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▽ 信号は見る癖待つ癖止まる癖

パン!と鋭い弦の音が響く。観客席から聞こえる掛け声も気持ちいい。
もうすぐ私らの出番や…。

知空高校2年弓道部、今井恭。只今高2最後の公式戦、県大会決勝戦の控え室にいます。
ちなみに現在2月上旬。寒さが尋常じゃない。誰もが息を潜める張り詰めた状況やけどそれどころじゃないでコレ。

「きょん、頑張ってな〜」
「あ、うん、ありがと…」

介添役の友達が励ましてくれた。ありがとう、でも緊張してる訳ちゃうんよね。全身寒さで震えっぱなしで歯もガチガチ言うてる。何か気持ち悪いくらい。
とにかくちゃっちゃと終わらせて温まりたい!

「はい、それでは中に入って下さい」

やっとや。試合が始まりゃ寒さも多少忘れられるわ。チームメイトと円陣を組んで、いざ出陣!!
その時、

―ひらり
「?」

…一片の桜が私の元に舞い降りてきた。



信号は見る癖待つ癖止まる



「ほいじゃ、知空高校の県大会準優勝を記念して、乾杯っ!」
「「乾杯〜〜〜!!」」

時間の流れとは早いもので、ファミレスにて試合後の打ち上げ。ワンコインで買える食事を並べて乾杯です。

「凄かったなぁ、さつきときょん。2人揃って三中やもんな〜」
「ごめんなぁ、ウチも三中してたら優勝できてたのに…」
「何言うてんの。かおるが最初の一本キメてくれたからあたしら三中できてんで?なぁきょん?」
「!うん、そうそう。ほんまありがとうな」

ごめんさつき、あんま聞いてへんかった。気になる事があってさ…。
射場に入る直前、桜の花弁が降ってきてさ。真冬に桜?って思たけど、丁度私の目の前に来たから手に取って見たらその桜――黒かったんよ…
何かで塗った感じはせんかった。ほんまに入る直前やったからすぐ捨ててしもたんやけど…どうしてもあの黒い桜が頭から離れへん。大丈夫か私、どっか具合悪いんか?

「ごめん、私そろそろ帰るわ。親厳しいし」
「あ、うんわかった。お疲れ様〜」

そう適当に理由を作って、私は店を出た。
あー疲れた。みんないい人やけど、どうしても距離置いちゃうわ。私もともと人見知りするタイプやし。キャラ作らずに自然でおれんのは家族とごく少数の幼馴染相手だけ。こんな性格でこの先友達関係大丈夫かな…――
ってあかんあかん、この先ーなんて怖い単語出したら。ネガティブスパイラルに陥ってまう。折角珍しく奈良に雪が降ったんや。ちょっと汚い色になってるけど、踏んで行かへん手はないやろ。
そう思って、私は雪の上を滑らんように歩く事に集中し、そのまま横断歩道に差し掛かった。そして――

その時が来た―――

「!うおっ!」

間一髪で弓を杖にして体勢を保った。危なっ!も少しで横断歩道のど真ん中で転ぶとこやった。このまま弓を使って慎重に渡ろう、と思ったその時――

―ププーーーッッ!!!

どうやら向こうも雪対策を怠ってたらしい。タイヤが滑ってブレーキが効いてない。ってかあれアクセル踏んでへん?ヤバ、轢かれる。
走りたいのは山々やけど、こっちも雪の所為で歩く事すら難しい。そうこうしてる内に、いよいよボンネットが近づいて来た。ヘッドライトが矢で射るみたいに私を眩しく照らす……

「…うそぉ…」

何とも情けない一言。けど…

その言葉が、私の最期の言葉になった………


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