青そら | ナノ
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▽ 子作りは計画的に

子供みたいな純粋さを、大人になっても保てる人はそうそうおらん。
私がそれを失ったんは、中学に上がった頃やった。
怖い不良を目撃したとか、誰かに虐められたとか、そんな大きな事とはちゃう。
ただ――自分の悪口を聞いてしもただけ。
虐めに発展するほどでもない細やかな愚痴。でも当時の私には酷いショックやった。
何時も優しく接してくれてたのに、心の中ではそんな事思ってたん?仲良くしてくれてたあの笑顔は嘘やったん…?
人間には表と裏があるという事を思い知った瞬間やった。

私が“自分”を隠すようになったんはそれからや。
会話は何時も聞き手、殆どの人は苗字にさん付け。部活のメンバーも何度も指摘されて漸くあだ名呼び。
他人とは一歩距離を置いて、揉め事をなるべく避けるようにした。
他人が嫌いやからじゃなく、嫌われるんが怖かったから。好きにならんでええから拒絶せんとってほしい。
そうやって欲を押し殺して、建前だけの表情で“自分”を守ってきた。
本当はもっと呼び捨てにしたいし、冗談で叩き合ったりしたいし、本音を言いたい。
誰かを好いて好かれて、触れたり抱き締めたりしてみたい…――


―ぎゅむっ

「っ!」
「そんなカワイイお願い、いくらでも聞いちゃうアル」

腹部に優しい衝撃が来て、見下ろすと神楽が私の胸元にすりすりしてる。
え、ちょ、何この可愛い生き物!

「恭さん、恭さんの世界の事よく知らないけど、こっちは物凄く個性的な人達ばっかりです。我慢してたらキリがないですよ。恭さんも個性剥き出しにして対応して下さい」
「じゃねーと新八みてーな地味キャラに堕ちるぞ」
「僕みたいなってどういう事だァァ!」
「新八落ち着いて!あ、じゃあ銀さん、早速いいですか?」
「!おう」

何処かワクワクとした3対の目が自分に集中する。
この世界に来てからずっとやってみたかった事――怒られへんかな?笑われへんかな?
けど折角ここまで言ってくれてるんやから、どんな些細な事でも言いたい。
さあ、始めの第一歩。


「銀さんの髪…触らせて?」



作りは計画的に



天然パーマは俺のコンプレックスだ。
どんなに整えたってボサボサ頭にしか見えねーし、湿気の多い日は更にうねって鬱陶しい。
おまけに頑固なこの髪にはストパーも効かねーから手の打ち様がねぇ。だから嫌いだ。
けど、恭はこの髪を好きだと言った。
自分のストレートな髪は昭和みたいで古臭いし面白味がない。パーマを当ててもすぐ戻る。
ふわふわで触り心地が良いこの髪が羨ましいと言って、嬉しそうに俺の髪を撫でていた。
からかわれた事はあっても羨ましがられた事は殆どなかったから凄く新鮮で。撫でる手が気持ちよくて…
この後暫く、恭の掌に頭を預けてずっと撫でてもらってた気がする。

以上、厠の中にて回想終わり。

「あだだ、強くふき過ぎた。やっぱウォシュレットつけねーとダメだコレ…アレ?今誰か出てかなかった?」
「ああ、神楽ちゃんですよ。何か電話とった後、慌てて出て行きましたけど…」

流して厠を出ると、玄関と居間の戸が開いていた。
居間に戻ると定春はソファで寝ていて、新八はテレビを見ている。恭はバイトで朝からいない。
あの神楽に慌てた用事って、一体何があんだ?

「実家からじゃないスか?帰って来いって電話来たのかも」
「そいつァいいな。うるせーのがいなくなって清々するァ」
「それよりコレ、銀さんも気を付けて下さいよ」

あ、でも神楽がいなくなったら恭が寂しがるだろうなぁ。
「拙者拙者詐欺」とデカデカと書かれたテレビ画面を眺めながら、ふとそんな事を考えた。

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