白雪 | ナノ
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本音を言えば、日本の鍛冶屋に頼みたかった。日本の武器は日本人の手で作ってほしかった。
だが此方の日本は自分の世界より銃刀法が一際厳しいため致し方ない。
輸送も楽で品揃えも良い、マフィア御用達の武器屋に頼るのが一番だった。

『フム、いい刀だ』
『だろ?外国製とて文句は言わせんぞ』

京都の思考を見抜いていたらしい、店主は得意顔でそう言った。
京都の身長に合った長さに、重すぎず軽すぎない重量。
黒塗りの鞘に墨色の下緒。黒い柄巻と鍔。それとは対称的に、白銀の刃が光る。
見事なモノクロのそれは、京都の手にしっくりと馴染んだ。文句の付け所がない。
ビゾラに教わった通り輸送の手続きを済ませて、言われた通りの額の報酬を支払った。

『世話になったな。この刀、ありがたく使わせてもらう』
『いやいや、こっちこそこんなに奮発してもらって悪いのぉ。お前さんのような年頃の娘なら、もっと欲しい物もあったろうに』
『残念ながら私にそんな華やかな趣味はない。美味い飯・清潔な服・丈夫な刀があれば充分だ』
『あとはスイーツだなぁ"ぁ』
『そうだな。この4つがあれば何も……ってう"ぉぉおおい!!』
『俺のうつってんぞぉ』

いきなり背後から聞こえた声に、今までにない奇声を上げる。
ある程度距離を取って振り返ると、この数日ずっと悩みの種だった男がキョトンとした顔で立っていた。
何小首傾げてるんだ圧し折るぞ。大の男がそんな動作しても可愛くない。心臓が飛び出るかと思ったとは正にこの心情だ。

『…お前、何時から?』
『いや、今来たばっかりだぞぉ。喫茶店にお前いなかったから、此処に来てんじゃねーかって』
『…探しに?私を?』
『ここ最近になって仕事が増えてよ。けど今日は上手い事時間できて、お前に会えるチャンスだったからなぁ』

私に会いに来てくれたのか…?
きゅう、と胸が締まった気がした。今までだって言われた事のある言葉なのに。
局長にも兄にも友人にも、そう言われて嬉しさを感じた事はある。それがこの男だとどうしてこんなに違うのだろう。
浮付いた思いを振り切るように咳払いをすると、京都は何時も通りの口調で言葉を返した。

『そうか、丁度良かった。私もお前に話したい事があったんだ』
『俺にか?』
『イタリアでの用が済んだ。明日昼過ぎに、私は此処を発つ』

そう、この気持ちに気付いてはいけないのだ。
どの道、叶う筈もないのだから。

『そうか、帰んのか…』
『ああ、今まで世話になったな』
『いや、俺もお前と話せて楽しかった』

出来るだけ表情を崩さないように話しながら、プライドは思う。
何時から自分は、こんなに彼女を気に掛けるようになったのだろう?この日が来る事は解っていた筈だ。
なのに、いざとなるとどうしようもなく寂しさを感じる。もっと話したい、もっと一緒に居たい……その時、ふと思い付いた事。

『そうだミツバ。お前、この後何か予定あるかぁ?』
『いや、荷造り以外には特に何もないぞ』
『だったら俺に付き合え』

頭に?を浮かべる京都にプライドは「ついて来い」とだけ言って武器屋を出る。
どうにも拒む気にならなかった京都は、店主に一礼してプライドの後を追った。


――――――――――
―――――――
―――――

向かった先は小さな雑貨屋。外見はともかく目付きや口調の悪いプライドには、何だか似合わない店だ。
そんな店の中へさも何でもなさ気に自分に入るよう促す彼に、京都はいよいよ訳が解らなくなってきた。

『おいプライド、此処は…?』
『ミツバ、ちょっと後ろ向けぇ』

こちらの意見を聞くつもりはないようだ。渋々京都は彼に背を向けた。
ここで素直に後ろを向いたのも、自分がプライドを信用に値する人間と判断した証拠だろう。

『髪触るぞぉ』
「!?」

プライドの長い指が、そっと京都の黒髪に触れた。
顔付きと口調に似合わない優しい手付きに、思わずビクリと肩が震える。
手だけではない。髪を弄っているために、自然と顔も近付いている。
仄かに香る男の香水の匂いと、頭部に感じる彼の息遣いに、体中の血液が暴走しているようだった。

『ん、鏡見てみろ』

目の前に差し出された手鏡を慌てて受け取ると、背後の男の気配が消える。
すると、京都の後ろに大きな鏡があるのが手鏡越しに見えた。
京都の結われた髪で、銀色の髪留めが光っていた。

『餞別だぁ、付けてけ』
『なっ!駄目だこんな高価な物…』
『貧乏臭ぇ事言うんじゃねーよ。俺が勝手に選んで勝手に買って勝手に渡しただけだ。黙って受け取れ。いらねーなら捨てろぉ』

そんな罰当たりな事が出来る筈もなく、肩を竦めて京都は黙り込む。
それを了承と見做したのか、プライドは満足気に鼻を鳴らす。
その態度が癪に障り、京都は彼の腕を乱暴に掴んで髪留めのコーナーから離れた。

『おいちょっ!てめ…』
『これは有難く頂戴するが、タダで受け取るつもりはない。お前にもコレと同じ値段の物を受け取ってもらう』
『はぁ!?何だその自分勝手なこじ付け…』
『ああそうだ。お前も私も勝手に相手にやりたいと思っているんだ。これでお相子だろう?』
『…っ……(その顔はダメだろぉぉ"…っ!)』

京都のニヤリと挑発するような笑みに、今度はプライドが黙る番だった。

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