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「恭ちゃんがそうしてると凄くカッコよく見えるわね」
「ありがとうございます乙心さん。でも何か緊張する…」
「全く、何で運転免許より先に帯刀免許なんじゃ。バイクだけならもっと安かろうに」
「「(まだ抜かすかこのジジイは)」」
総悟がプレゼントしてくれた刀用の白ベルト。それをスカートの上から巻いて脇差を差す。
試験に合格したからにはちゃんと刀を差して免許書も持ってなあかんから、財布に忘れず入れといた。
無事合格した事をバイト先の2人に伝えると、乙美さんは凄く喜んでくれた。
で、十さんはあの反応。まぁ私も思ったけど…よし、お金貯まったら今度は単車の免許取りに行こ。
「今日の配達は6件。ここにリストと地図あるから、とっとと行って来い」
「刀狩りがまだうろついてるらしいから気を付けるのよー」
「はーい、行ってきまーす」
2人に挨拶して自転車に跨る。お得意さんばっかやから、地図はあんまいらん。
ちゃっちゃと終わらしてコンビニに物色しに行こ。
* *
試験を受けた日の夜、今までに言われたいろんな人の言葉を整理してみてた。
「その刀は曰く付きの物でな…それを抜いた者は、死霊に取り憑かれるという噂がある。それを腰に帯びた者で、何事も無く平穏に生きた者は一人もいない」
「俺の上司が『コイツが妖刀だ』って煩ェ。だが確かにコイツの目撃情報はある。しかもみんな殺人現場でだ。事情があるみてェだから一応返すが、少しでも何かあったらすぐ屯所(ここ)に持って来い、いいな?」
「あの刀には殺人鬼の魂が入ってる。生前に何百もの人間を殺した奴だ」桂さんの物騒な噂話・土方さんの忠告・黒桜の警告。うん、嫌な予感。
「文句は言わん」て言うたからにはちゃんと使いこなせなあかん。それで気になるんは黒桜のあの言葉。
「力が欲しいからってソイツの誘惑に乗るんじゃねーぞ?」つまりこの刀は相当の力を持ってるってことで、力欲しさに誘惑に乗ったらエラい事になるってことか。
例えば?刀に精神乗っ取られるとか?え、私嫌やで紅桜みたいなんになるの。あれ、ネタバレ?
上等や、私は結構頑固なんや。お前の安い勧誘なんぞには乗ったらへん。どっちが主人かよぉ覚えとき。
「…ナメんなよ……」
―……煩ェ、クソが… * *
「下手人は天人らしい。宇宙最強を目指す武者修行の旅とやらをしているそうだ。実際相当の強者で、幕吏から浪人まで多くの犠牲者が出ているそうだ。死者がいない事は幸いだな」
「そうですか…」
「折角帯刀資格を手に入れたのだ。奪われぬよう用心しておくことだな」
「はい、ありがとうございます桂さん」
配達が終わって店への帰り道、途中で桂さんに会った。今日はお一人みたい。
無事試験に合格した事を報告したらめっちゃ驚かれてめっちゃ褒められた。そんなに難易度高かったんや…。
そっからさり気なく刀狩りの話を聞いてみて現在に至る。正直、まだ地球におるんかいって感じ。とっとと出てけや。
「結構しぶといですね。そんなに欲しい刀があるんでしょうか?」
「らしいな。何でも、星をも切り裂く妖刀だとか」
「(パチモンやのに、気の毒…)凄いですね。でも、そんなん地球にあるようには思えないんですけど」
「同感だ…そう言えば恭、お前のそのかたn――!!」
急に私らの足元が暗くなって、桂さんの言葉が途中で切れた。
上を見上げると遥か遠くの方に黒い影…が、物凄い勢いで落ちて来る。こっちの方に。
「恭!」
―ドゴォォオオン!
間一髪ってとこで桂さんが腕を引いてくれて衝撃は免れた。
2・3歩先の地面は陥没してて、濛々と土煙が上がってる。その中心に大きな影が見えた。
ああ、本格的に嫌な予感…
「…小娘、その刀何処で手に入れた?」
お前、その台詞一体何度目ですか?そう言って何本も人の刀ぶん取ったんやろ?
でも今回は正解な気がする。もしかしなくてもこの刀…ああ、何ちゅーもん渡してくれたんよ黒桜…
「漸く見付けたぞ――妖刀“星砕”!」
* *
昔々、死者の魂の中にとんでもなく厄介な男の霊がいました。
その男は戦う事が好きで、生前はずっと戦場で血を浴びる毎日を送っていました。
体中に矢が突き刺さり自分の首を刎ねられても、男は刀を手放しませんでした。
地獄に落とされても男の戦いへの欲求は途絶える事はなく、毎日愉しそうに暴れ回り遂には閻魔様も匙を投げてしまいました。
これに困った守人達は、いっそのこと男を付喪神にしてしまおうと決めました。
本来付喪神とは、心の清い人の魂を古い道具の中に住まわせて、小さな神様としての新しい命を与えるものです。
しかし神様達は、この儀式を悪い魂を封印するために使いました。
生前男が使っていた短い刀に男の魂を閉じ込めて、人間界の暗く狭い倉庫の中に隠してしまいました。
それでも男は戦う事を諦めません。悪い魂ならば悪い魂らしく、悪いオーラを出せばいいのです。
まんまと引っ掛かった人間の体を乗っ取って、男は再び人間界で暴れ始めました。
何度器が死に絶えても、何度守人に捕まり閉じ込められても、男は戦いを辞めませんでした。
しかし何度目かの再スタートの時、男は全く身動きが取れない事に気付きました。何と神様に先に持ち主を決められていたのです。
持ち主は見るからに弱そうな女の子。それなのにどんな能力を隠しているのか、全く意識を乗っ取る事ができません。
歯痒さと悔しさで、男は数百年振りに怒りを覚えました。そして強く誓いました。
「ガキを呪い殺し、身体を手に入れる」
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