青そら | ナノ
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▽ 3

「お前何してんのォォォォ!?」
「買Sリさァァん!」

余りにカチンときたもんだから、思わずメガトンパンチを喰らわせてやった。
恭ちゃんが慌てて駆け寄る中、俺は再度副長に電話を掛けて報告をする。行方不明だった筈のゴリラがいた、と。
彼女の話をゆっくり聞いてからと思ってたけど、どうやらこのバカを連れて帰るのが最優先みたいだ。

「ゴリさんしっかりしぃ!ちょっとジミーさん!何て事するん!?ゴリさんは私と同じ記憶喪失の人で、頭はデリケートに扱ったらんとスグ飛ぶんや!初期ファミコン並みなんやで!」
「記憶喪失ぅ!?」

ガキョンと手元のケータイを思わず盛大に握り潰した。あーデザイン気に入ってたのに…って違う!

「マジですか局長ォ!アンタ馬鹿のクセに、何ややこしい症状に見舞われてんの!?馬鹿のクセに!!」
「言いすぎやジミーさん!アホはアホなりにアホな悩み抱えてんねんで!」
「うるせーよ!もうダリーよ!めんどくせーよおめーら!とにかく一緒に帰りますよ局長!」
「やめろぅ!僕は江戸1番のジャスタウェイ職人になるって決めたんだ!何でもいいから1番になるって、おやっさんと約束したんだ!」
「だったら安心しろ、お前は世界一の馬鹿だ。さっ、早く」

嫌だ嫌だと駄々をこねる局長を引っ張って、持っていたジャスタウェイを一つ放り投げる。
ったく、何で俺ばっかこんな目にゴォォン!………あり?
え、今何が爆発したの?さっきのタイミングだと………あれ、ジャスタウェイ?ちょっ、え…?

ドォン! ドォン! ドォン!!

「「「ぎゃああああああ!」」」
「嘘ォォォ!?ジャスタウェイがァァ!!」
「そんなァァ!僕ら爆弾を作らされてたってのかァァ!?」
「そんな、まさかホンマにおやっさんがこんな恐ろしい事………確かに、幕府の所為でリストラされたとか、あいつら皆殺しにしたるとか何時も愚痴ってたけど…まさか……?」
「まさかじゃねーよ!!ひょっとしてさっき言おうとしてた続きってそれ!?超一流の食材が揃ってんじゃんかァァ!!豪華ディナーができあがるよ!」
「悪いのはジャスタウェイではない!悪いのはおやっさんであって、ジャスタウェイに罪はない!」
「局長ォォ!まだ持ってたんスか早く捨ててェェ!」

恭ちゃん、そういう物凄い特ダネはもっと早く言ってェェ!っていうかソレ聞いて平然としてる君って何者!?
そして局長この期に及んでまだ後生大事に持ってたんかィィ!今正にソイツらが暴発を繰り返してるってのに!
振り返ると、真剣を持って追い掛けて来た工場長と手下。とうとう尻尾出しやがったな!でもこのままじゃ捕まるのは時間の問題だ。

「ジミーさん屋根(こっち)や!」
「おやっさんとはやり合えん。なんやかんや言っても恩がある!」

局長と恭ちゃんに続いて、俺も排水管に飛び付いて屋根へとよじ登る。
けど後少しというところで、工場長が俺のいる辺りまで飛び上がってきた。ヤバい!斬られる――

―ガゴン!!

「ぐがぱッ!」
「果てろ」

―ドォォォン!!

疾風迅雷。山崎に斬りかかる工場長に、近藤がドラム缶を投げ付ける。
弱肉強食。顔面に食らった工場長は、敢え無く地面に叩き付けられる。
悪逆無道。某漫画の登場人物の声を真似た恭が、トドメとばかりに無数のジャスタウェイを投下する。
電光石火。これが――山崎の背後、僅か5秒の間に起きた出来事だった。

「……ってオイィィイイイ!!やり合えないんじゃなかったのかァァ!?おもっクソ殺っちゃったじゃないか!大体上の文章何ィィ!?別の漫画のキャラと別の小説の文面がコラボってたぞ!声も文もほぼ丸パクリだったぞ!」
「はて、何か俺達変な事言ったっけか今井ちゃん?」
「アカンわ思い出せへん。記憶喪失やしな」
「便利な記憶喪失だなオイ!」

火の海を目の前にあっけらかんとしている2人に、助けられた事も忘れて思わずツッコむ。
ってか恭ちゃんうまっ!獄寺君の声真似うまっ!そんな特技持ってたなんて知らなかったんだけど!

「――動くんじゃねーぞ」
「「「!?」」」

その時、背後に現れた工場長。喉元に刀を当てられてて身動きが取れない。
やっぱりこの工場の黒い噂は真実だったみたいだ。前の2人、特に恭ちゃんは青褪めた顔で立ち竦んでいる。
あーごめんね恭ちゃん、怖いもの見せちゃって…。


   *  *


赤黒い巨大な大砲、名前を蝮Z。そのすぐ隣に縛り付けられている近藤・山崎・恭の3人。遠くにいる黒服の団体が戸惑った顔をしているのが解る。
恭がずっと俯いて震えているのが分かる。先程工場長が山崎に刀を宛がったところを見て、怖くなったのかもしれない。

「…大丈夫、ジミーさんの所為ちゃうって。私が勝手にビビってるだけやから」
「!で、でも俺が隙見せたから、みんなこんなヤバい状況になったんだし…」
「ううん、確かに今のコレも怖いけど、さっき私がビビったんはおやっさんの顔……あの人さ、仕事以外では怒った事ない優しい人やったんよ。私みたいなんにも親身になってくれた、筈の…それがさっき、物凄く怖い笑い方するおやっさん見て、自分の野望の為に私ら騙してたんやって気付かされて…
 今までのは演技やったんやって解ってショックで……………ああ、私また裏切られたんやって………」
「…また?」

“また”とは何だ。記憶喪失の恭に、またという記憶が何故あるのだろう?
まさか、彼女の記憶が何かをヒントに甦ろうとしているのか?一体何がヒントになのだろう?
その糸を手繰り寄せたくて、山崎は彼女の方に身を乗り出した。
――刹那、撃ち込まれた一発の砲弾。
シリアスシーンをぶち壊して放たれたそれは、自分の仲間である筈の真選組からのものだった。

「撃ったァァァァ!撃ちやがったよアイツらァァ!」
「ちょォォォ!何なんあの人ら!ホンマにジミーさんらの仲間ァ!?」
「仲間じゃねーよあんなん!局長、俺もう辞めますから!真選組なんて…アレ?局長?」
「オウ、ここだ。みんな大丈夫か?」
「局長ォォォォォ!アンタが大丈夫ですかァァ!?」

山崎が辺りを見渡すと、屋根に服が引っ掛かり宙吊り状態の近藤がいた。その頭には木片が刺さっている。自分の身に何が起こっているか解っていないらしいが、近藤の眼は何処か昔の色を取り戻しているようだった。

「まるで長い夢でも見ていたようだ」
「!ひょっとしてゴリさん記憶が……ってか頭…」
「ああ、まるで心の霧が晴れたような清々しい気分だよ。山崎、色々迷惑かけたみたいだな」
「いえ…ていうか……頭…」

頭の木片はそのままに近藤は屋根から降りようとするが、そこへ山崎が引き留めた。
先程の衝撃で、山崎が縛り付けられていた看板は屋根から離れたが、恭はまだ固定されたままだった。

「山崎、後ろから押せ!」
「はい!」
「!何してんのジミーさん、ゴリさん!はよ行かな連中に気付かれんで!」
「だから自分を置いて行けってか!ふざけるなよ!大事な友達を見殺しにできるわけないだろ!?」
「意地でも連れて行くぞ!どれだけ腕や記憶が吹っ飛ぼうと!!」
「………」

恭が唖然とする中、バキリと音を立てて恭を拘束していた看板が剥がれる。
その反動で3人が屋根から落ちた瞬間に、真選組の砲撃が開始された。

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