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▽ 親子ってのは嫌なとこばかり似るもんだ

狂乱の貴公子、桂 小太郎。
彼は“逃げの小太郎”“命冥加”の名でも有名だった。
その名の通り、彼は幾多の追手を振り切り警察の目を掻い潜り、どんな牢獄からも脱獄してきた。
逃亡の分野では、かぶき町のルパン3世と言ってもいいかもしれない。

そして今日も、彼は僧に成り済まして追手をやり過ごしていた。
最大の特徴である黒い長髪はそのままなため些かお粗末な変装だが。
漸く振り切ったかと思った頃、自分を見下ろす視線に気が付いた。

「誰だ?」
「…ククク。ヅラぁ、相変わらず幕吏から逃げ回ってるようだな」

女物を思わせるような派手な着流し、唾のない黒鞘の刀、片手の瓢箪。
そして特徴のある、この男の笑い方。
知っている。この匂い、この雰囲気、この男。

「ヅラじゃない、桂だ。何で貴様がここにいる。幕府の追跡を逃れて京に身を潜めていると聞いたが?」
「祭りがあるって聞いてよォ、いてもたってもいられなくなって来ちまったよ」
「祭り好きも大概にするがいい。貴様は俺以上に幕府から嫌われているんだ、死ぬぞ」

袂から煙管を出した男に、桂は鋭く言い放つ。
しかし男が次に発した言葉に、彼は少なからず目を見開いた。

「よもや天下の将軍様の参られる祭りに、参加しないわけにもいくまい…」
「!お前何故それを…まさか…?」
「そんな大それた事をするつもりはねーよ。だがしかし面白ェだろうなァ…」

一旦言葉を区切り、男は煙管に口を付けた。
男は楽しそうだった。
口角を吊り上げて、楽しそうに笑っていた。

「祭りの最中に、将軍様の首が飛ぶような事があったら…幕府も世の中もひっくり返るぜェ?」
「………」
「ククク…ハハハハ!」

声を上げて笑う男を、桂は険しい表情で見詰める。
男は愉しそうだった。
緑の眼を細めて、愉しそうに嗤っていた。



子ってのは嫌なとこばかり似るもんだ



「お祭?」
「そうよ。開国二十周年の記念祭なの」
「うちも出店やるんですか?」
「ええ、勿論よ」

いつも通りバイトに行って商品の配列をしてたら、乙美さんがそう言ってきた。
え、うちもやんの?こんな変な薬一杯置いたあるだけの店が?って思たけど、うちはどうやらお祭り会場の端っこでフリーマーケットをやるくらいらしい。
古着とか小物とかを売ってる隣に変わった薬を並べといてあわよくば買うて貰おうって魂胆…ってオイ。
でもこれが一部の人達には人気があるらしい。何一部の人達って、魔術士とかマフィアとかか?

「恭ちゃん。悪いんだけどお祭りの時、出店に来てくれる?」
「勿論!行かせてもらいますよ」

記念祭かァ〜、例のあの人が出て来る話やな。まぁどうせ私がおったとこで何かが変わるわけやないし、せめて邪魔にならへんように遠い場所にいとこう。

「ありがとう。浴衣は私が用意しておくわね」
「え?」
「折角のお祭りなんだから浴衣じゃなきゃ。もしかしてもうお登勢さんに貰ってる?」
「…いいえ、浴衣なんて全然考えてませんでした」
「あらよかったわ、私が丁度恭ちゃんくらいの年の頃に着てた物があるの。よかったら着てちょうだい」

そう言って乙美さんが可愛い浴衣を出してきた。
薄い黄色の生地に朱い朝顔模様の浴衣に若草色の帯、朱い鼻緒の黒い下駄もセット。
今時のド派手なモンと違って凄く趣がある。これこそ日本の夏の風物詩や。
ちょっと私には勿体ない気もしたけど、他に着るモンもないから有り難く頂いといた。

「じゃあ恭ちゃん、お祭りの時の予定はまた後日詳しく教えるわね」
「はい、ありがとうございます。お疲れ様でした」

3日後かぁ。お祭り行くのなんて久し振りやから楽しみやなー。
あ、3日後って事は銀さんらもう平賀さんに会ってるかもしれへんな。
万事屋に帰るついでに河原に寄ってみようか。

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