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生まれ変わった人魚 2

俺が知朱陽菜を“姉ちゃん”と認識したのは、あの人が7歳の時だった。

俺が生まれる前から沢田家と知朱家は隣同士で、近所付き合いが多い間柄だったらしい。
姉ちゃんには小説家のお父さん、編集者のお母さん、9つ年が離れたお兄さんがいて、保育園児の頃には夕方までみんな帰って来れない日が多かった。
専業主婦で世話好きな俺の母さんはそんな様子を見て、姉ちゃんをしょっちゅう沢田家に迎えて自分の子供のように可愛がっていた。
だから俺と姉ちゃんが一緒にいる時間も多くて、姉ちゃんが保育園に通っている間は毎日のように一緒に遊んでいた。
あの時の俺にとって姉ちゃんは居て当たり前の存在で、俺に何かしてくれるのも当然のことだと思っていた。

姉ちゃんが小学校に、俺が保育園に上がってからは、それまでの日常ががらりと変わった。
たくさんの知らない大人、同世代の園児達とのぶつかり合い、夕方まで会えない母さん、土日しか会いに来ない姉ちゃん。
解らないことだらけなのに誰も助けてくれない。子供ながらそんな風に錯覚した俺は、その頃からひどい泣き虫なっていった。

あれは家の庭に迷い込んできた野良犬に吠えられていた時だ。
子犬だったと思うけど当時の俺にはそれすら声が出せないほど怖かった。台所にいた母さんには子犬の鳴き声は聞こえない。
ああこのまま食べられちゃうんだ、なんて縮こまったその時だった。

―あおーーーん!!

オオカミの鳴き真似をして子犬を追い払ってしまったのが、自分の家で宿題をしていた姉ちゃんだった。
2階の自分の部屋から偶然俺の姿を捉えた姉ちゃんは、雰囲気から俺の危機を察知してそのまま窓から声を張り上げたらしい。
近所の人に見られているのを気にも留めず、窓から見下ろしたまま俺に笑いかけた。

「あのワンちゃんはね、つーくんの持ってるボールをちょーだいって言ってたんだよ。あたしが代わりにダメー!って言っといたからねー」

俺の解らなかったことをあっさり見抜き助けてくれたその姿は、まるでヒーローだった。
俺はその瞬間姉ちゃんと連呼しながら大声で泣いたそうだ。
どんだけ怖かったんだと姉ちゃんは笑ったが、今思うとその時俺の中に彼女に対する憧れが芽生えたんだろう。

あれからいろんなことが、本当にいろんなことがあった。

俺は泣き虫はマシになったけど意気地なしのまま。姉ちゃんは漫画好きで喧嘩っ早く、俺に対して甘い人になった。
俺はいつもドジ踏むから友達ができないまま。姉ちゃんは何でも卒なくこなし、いろんな知り合いができていった。
正反対な俺達だけど相変わらず仲は良く、俺の母さんも入れて3人の家族同然の付き合いは今も続いている。

――――――――――
―――――――
―――――

「おめー只者じゃねーな。やっぱマフィアやんねーか?」
「やあ死神。君の脳はそれしか言えない構造になってるのかなぁ?一回頭かち割って中身抉り出してあげよっか?」
「姉ちゃん落ち着いて!リボーンもいい加減諦めて!」

俺が中1、姉ちゃんが高1になって暫く経ってからだ。
俺のもとに家庭教師を名乗る赤ん坊がやってきた。
まず赤ん坊である事からツッコみたいのに、その正体はイタリアのヒットマンで俺をマフィアのボスにするために来たという。
もうわけがわからない。嫌だといっても銃をチラつかせて聞いちゃくれない。
クラスメイトや先輩のこともファミリーにするとか言って毎度強引に事を運ぶ始末。
自分で言うのも何だけど俺至上主義な姉ちゃんが、そんな奴と馬が合うわけもなく。リボーンと初めて会った時の発言は、

「え、マフィア?つー、ゴッドファーザーになりたいの?」
「嫌に決まってるだろ!リボーンが勝手に、」
「よし殺す」
「待って待って待って」

5秒で敵認証した。以降リボーンのことは俺を争い事に巻き込む「死神」と呼び続けている。
始めは獄寺君やランボ達にもいい顔はしなかったけど、俺が友達と思ってるから・母さんが可愛がってるからという理由で今はそこそこ仲がいい。
ただビアンキやディーノさんみたいな完全マフィア関係者には思いっきり辛辣な態度をとっている。

そして今、殆ど騙される形でマフィアランドに連れて来られた俺と母さんと姉ちゃん。
案の定マフィアの抗争に巻き込まれ、俺は勝手にマフィア連合の総大将に祭り上げられた。
母さんに被害はなかったものの、俺が危ない目に遭ったことにブチ切れた姉ちゃんはヤバかった。
敵の戦艦を沈めたのはリボーンの赤ん坊仲間だったけど、中の船員を一人残らず血祭にしたのは姉ちゃんだ(辛うじて殺してはいない)。
毎度のようにファミリーに勧誘するリボーンに対して朗らかに口角を上げてるけど、目は笑ってないし言ってることがグロい。

「おい陽菜!いい加減リボーンさんに失礼な口――」
「ごっきゅん、君もいい加減つー君の意見聞いてから動こっか。私そろそろ怒っちゃうよ?丁度今ライフル持っちゃってるよ?」
「てゆーか何で普通にライフル使えちゃうの!?」
「つー君の姉たる者、このくらい出来なくてどうします?」

昔からそうだ。俺がピーマンが嫌いだった時は、食べられるように母さんとレシピを考えてくれた。
算数が苦手だと言えば夜まで勉強に付き合ってくれた。肝試しが怖いと言えばずっと手を繋いでいてくれた。
苦手なものは克服する方法を教えてくれて、どうにもならない時は必ず傍にいてくれる。本当に何でもできて、俺のことを何でも解っている人。
だからマフィア関係の事で巻き込まれるここ最近、姉ちゃんの口癖になってる言葉がある。

「つーも嫌なら嫌、やるならやるでちゃんと行動しなきゃ。こいつらクズだから泣いてるだけじゃ何も変わらないよ」

襲ってくる敵を返り討ちにはするけど、マフィアとの関係を断ったり根本的解決はしてくれない。
マフィアは嫌いでもリボーン達のことは嫌いになれない故に優柔不断になってる俺のことをお見通しだ。

何をすればこんなに心身共に強くなれるんだろう。
なれるものなら、俺も姉ちゃんみたいな強い人になりたい。


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