わたしもの






―…これも私の罪なのだろうか。


整備もろくにされていない安宿。

そのベッドに腰掛けながらヴィンセントは深くため息をついた。


その手に握られているのは4、50枚はありそうな書類。


―…WRO本部からの仕事だ。


1枚読むのでさえ目が疲労しそうな、細かい文字の羅列に何か悪意じみたものさえ感じてしまう。

しかし、これを直接私に渡してきた所を見るとリーブ自身、他に知られて困るような内容では無いのだろう。


ああ認めよう。


全く認めたくはないが、これはこれからの私の予定に対するただの逃避だ。

脳裏を過ぎった天真爛漫な少女。

私の記憶が正しければ今日はこの宿にやってくる筈だ。


リーブも人が悪い。


なぜクラウドではなくユフィを伝令役に使うのか。

いや、この場合、仲介として使われているのは私の方だが。


―…私の仕事は単純だ。

この書類をユフィに渡すだけ。


対するユフィの仕事は少し複雑だ。

…それは単に
彼女がWROにそれだけ長く協力していたというだけに過ぎないのだろう。


いずれ自分も巻き込まれる可能性がある。
…今回の仕事がいい例だ。


現に彼女はWROでは非公式とは言えかなりの重要なポストにいる。

発言力はあのリーブと同等。

実際に現場で動いているだけあって隊員達からは絶大な支持がある。

身軽さを売りにしているユフィが部下を持ったり、その権力を行使している所は未だに見たことはないけれど。



『DGソルジャー侵攻における被害状況』

『オメガ発現による世界への影響と調査』



ああ、その主旨は理解しよう。

しかし、嫁入り前の若い娘をそれこそメテオ災害の復興もままならない様な危険な地へ送り出すとはどういうことだ?


いや、ユフィの言い分も認めよう。

確かに

WRO隊員よりは格段に任務の成功率も跳ね上がるし、迅速に任務も遂行するだろう。

WRO隊員が
無闇にその生命を散らすことも、ない。

なにより根は優しいユフィのことだ。

リーブからの要請がなくても自ら立候補したに違いないのだ。

…そう、遅かれ早かれ予測できた展開だ。




しかし、

頭で納得が出来ても感情が収まらない。


…ふ。
この私が感情に左右されるなど。


十中八九ユフィの影響だろう。


しかし、ユフィ

お前のしている事はエアリスのそれだ。

必ずしも無事で済むとは限らない。

残された者の苦しみはお前もよく知っている筈だろうに。


ここ数年、私は人に触れ過ぎた。

そして真っ先に触れてきたのは他ならないユフィ自身だ。



もし、ユフィに何かあれば…

果たして私は平静で居られるだろうか。



トントントン。

扉を軽く叩く音で
私の意識は現実に引き戻された。


「…開いている」


一拍の間を置いて開かれる扉


「やっほーヴィンセント元気にしてた?」


眩しいくらいの笑顔をこちらに向けてくるのは、先程まで思考を独占していた少女。


「…ユフィ」

「んー相変わらず暗いなー」

「…お前も相変わらずだな」


あはは、と笑う表情は記憶と相違なく。

だが、
少し伸びた髪が時間の経過を知らしめる。


そういえば
最後に会ったのは何時だったか。


「あー、それそれ。
リーブのおっちゃんからの書類」


スッと
白い腕が伸びて細い指先が私の胸元を差す


「…大変だな」


…果たして。

書類を手渡す私の手が少し迷うのを少女は気づいただろうか。


「あは、ヴィンセントご苦労さま?」


私の逡巡などには気付かず、ごくあっさりと渡った書類を少女は胸元で確認している


―…そう、書類は渡された

悲しくなるほどの軽い重さで。


「―…何考えてるの?」


見ればユフィがこちらを心配そうに覗き込んでいた。

…心配しているのはこっちの方だ。


「…何時、発つんだ?」

「ん?明日の朝、今日はここに泊まるの」

「そうか…」


それしか言えない自分が腹立たしい。


「…あ。な、なぁ、
ヴィンセント、ご飯はもう食べた?」

「…いや」


こちらの表情に何かを感じ取ったのか慌てて話しかけるユフィに首を振って答える。


「じゃあ下の酒場、行かない?」

「…下で食うつもりか」

「うん」


この宿の1階には酒場がある。

安宿だけあって、
お世辞にも綺麗とは言い難い。

少なくとも
ユフィのような若い娘がひとりで出入りできるような雰囲気ではなかった筈だ。


「…私も行こう」


私はため息を付きユフィの横を通り過ぎた


「なに食べよっかー?」


私の同行に笑う少女。

…それは嬉しそうに。
…とても楽しそうに。

その無邪気な表情を見て、私の口角が意識せずとも上がった。


(…馬鹿馬鹿しい。)


ユフィを見ていると急に自分の杞憂が馬鹿らしく思えるから不思議だ。


そう。とりあえず今夜は…

時間を共有できるのだから、と。














(…いっそ、ついて行くのも手か)

(んー?なんか言ったー?)

(いや…)



†さあ、どう口説き落としてやろう†



ヴィンユフィ
第1弾

ヴィンセントがグダグダ悩む悩む。

「ズルズルズルズル」と。
最初だから甘さ控えめ。

甘いのって難しい?

仕方ないよ甘いんだから
ふたりで居られる人以外
我慢していかなくちゃ!


ACC発売に影響されすぎています。
誰の台詞かはお分かりですよね?


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