにどうしてそんなこと聞いたのかとか会えたのか聞いても全然話してくれないし。次の日に七海に聞こうと思ってたんだけどその後風邪引いて休んじゃったしさ。んで、何かあったの?」
「いえ…何もなかったです」
私はそう言うので精一杯だった。
トキヤくんはもしかしてあの時、私に会いにきてくれたのだろうか。
そう彼に尋ねたくても、なんだか怖くて尻込みしてしまう。
悶々とした気持ちはピアノの音色にも表れていたらしく、その後の練習では聖川様に数回注意されてしまった。
「何かあったのか?俺でよければ聞くぞ」
そう心配してくれる聖川様のご好意は本当に嬉しかったけれども、答えようにもどう話していいか分からない。
「いえ…大丈夫です。すみません」
「ならいいが」
その後も何回か聖川様にご迷惑をかけながらも、5月が終わった。

Back 夏編へ
--------------------------
Top page
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -