白雪 | ナノ
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「買えやコラァ!」
「(張り切るほどお客が遠退いてくーー!)」

「いい返事だ。ご褒美にもう一本やるよ!」
「(それじゃ売上伸びねーー!)」

「極限だーーー!」
「(此処に何しに来たんですかーー!?)」

「…こんなんで売れるかァァアア!!」
「「「ごはッ!」」」
「(鳶尾さんの雷落ちたーー!)」

備え付けの長机が、三人の脳天目掛けて同時に振り落とされる。
綱吉と裏方に回っていた京都の米神には、くっきりと青筋が浮かんでいた。

「誰が来るかこんな接客で!何だこのグダグダ感!お前達本当に売る気があるのか!?」
「わりぃわりぃ。俺らも頑張ってんだけどよー、何か上手くいかないんだよなー」
「頑張ってるだけで全て通じると思うな莫迦垂れ!どれだけ努力しても、実績がなければ評価されん場合もあるんだぞ!」
「そういう台詞はマダオと管理人に言え」
「マダオとは何だ?生き物か?」
「(世界が違っても長谷川さんの扱い酷すぎ!)」

心の中で長谷川に謝罪する綱吉。この調子では、花火どころか修理費を稼げるかも怪しい。
時間が刻々と過ぎていき、綱吉がいよいよ諦めるしかないかと思い始めた頃、聞こえてきた明るい声。

「もー、見てらんないよ」
「大人イーピン!」

京都とは春休みに会ったきりの、10年後のイーピンである。
何時ものように「川平のおじさん」へ出前する彼女も、今日は紺色の大人しい浴衣を着ている。
名前のあまりの出現率が少し気になる事があるが、話に聞く分には悪い人ではなさそうだ。

「何も塗ってないバナナ並べても売れませんよ。チョコ塗ったのを展示しましょう。商品は見た目が大事ですから」
「なるほど…」
「(イーピン、商売の才能あるんだな…)」
「うーん、あとは風水かなぁ〜」
「「?」」

何処からか持ち込んできた風水グッズが、小さな店に所狭しと並べられる。
金運にいいと言われたが、まず中華とチョコバナナの相性を問いたいところである。
前よりは目立つ店構えになったが、これで客が寄って来るのだろうか。

「ささ、あと京都さんが店頭に立てば完成です」
「はっ!?な、なぜ私が…」
「折角の看板娘が奥にいてどーするんですか?ニッコリ笑ってお客さん引き留めて下さい」
「わらっ!?」
「はい、スマイルですよー。10年後の京都さんは旦那さんに綺麗に笑えてるんですから」
「$&%P@+>*!?」

京都の口角を手で優しく上げるイーピンが投下した爆弾発言。
言葉にならない声を上げる京都とは逆に、他の男4人は驚きのあまり言葉を失っている。
10年後には自分は結婚しているのか。というか誰と?この4人の誰かか、それとも…――

「すいませーん」
「すごい、早速来た!」
「じゃみなさん、頑張って下さいねー」

礼を言う暇すらなく人混みに消えてしまったイーピン。
問い質したいところだったが、急に賑わってきた店を捌くことで手一杯になってきた。
また会った時に聞いてやろうと、京都は店頭で注文されたバナナの数を数えていった。


――――――――――
―――――――
―――――

「あと一箱で完売っす!」
「極限余裕で花火に間に合うな!」
「よかったな沢田」

チョコバナナは飛ぶように売れていき、5人全員がほくほく顔だ。ノルマは既に達成している。
人が減ってペースが落ちているが、今から少しずつ売ったとしても花火までには売り切れそうだ。

「わりぃんだけど、5分ほど外していいか?」
「構わんが、どうした?」
「毎年屋台のボールの的当てしてんだけど、それやんねーと祭りに来たって感じがしなくてさ」
「いいよ、今人少ないし」

景品いっぱい取って来る、と軽く宣言して駆け出す山本。
彼のことだ、本当に屋台の主を泣かせる勢いで景品を勝ち取って来るだろう。

「すんません、自分もトイレ行って来ます」
「帰ってくる時に人数分の飲み物買ってこい」
「やかましいわ」
「俺と了平は踊ってくるぞ」
「はいよ…って何でお兄さん?」
「俺も極限ついて行くぞパオパオ老師!」
「「何時の間に被った!?」」

先程までひょっとこの面だった筈のレオンが、何時ぞやの象の被り物に変身している。
たったそれだけの変化に何を勘違いしたのか、了平は師の後を追って行った。

「全く、自由人共め………ん?」
「どうしたの?」
「さっきの男、何か落としたぞ」

数秒前に店を横切った、自分達と同い年くらいの少年。そして店の前には、その少年の物と思われる黒い物体。
拾ってみると、なんと財布だ。これは返さねば少年が後で困るだろう。
だが今席を外せば、どちらかが店番を一人でこなさなければいけなくなる。

「いいよ鳶尾さん、渡してきてあげて?俺より足速いんだし」
「…すまない。すぐ戻ってくる」

そう言うが早いか、京都は駆け足で少年の後を追った。

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