▽ 困った時は笑っとけ笑っとけ
「恭!恭、起きて!」
「…んぅ…?」
「あ、やっと起きた。舟にいる間ずっと寝てたのよ、恭」
「……舟?あれ、ここは……!!」
ぼやけた視界に飛び込んで来たのは良く知っている黒と銀の団服。その服に身を包む、見間違いようのない少女の姿。
それを見た瞬間、私の眠気は吹っ飛んだ。
「リ、リナリー!?…えーっと、おはよう?」
「おはよう恭。もうすぐ教団に着くからね」
何がどうなってんのか分からん。自分は何故か憧れてた世界に存在し、いつの間にか憧れてた人と親しくなってる…いや、もう回りくどい言い方はナシや。どういう訳か、私はDグレ界でエクソシストになってる。団服着てるから多分そうや。
よく周りを見渡すと、私達は舟に乗っていて大きな川を渡ってるところやった。どうやらこれが教団へと続く道らしい。
ふと後ろを見ると、数人の男がおった。しかも私の愛する登場人物トップ3が勢揃いである。
「おはようございます恭。疲れ取れましたか?」
「ちーっす恭、いい夢見れたさ?」
「………」
爽やか&にこやかに挨拶をして私の事を心配してくれている紳士アレン。
手をひらひらしてからかいながら、可愛く笑い掛けてくれる王子ラビ。
無言ながらも、こちらに視線は向けてくれる俺様神田。
舟を漕いでた探索部隊(ファインダー)の人も挨拶してくれた…え、何?みんな私を萌え殺しさせる気?
「昨日はお疲れ様さ恭。大量のアクマに囲まれたって聞いたけど、大丈夫そーでよかったさ〜」
「本当、無事で何よりです。やっぱりカンダと一緒っていうのが悪かったんですよ」
「どういう意味だモヤシ」
「何度も言ってますがアレンです。そのまんまの意味ですよ。こんなムッツリより僕といた方がよかったって事ですよ」
「いい度胸だ。抜け、今日こそその白髪、落ち武者みてーにしてやる」
「上等です。あなたのそのパッツンポニーこそ、ワ●メちゃんみたいにしてやりますよ」
「アレンはユウに焼きもちさ〜恭はモテモテさ〜vv」
私の事で論争するアレンと神田に、さり気に私に抱き付くラビ。
すんません、ブッ倒れていいですか?私の心臓もう爆発しそう。何私?こっちの世界やったら逆ハー?美男子3人が私を取り合い!?
ぎゃァァアア嬉し過ぎるゥゥウウウ!!もうオタク発言やろうが何やろうがかまへん!この3人にやったら何されても全然オッケー!!オタクの世界、発動!!
「あっ!危ない、恭っ!」
「…え?」
―ドンッ!
―バシャアアアン!!
前言撤回。川には突き落とされたくなかったわ。
しかもこの川、案外深いし。何でかどんどん体が沈んでいく。え、ちょ、嫌やで溺死なんて!
「おい今井!しっかり掴まれ!」
神田が差し出してくれた腕を掴んでも状況は変わらへん。意識がまた遠退いていく。
瞼が重い。体が重い。光が眩しい。
何故か水が、物凄く暑く感じる……――
――――――――――
―――――――
―――――
「恭さん!恭さん、起きて下さい!」
「!?」
「あーよかった、恭さんやっと起きた。気絶した上に魘されてたから心配したんですよ」
「………」
私の甘いんか怖いんかよく分からん夢は、新八の一声で掻き消された。
…夢の中で溺死もしたくなかったけど、こんな現実にも引き戻されたくなかったわ。
困った時は笑っとけ笑っとけ
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