BENNU | ナノ


▼ 007 執務室

 麻袋の中に最後のガラスの破片を放り込む。
 執務室に足を踏み入れたときとは、部屋は見違えるようにきれいになっていた。
 床一面に散乱していた窓ガラスの破片はひとつ残らず片付け、細かい破片を残さないよう床もきっちり雑巾で磨いた。上品な薄水色をしている床は、顔を近づければ水面のようにアークの顔を映し出す。埃ひとつ落ちておらず、滑らかな表面が差し込む朝の光を跳ね返していた。
 きれいに片付いた執務室の床を見ながら、アークは満足げに背筋を伸ばした。屈んで床を磨いていたせいで腰が痛い。
 キン、という小さな金属音に、アークは振り返った。レニが指で弾いた鉄礫が、きれいに弧を描いて飛んでくる。反射的にそれを受け取ると、レニがわざと真面目ぶった顔で頷いた。
「うむ、ご苦労であった。大儀であるぞベッセル新米騎士」
「……僕にはもったいないお言葉ですよ、ヴォルテール団長殿」
 窓を割った張本人のくせ掃除をしなかったレニに、幾分力を込めて鉄礫を投げ返した。箒でガラスを集めるのも、床を磨くのも、ほぼアークが一人でやったのだ。
 それを片手で受け取り、レニは座っている椅子の上で気分も上々にふんぞり返った。
「いいねぇ、その呼び方。将来の俺だな」
「その前に礼儀ってものを身に付けるべきだと思うよ。今自分がどこに座ってるか、分かってるのか?」
 レニの腰掛ける革張りの椅子に近づき、それにあつらえた上質な黒木製の机をこつこつと叩く。レニは険しいアークの顔などものともせず、偉そうに足を組んだ。
「愚問だねアーク。お前よりはこの部屋のこと知ってるぜ?」
「だったら」
 レニの耳に手をのばす。レニが頭を逸らすのよりも早く、アークは思い切り引っ張った。
「だったらさっさと立ち上がれ! そこは団長が座る椅子だろう!」
 レニがぎゃっと悲鳴を上げて立ち上がる。恨めしげにアークを見上げながら、レニは耳をさすった。
「いいだろ別に! だってこれ、叔父貴の椅子だぜ」
「だとしても、怒られに来たって自覚を持てよ。まったく、掃除だってやんないし……」
「へへ、いつも悪いなぁ」
 こいつ、絶対反省してない!
 多少の憤りを感じつつ改めて窓を見やり、アークはもったいないなと思った。
 アークは、騎士団長の執務室に足を踏み入れたのは初めてだった。水面のように滑らかな床、繊細な刺繍が施された臙脂色のカーテン、机に上には銀の燭台が明かりを灯す時を待ちわび、暖炉上の壁には柄に宝石を散りばめた豪奢な作りの剣と斧が交差するように飾られている。革張りの椅子も、部屋の壁二面を占領する背の高い本棚も、黒木作りの机に合わせて落ち着いた暗色で統一されていた。
 質素な家に住むアークには、見たこともないような高価な品々だ。しかしそれらはひとつひとつ浮くことなく存在し、調和し、部屋に上品さと重厚さを満ちさせている。
 それだけに、その雰囲気を損なってしまう割れた窓が惜しかった。それさえなければ、部屋はより洗練された空気を持っていたことだろう。
「なぁアーク、いいモン見せてやるよ」
 レニは唐突に、何かを思いついたのかアークを本棚のほうへと誘った。レニは部屋の隅の本棚の前でしゃがむと、最下段の古びた本や羊皮紙の束が詰め込まれた左端から、一冊の本を取り出した。アークもそれを覗き込もうと、レニの隣にしゃがみこむ。
 それは本と呼ぶにはあまりにも雑な作りだった。表紙はただの厚紙、何枚も束ねられた羊皮紙のページは紙の形がばらばらで、それらを革紐でくくってあるだけの簡素なものだ。羊皮紙の切れ端を寄せ集めただけのように見える本の表紙を、レニがぱらりとめくる。そこには、汚いくせ字で様々な事が書かれていた。
 剣の扱い方の注意点、地図の読み方の覚え書き、騎士の心得、はたまた今日の夕食の献立――
 今日の出来事、と銘打たれたページで、レニは手を止めた。やはり汚いくせ字で書かれているが、このページにはところどころ間違った字の上に斜線が引かれ、そばにきれいな字で訂正された箇所がいくつかある。
 しみだらけの羊皮紙を、レニは愛おしそうに撫でた。
「これ、日記?」
「昔、親父がそこの机で日誌を書いててさ。それの真似事をしたのさ。八歳のときかな。我ながらきったねぇ字」
 笑いながらその日記をアークに渡す。そうして自慢の父親との思い出をしゃべり出したレニの話を、アークは途中で遮ることなく相槌を打ちながら聞いていた。つきる事のないレニの話に耳を傾けながら、アークはレニの日記のページを何とはなしに指でなぞる。
 レニの父は、先代の騎士団長だ。多忙だったせいか、あまり家にはいなかった。そのため父親について騎士のことを学んでいたレニは、この騎士団長の執務室で父親ともっとも長い時間を過ごしたのだろう。
 しかしレニの父、ダグ・ヴォルテールはすでにこの世にない。
 国境線付近にある鉱山の町をめぐった争いで、一年前に名誉の戦死をとげていた。
 レニが座っていた革張りの椅子や黒木製の机、本棚に並ぶ本の一冊にも、何か父親を思い起こさせるものがあるのだろう。レニにとって、この部屋にあるもの全てが父親へと繋がっている――同じくすでに亡くなった母親の事を考えると、アークは心に隙間風がふっと通るような感覚を覚えた。
 いつも笑みを絶やさない、温和で優しい女性(ひと)だった。そう聞いてはいるものの、アークにはレニのような思い出がない。そのことが、少しばかり寂しく、切なかった。
 割れた窓から、柔らかな温もりを孕んだ風が舞い込む。頬をなぜるその風に、日記から視線を上げた。レニと視線がかち合う。楽しそうに話し続けるレニに、アークはふふっと笑いをもらした。
「んだよ」
「いや、なんでもない。お前は相変わらずだなぁと思って」
 レニは不思議そうに首をかしげた。
「悲観的にならないところさ。見習いたいよ」
 思いもよらない褒め言葉に、レニは首を傾げた。しかし、すかさずアークは「でも」と言って詰め寄る。
「窓割ったのは、反省するんだからな。いい加減、大人になれよ」
 アークに厳しい口調に、レニは身を縮めた。しかしやはり悪びれた様子はなく、生真面目なアークをからかうようにくっくと笑いを漏らした。
「また小言かよ……かっかすんなよ真面目君。こんな面白いこと、他にないのに!」
「お、面白いだって?」
 呆れからか驚きからか、アークは思わず声が裏返ってしまった。
「我らがノイマン隊長さ。隊長の怒った顔、不細工すぎて。おい、次はよく見てろよ? 皺だらけになるところか、すっげぇ鼻の穴広がるんだぜ……くっ、くはは」
 思い出し笑いを始めたレニに、アークは呆れて文句を言う気さえうせた。こんなにも失礼極まりないやつなのに、剣の腕は驚くほど目を見張るものがあるのだ。ノイマン隊長は悔しくて仕方がないだろう。
「まったく、お前ってやつは……」
「ノイマンで遊ぶのも大概にしておけよ」
 突然割って入ってきた低い声に、二人は驚いた。声のしたほうを向くと、レニがうげっと嫌そうな声を上げた。いつの間にか執務室の扉の所に、大柄な男が立っている。アークは慌てて立ち上がり、こぶしを胸に当て敬礼の姿勢をとった。
 レニの叔父にして現在の王国騎士団(マルアーク)団長、リリ・ヴォルテールその人だった。
 リリは小柄なレニの血縁者とは思えないほど大柄で、がっしりと筋肉のついた屈強な男だった。攻め来る亜人を何度も鮮やかに返り討ちにしたという武勇伝が王都で飛び交い、フラムの生きた英雄とも名高い。リリが一歩一歩近づいてくるたびに、アークの心臓は緊張で走り出した。
 リリが二人の前に立つ。アークよりも背が高い。ただ身長が大きいだけの少年にはない強靭さを感じさせ、どっしりとした立ち姿はまるで強固な壁のようだった。
 リリの団服の胸には、いくつかの勲章が付けられている。そのうちのひとつに、唾を飲んだ。
 小ぶりながらも胸できらりと輝く金の勲章――それは騎士団長であることとは別に、王直々にその力を認められた騎士であることを示している。それを受けたものはフラムの長い歴史でも数少ない、『聖騎士(パラディン)』の称号を持つという証だった。
 アークは身分の高い相手と向かい合う事にまったく慣れていなかった。騎士団長の部屋にいるのだから顔を合わせることになるだろうと思ってはいたが、実際に面と向かうと威厳に気おされそうだ。臆するなと、自分を鼓舞するように背筋をぴんと伸ばし、胸前で敬礼したこぶしをぎゅっと力を込めた。
「あなたにエールの祝福を。ご無沙汰しております、団長」
 そう言って、アークは軽く一礼した。
「貴殿にもエールの祝福があらん事を」
 よく通る低い声でリリが答え、アークに敬礼を返す。アークは緊張していたが、きちんとどもらずに言えたことに安堵した。
 しかしアークの緊張をよそに、形式ばった挨拶はここで終わりとなった。引き締まっていたリリの顔が嬉しそうにほころび、豪快に頭をなでられたのだ。
「アークじゃないか! 久しぶりだな。兄上の葬式以来か」
「は、はい。一年ぶりだと思います」
「そうか、一年か。ずいぶん大きくなったな。もうすぐ俺に追いつくじゃないか」
 一年ぶりの再会に嬉しそうに笑うリリの笑顔は、驚くほどレニにそっくりだった。アークはなでられてくしゃくしゃになった癖毛を、リリの豪快な笑いにあっけにとられながらなでつけた。
「エイジェイは元気か? あいつは体が弱いくせに働きすぎる事があるからな」
 アークは頷いた。エイジェイとは、アークの父親のことだ。
「おかげさまで元気です。今はちょっと、ひとりで厨房に立たないといけないので大変そうではありますけど」
「そうか、すまないな。帰ったらよろしく伝えてくれ」
 少し困ったように苦笑したリリに、しまったと思った。リリは騎士団長なのだ。あれでは聞きようによっては徴兵への不満に聞こえてしまう。僕はなんて失礼な事を――さっと青くなるアークの肩を、リリは力強く叩いた。その衝撃で一歩前につんのめる。
「そう硬くなるな! 旧友の息子で、レニの友達だ。お前も俺の甥っ子みたいなもんなのだからな」
 そう言って、リリはアークがせっかくなでつけた髪をもう一度ぐしゃぐしゃにした。
 アークはそのリリの気さくさに面食らったが、知らなくて当然かもしれない。以前リリと顔を合わせたのは、レニの父の葬式だったのだ。兄の葬式でこんなふうに笑う人などいないだろう。またレニの叔父であると考えると、アークの身分に頓着せず話しかけてくる性格にも妙に納得がいった。
 レニがアークの隣でわざとらしく咳払いして立ち上がると、リリはようやくいたことに気が付いたというふうに驚いて見せた。
「おう、いたのかレニ。小さすぎて見えなかったぜ」
 にやりとした笑いを浮かべるリリは、おそらく確信犯だ。レニは鼻息を荒げながら一歩踏み出し、精一杯背筋を伸ばして敬礼してみせる。
「あなたにエールの祝福を、叔父上。名誉ある騎士団長であらせられる叔父上は、祝福を受けすぎたからそんなにでかいんですか」
「レ、レニ!」
「こらっ、こまっしゃくれた事を言うなよチビすけ。まったく、ノイマンが苦労するわけだ。なぁアーク」
 肩をすくめるリリに、アークは「そうですね」と苦笑しながら頷く。それにレニが不満げな顔をし、ふんと鼻を鳴らした。リリが呆れたように溜息をつく。
「全く、ここに来たいなら素直に俺に言え。わざわざ窓を割って罰を受けに来る必要なんてない」
「叔父貴に借りを作るなんてごめんだね。それに、別に、ここに来たかったわけじゃ……」
「餓鬼が強がるな。どうせまた義姉上と喧嘩したんだろう」
 すっと、レニの赤い左頬に手をやる。ぎくりとしたように、レニが身を引いた。つと、リリが心配そうな顔で甥を見やる。
「……大丈夫か」
「うるせえ。余計な御世話だ」
 だから叔父貴がいる時にここに来たくないんだ。よく聞き取れなかったが、そう小声で呟くのが聞こえた気がした。リリはそれに答えてなのか、ただ「そうか」と一言だけ呟いた。
 リリは先ほどレニが座っていた革張りの椅子にどっしりと腰掛けた。急に疲れたかのように、物憂げに眉間を押さえる。
「朝からお疲れみたいですね」
「評議会から呼び出しにあってな。フラムで総会開かれるんだよ。エイルダーレで立て込んでいた仕事を片付けてから馬を走らせてな、明け方フラムに着いたばかりだ」
 フランベルグの防備の要、城塞都市エイルダーレ。フランベルグ各地にある騎士団の支部の中でもっとも重要な拠点で、国境防衛のために大きな戦力が集められている。リリたち騎士団がそこで亜人たちに睨みを利かせ、フランベルグの壁となって戦っている戦の最前線だ。
 数日間馬を駆った疲れからため息をつくリリに、アークは首をかしげた。
「騎士団長も会議に出るんですか?」
「まぁな。情勢や亜人たちに関する情報が必要とされるとき、それをお偉方との話し合いの場に出し吟味しあうのは騎士団長である俺の役目なんだよ、アーク。それで騎士団の今後の動きも変わってくる。ましてや北はレブリェリから南はベルジェまで、国中の有力者どもが集まる総会だ。団長が出ずに誰が出る」
 アークはリリの言葉を頭の中で繰り返して確かめた。
「戦うだけが仕事ではないんですね」
「そうゆうことだな。なに、騎士団長という地位は名誉な事だが損な役回りさ。忙しいったらありゃしない」
 こらえきれない大きなあくびをしながら、リリは頬杖をついた。目の下にはくまがある。「忙しい」と言ったとおり、かなり疲れが溜まっているようだ。
「それで、総会の内容はやっぱり幽罪の庭のことなんだろ?」
 レニが問いかけるが、返事を待たずにそのまま続ける。
「……仕掛けるのか? フランベルグ側から」
静かなレニの問いかけが、アークの背筋を冷たくさせた。戦が、始まるというのか。
リリの目が、すっと細くなる。
「まだ、そこまでは分からない。だが……聖典改訂から十一年、民草から国の執政者、騎士、フランベルグ内の教会関係者にかけて広く、過度な人間主義が根付いてきている。幽罪の庭が焼けたことで、その者たちは勢い付くだろう。蛮族の聖地は失われた、機は我れらに有り、とな」
 その言葉を実際に耳で聞いたのか、リリは顔を顰めながら憎々しげに言い捨てた。
 リリは過激派を好いてはいない。過激派は、悪戯に同盟国との争いの火種を生む温床なのだ。但し、それを公言することはない。現在のアドナイ(王位)であるセヴル八世は、極度の過激派であり、発言に気をつけなければ首が飛びかねない。その点、リリは上手く立ち回っていると言っていい。
「おそらく、俺の今回の仕事は報告ではなく、王が冷静さを失わないよう諌めることだろう」
 隣で、急にレニが緊張に体をこわばらせた。そんな、まさか。縋るような気持ちでリリに視線を向けると、幾分辛そうに眉を顰めた。
「……今まで、我々は同盟国の攻撃を防ぐばかりで後手に回っていた。これは何故だか分かるか、アーク」
 リリの問いに、アークは頷く。
「騎士団の人員不足で疲弊していたからでしょう? 歯向かうだけの力がなかったんだ」
「その通りだ。だが、今はどうだ?」
 リリがすっとアークを指差す。アークは、さっと血の気が引いていく感覚を覚えた。胃の中に冷たい氷を詰め込まれたかのように体が冷えていく。指先がぴりぴりした。とっさに、耳を塞いでしまいたい衝動に駆られる。その先のリリの言葉が怖い。
 しかし、リリの言葉は無情にもアークの頭に響いた。
「我々は約一年前に徴兵を行った。病気や怪我のない、健康な民たちに兵役を課した。調練も大方仕上がった。失った装備も整いつつある。そしてこの調度良い頃合に幽罪の庭の炎上だ。これを好機にと、気性の荒い狂信者の王が国を挙げての総反攻に乗り出すなんて言いかねない。そうなれば……」
「俺らの初陣がそぐそこかもしれないって事だよ、アーク」
 レニがアークを見てにやりとした。手が震えている。しかしそれは恐怖からの震えではない。武者震いだ。
 戦う気力がみなぎるレニとは違い、アークは頭を殴られたような気がした。戦に駆り出される――最も恐れていたことだ。それが、これからリリが参加する総会で決まるかもしれないのだ。王や評議会、その他大勢の有力者たちの話し合いに、自分の命が左右されるかもしれない。それが、無性に恐怖心をかき立てた。
「だがしかし、少年部隊が前線に引っ張り出されるようなことだけは避ける。それだけは、何があっても俺が許さん」
 リリがアークをまっすぐ見据えながら言った。その真摯な視線に、アークの不安が少しだけ拭われる。
 しかしほっとしたのもつかの間、リリが申し訳なさそうに苦笑した。
「本隊が手の回らないイラの討伐には出てもらうことになるかもしれないが……王都付近ならばガン・ルフト(王都守護師団)が手伝ってくれる。少年部隊に負担はかけさせんよ」
 リリがすらりと口にした、イラの討伐。その言葉に、アークはもうひとつ氷の塊を胃の中に落とされた気がした。
 またあの恐怖を味わわなければいけないのか――
 森でのことが脳裏によぎる。しかし同時に、自分の小心に嫌気がさした。戦う事が怖い、自分にイラが倒せるのだろうか――不安で心がざわめくが、自分はすでに騎士団の一員なのだ。騎士団にいる以上、弱音は吐きたくなかった。
「大丈夫さアーク。イラが相手なら怖くない。俺がちゃんと守ってやるよ」
 イラの討伐と聞いても物怖じしないレニが、励ますように明るい声で言う。
 レニは亜人とは戦った事はないが、長い間父親のそばで見習い騎士をしてきた中で、イラとは何度か戦った経験があった。そこから来る自信と実力は確かなもので、ナキア森では実際にアークをイラから助けている。
「ありがとう、レニ。でも大丈夫。一度経験してるから、次は何とかなるさ」
 言った途端、アークはまたやったと口をつぐんだ。以前もこうやってレニの言葉を突っぱねたのに、自分ではどうしようもできなかったのだ。
 気まずそうにレニと視線を合わせると、レニは呆れ顔だった。
「まーたそう強がりやがって。あのときと同じだ。お前、まだ自分が顔引きつってんのに気が付けないわけ」
 全く、レニの云う通りだ。返す言葉もない。申し訳程度に、引き攣った笑みを返すしか出来なかった。
 レニが鼻息荒くアークに文句をぶつけようとした時、執務室の扉がトントンと叩かれた。三人そろって視線を扉に向ける。しかし扉の向こうの人物はノックをしたものの、リリの返事を待たずに扉を開けた。
「来客中すまない。邪魔するぞヴォルテール」

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