白雪 | ナノ
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誰も彼も綱吉の意見は総無視である。気の毒で仕方ない。
しかしあの家庭教師が絡んだとなると厄介なので、京都は一旦傍観に回る事にした。
対決のルールは至極簡単だ。
推薦人と代表者の二人で良い所をアピールし、多くの賛同を得た方が勝ち。つまり自慢大会だ。
沢田側の推薦人に獄寺。内藤側の推薦人にマングスタ。先攻は内藤だ。

「では内藤ロンシャンいかせていただきます!俺の自慢は赤点しかとらない事です!」
「ツナもだぞ」
「なっ!」

のっけから低レベルな争いだ。次々に生徒達からの野次が飛んできた。
そんな生徒達の様子に京都は眉を顰める。
確かに二人を見れば文句の一つも言いたくなるかもしれないが、それ以前に自分達は壇上にも出ていないのだ。
一般社会ではそうは上手くいかないかもしれないが此処は中学校。学級委員など特別に辛い仕事な訳ではないし、頭の良さで決まる訳ではないだろう。
京都に言わせてみれば、文句があるなら自分が名乗り出ればいいではないかといったところだ。

「他人任せな奴等だな…」
「そういや京都、何で立候補しなかったんだよ?こーゆーの得意だろ?」
「おい、今日転入してきた奴にクラス代表をさせてどうするんだ」
「何か悪ぃか?カッコいいと思ったんだけどなー」
「…勝手に思っていろ莫迦」

山本と京都が小声で会話をしている内に自慢大会は進んでいた。
女かどうかも怪しい体の大きな女が教室の前に立っていたが、二人の視界には入っていない。
何がどうなったかはよく分からないが、「内藤に任せるよりは沢田の方がマシ」という声が上がっている。
この調子だとめでたく綱吉の学級委員は確定だ。もっとも、めでたいのは獄寺であって綱吉にとっては迷惑でしかないだろうが。
そう思ったところで、ずっと内藤の隣に控えていたマングスタが懐から何かを取り出した。

「ロンシャン君、こっち向いてー」
「ん?」

―ズガン!

乾いた音がして、額から血を出した内藤がその場に倒れ込んだ。
その一連の動作に京都は見覚えがあった。リボーンの死ぬ気弾だ。
額に炎を灯し白目を剥いて復活する綱吉の姿を、この春休み中に何度も目の当たりにしてきた。
あの姿をこんな大勢の前で曝け出してしまうつもりか。そもそも、死ぬ気でどう投票を集めるつもりなんだ。
そう思っていると、倒れた内藤の首下からファスナーが現れ、チーっと音を立てて開かれた。
中から出て来たのは体育座りの内藤。死ぬ気のような荒々しい様子はなく、それどころかベソをかいている。

「…ぐすっ、もうお先まっ暗コゲ…過去もまっ暗コゲ…」
「あれ!死ぬ気って感じじゃないぞ!」
「どうしたんだ内藤の奴、いきなり泣き出して」
「どうでもいいが、特殊弾とは皆脱衣の傾向があるのか…?」
「あれが嘆き弾だな」
「な、嘆き弾!?」

何とも悲惨な名前の弾だ。効果もその名の通りだった。
撃たれた者は一度死に、己を嘆きながら生き返る。何故そんな弾を作ったのか、製造者に是非とも聞いてみたい。
京都達が軽く頬を引き攣らせていると、内藤が鼻を啜りながら口を開いた。

「薄々感付いてるさ、俺の周り舌打ち多いって…」
「(いきなりネガティブー!!)」
「でもね、でもね、こんな俺にも親友はいてさ。何でも話せる最高の理解者だった…――でも去年、そんなポチも散歩中に他界」

犬ーーー!!!
教室内の誰もがそう思った。
そして、内藤に対する同情の声がちらほらと聞こえてくる。マングスタの目がキラリと光ったのを京都は見逃さなかった。

「ありゃ?ツナの負けか?」
「これが嘆き弾の威力だな」
「!?」
「嘆き弾はその悲しみゆえに、周りの人間を同情させる事ができるのです」
「(うわー、満面の笑顔!)」

作戦成功と言わんばかりの顔で綱吉に解説をするマングスタ。その様子に京都は再び眉を顰めた。代表を同情なぞで決める事があってたまるか。
言い出しっぺのわりには大して興味なさげなリボーンが口を開いたと同時に、京都は起立した。

「んじゃあ、A組の学級委員は―」
「待て、異議ありだ」
「(鳶尾さん!?)」
「(よっしゃ!ナイス鳶尾!)」

京都はぐるりと生徒達を見渡した。大勢に語りかける時の、京都の癖のようなものだ。
そしてマングスタと目を合わせると、一呼吸置いてから口を開いた。

「仮にも代表の名が付いているのだぞ。それを個人的な話一つで決めてしまっていいものか?」
「ぐっ!そ、それは…」
「大体推薦人二人、お前達は推薦する人間の意見を聞いたのか?お前達だけで盛り上がっているようにしか見えんぞ」
「なっ!てめー十代目に加勢したんじゃねーのか!?」
「何故お前達に加勢せねばならんのだ?私はあくまで自分の意見を言ったまで。因みにお前も沢田の意見を聞いてないな?」
「うっ……」

痛いところを突かれ、返す言葉がない獄寺。隣では綱吉が理解者ができたと涙を浮かべている。
構わず京都は言葉を続ける。

「確かに、中学校の学級委員など一般社会程重要な仕事ではない。寧ろ面倒で損な役回りだ。だが、曲がりなりとは言え自分達の代表を決めるからには真剣に話し合わねばならんだろう。
 推薦する者は相手の意志をきちんと理解した上で相手を壇上に上げるべきだ。推薦人だけで盛り上がるな。候補者も言いたい事ははっきりと言え。内藤はともかく沢田、嫌なら嫌と言わねば勝手に話が進んでしまうぞ。そして投票者、二人の学力だけを見て文句を垂れるとは何様のつもりだ。学力=代表でない事くらい解るだろう?
 自分達の意志を文字通り“代わりに表す者”を決めるのだ、候補者の意志と人間性を見て選べ。学校内でのこの行事が、将来自分が選挙に参加する事になった時に役立ってくるんだぞ」

一通り話し終え、京都はふぅと息を吐いた。そこでハッとなる。
しまった。いつもの調子でべらべらと偉そうに喋ってしまった。
しかも何時の間にか教卓のど真ん中を占領している。生徒達は皆、呆然と此方を見ている。
真選組参謀としてならまだしも、今の自分は只の中学生。それも転校したての新参者だ。
生意気な口を利いて軽蔑されたのではないか。自分はいいが、綱吉達に要らぬ火の粉が掛かるのは避けたい。
一人悶々と思考を巡らしていると、隣から明るい声が挙がった。

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