青そら | ナノ
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鳴り響く破壊音。逃げ惑う人々。蠢く無数の触手。
江戸の中枢たるターミナルは今、極度の緊急事態に陥っていた。
ターミナルの膨大なエネルギーを苗床にしたえいりあんは、増殖を繰り返してみるみる肥大化していた。幕府の重要建築物であるため、真選組も迂闊に手が出せず後退するばかりだった。
その時である。

『あっ!何だアレは!?逃げ惑う人々を押し切って、何かがこちらへ…』

実況中継に来ていたテレビ局のカメラが、ターミナルに向かって来る何かの姿を捕えた。
レポーターも真選組も、一斉にその何かの方へ視線を向ける。
数秒後、隊士の中から「あっ」という声がいくつか上がった。

『アレは…犬?老人?……いや…侍!?』

颯爽と現れたのは、大きな白い犬に跨った、銀髪の男とお下げの少女。
それぞれ手に木刀や小太刀を持つその姿は勇ましく、まさに侍に見えただろう。
けれど2人はカメラの存在に気付くと、周囲の視線そっちのけでカメラに身を乗り出した。

『あ、これカメラ?これカメラ?えーと、映画“えいりあん VS やくざ”、絶賛上映中』
『初回限定スペシャルDVDも、予約受付中』
『『見にきてネ』』
『なんだァァァァァァ!!あの謎の人物はァァァ!!』

拍子抜けな台詞を残してえいりあんに向かって行く2人と1匹に、思わずレポーターが叫ぶ。
次いで自分達を呼ぶ知り合いの声に、恭は罪悪感を抱きながらも振り返りはしなかった。


   *  *


「恭ちゃんよぉ、逃げるなら今の内だぜ?」
「さっき言った通りです。私かって神楽助けたいんです。もし私を置いてくなら、銀さんかって行かせません」
「…へっ、とんだワガママ娘になったもんだぜ」
「誰の影響でしょうねえ?」
「俺らだな」

ニヤリと笑った銀さんが木刀を抜いた。
けど私は鯉口を切るだけに留めとく。えいりあんの口に入った時に勢いよく切れるように。
銀さんの掛け声で定春が速度を上げ、えいりあんが大きな口を開ける。
よっしゃ私の出番キタ!…と思った瞬間やった。

「あり?」
「えっ?」

上は銀さん。下は私。
でも含む意味合いは違った。
銀さんは突撃早々にえいりあんに食われたから。
私は突撃の瞬間に銀さんに突き飛ばされたから。
結果私だけえいりあんの口を逃れ、一人取り残されることになった。

「…っで、出遅れた!」
「出遅れたじゃねぇよ!寧ろよく無事だったな!?」
「つーか旦那呑みこまれたァァ!!散々カッコつけて呑まれちゃったよオイぃぃ!何しに来たんだァァ!?」
「いかん!また侵食が始まった…恭ちゃん、ひとまず逃げるぞ!」
「何言ってんですか!あの中に神楽がいるんです!やのに何もせんまま銀さんらを待ってるなんて、絶対に嫌ですよ!チクショウ、完璧私の存在無視しよってあの化けモン……駆逐してやる!この世から一匹残らず!!」
「恭ちゃぁぁん!お願い、時間軸ずれるネタ使わないでぇぇ!」
「局長そっち!?」

ギャーギャー騒いでると、えいりあんが奇声を上げてまた進行してきた。
真選組は後退を命令してるけど、私はそんな指示聞く気は全くない。
銀さんは私を助けたつもりやろうけど、置いてけぼりを食らわされた私は今結構怒ってるんや!

「目標目の前!超大型えいりあん!これはチャンスだ!絶対逃がすな!!」
「おいぃいい!何一人でイェーガーしようとしてんだお前ェ!戻って来い!!」
「うるせーですよ!我らは狩人なんです!黄昏に紅蓮の矢を穿つんですよ!!」

ミミズか蛇みたいなえいりあんの頭が一斉に向かってきたと同時に、私も刀を抜いて突っ込んだ。何が何でもみんなと合流したる!やっぱバトル系のヒロインはこうでないとあかんな、うん。
私の顔目掛けて襲い掛かって来たえいりあんを、スライディングで回避する。
そして真上にあるソイツの体に、思いっきし刀をブッ刺した。

―ギャオォォオ!

「っ、うおぇぁああ!?」
「恭ちゃぁぁん!」

気持ち悪い雄叫びを上げた瞬間、えいりあんは頭を高く持ち上げた。
刀刺したままやから、必然的に私も上空へ連れてかれることになるわけで。
私を見上げる山崎さん達を遮って、えいりあんの別の首が次々と私の視界に入る。
えっ……こんなにたくさん一気にとか、無理…

―…弱ぇクソアマが…

「!また…」
―腰抜けに刀はいらねぇ…その身体、俺に寄越せ

「は…?」
─こんな虫ケラ、俺なら一瞬で肉片にしてやる…

「っ、誰が…やるか!」

この緊急事態に何べらべら喋ってんねんこの刀空気読めや!身体寄越せってそんなんしたら私の命ソッコーアウトやろが!
んならちょっとでも生き延びる可能性があるえいりあん駆逐に賭けるわい!
迫って来るえいりあんをギリギリまで引き付け、いい距離になったタイミングで頭に飛び移る。
それを何度も繰り返してなるべく戦闘を避けて、なんとか船に飛び降りた。
怒号や肉を切り裂く音が聞こえる。近くに銀さんらがおるんや、もうすぐ合流できる!

「っ!?うぁあっ!」

声のする方に走ろうとした瞬間、足に触手が巻き付いて盛大に転んだ。
ずるずると口のところへ持って行こうとするその触手を刀で切り落として、迫って来る触手を避けたり切ったりしながら声のする方に走る。
スライディングの時から思ってたけど、ローファーって動き回るのに超不向き!次から絶対スニーカー履く!
遠くからゴゴゴーって大きな乗り物の音が聞こえて、ああコレ松平のとっつぁんの船かな?って思ってた、その時やった。
突然、右手と頭に衝撃。

―……もういい、テメェにはうんざりだ。さっさとくたばれ

「…………え………は…?」
―ああ、なるべく原型留めたまま死んでくれ。俺が後で使うんだからよ女のガキの体なんざ胸糞悪ぃが、背に腹は代えられねぇからな


やば、
みすてられた
静電気の10倍くらいの痛みが右手に走り、滑り落ちていく刀。
次いで頭に直接聞こえてくるあの声。警報が激しく鳴り響く。
丸腰の私がこんな所にいたら確実に死ぬ、早く逃げろ――
その警報に従い足を動かそうとするけど、髪が何かに引っ掛かったように動かない。
しかも容赦なく引き寄せられ、ぶちぶちと何本か髪の抜ける音がする。
固定された頭でできる限り振り返ってみると、長い私の髪に噛み付くえいりあん。
背筋が凍った。

「――っ!?ひ…っ…」
「恭っ!!」

勢いよく引っ張られ、宙に放り出される。
総悟の大声なんてレアなものが聞こえたから下を見ると、見えたのは真選組のみんなじゃなくてえいりあんの大きな口。
――私、ここで死ぬんかな…

今まで死ぬかもって体験は2・3回ほどしたし、臨死体験的なこともした。
あの時は純粋に恐怖しかなかったけど……今は何か違う。
何で死ぬ直前にこんなキモい奴見なあかんねんとか、あのナマクラ好き放題言うた挙句に職務放棄しよってとか、まだ銀さんに言いたい事言えてへんとか…
怒りとも悲しさとも違う、胸を燻らせる熱い“何か”
――ああ、私………

目の前の暗闇と同時に、私はその“何か”に全身をゆっくりと呑み込まれていった。
拳に熱が灯るのを感じながら…

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