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ジューンブライド


「あーあ、雨で部活休みとかツイてねーなー。早く梅雨明けろよー」
「罰当たりな。雨が降らねば植物は育たんだろうに」
「そりゃわかってるぜー?雨の後の虹とか好きだけどさ、こうも降り続くとやんなるぜ」
「オフシーズンと思えばいいだろう。室内トレーニングの時期なんだ」
「ぶー…」

雨続きの6月上旬。屋外の部活動の者にとっては嫌なシーズン到来である。野球部の山本もまた然り。
筋トレ場所も他の部が使う日だったため、やむなく本日の部活動は休みになった。
途中の道で綱吉と獄寺と別れ、今は京都と二人で帰路についている。
山本の愚痴を聞いている内に、竹寿司の看板が見えてきていた。

「そう言えば来週からは晴れが続くらしいぞ。よかったな」
「マジ?やっりー…ん?何だコレ、結婚式の招待状?」
「ほう、めでたいな。誰だ?」
「えーっと…おっ、小僧と獄寺の姉ちゃんだ!式は今週の日曜だってさ!」

「……………は?」



ジューンブライド



「おはよう山本君、京都ちゃん。一緒に式場まで行こう!」
「おはよう京子、ご一緒させてもらおう」
「はよっす笹川!兄ちゃんはどうした?」
「もうすぐ来るよ」

とうとう日曜日になった。最初はリボーンの冗談かと思っていたが、どうやら本当らしい。
パーティードレスを着てやって来た京子が証拠だ。だが誰か疑問に思わないのだろうか?
いくらリボーンは大人びているからと言っても所詮一歳児だ。結婚できる年齢ではない。
先日山本に言ってみたが彼は、

―ホラ!見た目は子供、頭脳は大人って言うだろ?きっと小僧もそーだって!

と返したのだ。何処の高校生探偵だと、思わずツッコみたくなったのは言うまでもない。

「あ!お兄ちゃん来た来た!」
「遅れてすまんな京子!そして山本兄妹、極限におはようだ!!」
「はよっす先輩!」
「おはようございます先輩(何時もながら熱い男だ…)」

京子の兄、笹川了平。3年A組、ボクシング部主将。彼と京都が出会ったのは入学式から一週間程経った頃だった。
了平は妹の京子から、京都が学級委員長及び剣道部主将という名声と綱吉達と知り合いという話を聞きつけた。そして彼は京都に朝一で勝負を申し込んだのだ、ボクシングの。
勿論ボクシングのルールを知らない京都は断ろうとしたが、あまりの了平の熱気に押され渋々リングに上がった。
始めこそ京都は彼の殺人級の技に苦戦していたが、空手と柔道のテクニックを応用し何とか持久戦に持ち込んだ。時間切れで試合終了になった時、極限に感動した了平が京都をボクシング部に勧誘したのもお約束で。
後でリボーンから了平もファミリー候補だと聞いた時、妙に納得してしまったのも記憶に新しい。


   *  *


「はひー!」
「ステキ!」
「まじ、キレー…」

式場に通され、控え室で京都達を迎えたのは花嫁姿のビアンキだった。
純白のAラインドレスに合わせ、ブーケも白を基調としている。素が綺麗なため、今のビアンキは何時もに増して美人に見えた。

「ありがとう。私…ずっとジューンブライドに憧れてて、リボーンにお願いしたら何度も頷いてくれて…」
「ジューンブライドいいですーっ!」
「私も憧れるーっ!」

途中で合流した綱吉とハルも控え室に来ており、京子と共にビアンキに見惚れていた。
山本や了平は手続きをしてくれているため、この場にはいない。

「鳶尾さん、俺今からリボーンの所に行くんですけど来ます?」
「ふむ、そうさせてもらう」

新婦の部屋を後にし、綱吉と京都は新郎の部屋までの少し長い廊下を歩いた。
新婦の部屋の戸を閉めたところで、綱吉は遠慮がちに口を開いた。

「ところで鳶尾さん、その…ジューンブライドって何なんですか?」
「…ほう、興味があるのか?」
「んなっ!いや、あの……」
「青春だな」
「かっ、からかわないで下さいよ!」

顔を真っ赤に染める綱吉。あまりに初な反応に、京都は暫く小さく笑っていた。
ひとしきり笑い終えると、京都は深呼吸を一つして言葉を紡いだ。

「ジューンは、ローマ神話のジュノーという女神の名からきている。ギリシャ神話で言うヘラだな」
「あ、なんか聞いた事ある名前…」
「ジュノーは結婚と女性を司る女神。そのジュノーの名が付いた6月に結婚する花嫁は幸せになれる、という伝承だ」
「へぇ〜。素敵な言い伝えですね」
「欧州の方の考え方だがな。将来のために覚えておいたらどうだ?」
「んなっ!あーもー!リボーン、入るぞー!」

京都の解説に関心を寄せていた綱吉だが、からかわれ赤くなった顔を誤魔化そうと新郎の控え室の戸を少し乱暴に開けた。
其処には既に、白いスーツを着熟したリボーンが立っていて、思わず2人同時に「おお!」と声を漏らした。

「馬子にも衣裳ってやつだな!つーか、一言くらい言ってくりゃーいいのに!」
「同感だ、みずくさいぞリボーン」
「…まっでも、おめでと」

どんなに傍若無人でおっかない家庭教師だったとしても、めでたい事に変わりはない。
綱吉は自分の教師へささやかな祝辞を送り、優しく肩を叩いた。

―パキッ…

「「……ぱき…?」」

木の枝が折れるような乾いた音がした。音源はリボーン。
なんと、リボーンの腕がプラモデルの腕の如くきれいにとれている。
途端、綱吉と京都は全身の血が頭から引いていくのを感じた。

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