白雪 | ナノ
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穏やかな街


夢を見た。幼い頃の、懐かしい夢。

武州にある我が家で、伊東と2人きりで談笑している。
寺子屋での他愛のない話を京都が語り、伊東が耳を傾ける。
学問や剣の事になると、伊東は真剣に京都に語ってくれる。
彼の方が、親や教師なんかよりもずっと勉強になる話をしてくれるのだ。
そうやってどんな事でも楽しく会話できる伊東との時間が好きだった。
晴れた暖かい日には縁側でお茶を飲みながら。寒い日には炬燵で蜜柑を剥きながら。
そんな空間が温かくて好きだった。
周りが温かいのは、この夢のせいか…――



穏やかな街



瞼を開ける。目の前には何処までも続く青空。
さっきまで煩かった銃声も、鼻を刺すような火薬の臭いもない。撃たれた脹脛が少し痛むだけだ。
此処は一体何処なのだろうか。天国はおかしい、自分が逝くのは地獄だろう。

そんなことをぼんやり考えていると、横から何かが自分を覗き込んでいる事に気が付いた。
逆光で良く見えないが、顔の輪郭からしてどうやら子供のようだ。
頭が矢鱈と大きいと思ったが、大半部分は髪である。もじゃもじゃアフロヘア、銀時といい勝負である。
大きな緑色の眼で自分を見詰めている子供の頭からは、牛の角のような物が生えている。
一体何者なんだろうか、この幼児は。そして自分は今、何処に寝ているんだろう。
徐々に覚醒してきた頭で、京都はすべき事を整理し行動に移した。

「…童(ワッパ)――」
「…う、うわぁああああん!!」
「!?」

移そうと思った矢先に、目の前の幼児が突然泣き出した。瞳が大きく見えたのは涙で潤んでいたこともあったようだ。
しかし、このままでは状況確認が出来ない。
取り敢えず幼児を泣き止ませるために、京都は上体を起こした。

起こして、我が目を疑った。自分の目の前には信じられない光景が広がっていた。
ついさっきまで江戸の裏路地にいた筈が、今自分は何処かの公園のベンチに座っている。
夜の9時前後だった筈の空には、暖かい日光が街に降り注いでいる。昼下がりと言ったところか。それよりももっと京都を驚かせたのは、その空だった。
ターミナルが見当たらない。宇宙船が一艘もない。
あまりのショックに呆然とする京都の隊服の袖を例の幼児が不意に引っ張った。どうやら泣き止んだらしい。

「お前はだ〜れぇ?まっくろクロスケ?」

見ず知らずの他人に対しての第一声がそれか。会って僅か数分の筈の幼児に、京都は苛立ちを覚えた。
しかし相手は子供だ。ぐっと堪えて京都はその幼児に話し掛けた。

「童、単刀直入に聞こう。此処は何処だ?」
「ココアどこ?べ〜アレはランボさんのだもんね!絶対あげないもんね!」
「……そんな事は聞いていない。私は一体何処に居るんだ?」
「あららのら〜もしかして迷子?案内してやろうか?優しいランボさんが案内してやろうか?」
「………ああ、よろしく頼む…」

一発鉄拳をお見舞いしてやろうかと思った。
しかし相手は子供だ。ぐっと堪えてランボと名乗った仔牛に道案内を頼んだ。
何だこの仔牛は。何だこの話し方は。何だこの態度は。沸々と湧いた感情に、京都は覚えがあった。
何時だったか、宇宙から来日した何処ぞの星の皇子の護衛をした事がある。彼と彼の連れて来る悪趣味且つ奇妙極まりないペットには、我々地球人は大変お世話になったものである。
似ている。あのチョウチンアンコウとこの仔牛は似ている。間違っても姿ではない、その性格がである。
ジワジワと苛立たせるこの感情の名前は…――

「…ウザい」

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