bR 聞こえた声


あの会話がなければ、俺達の今の関係はなかっただろう。俺が貴族であるアスベルに気を許すきっかけでもあったあの出来事は、今でも鮮明に思い出すことができた。
アスベルが覚えているかは不明だが。
俺が1人回想の世界に浸っていると、不機嫌そうな声が聞こえた。
「ユーリ、アイスキャンディー。食べるんじゃないのか?」
声の方に目を向けると、アスベルがアイスキャンディーの店を指さしている。
改めて考えると、こいつも意外と甘党なんだよな。
カレーも甘口だし、カフェオレなんかも結構砂糖入れて飲むし。
また考え事で上の空になっていると、今度は脇腹に鋭い痛みが走る。
「いてぇな、おい」
蹴りを放ったアスベルに非難の目線を向けると、アスベルは「さっきのお返しだ」と言って笑った。
どうやら付き合いが長い男友達には遠慮がないらしい。今更だが。
俺は仕方なくアイスキャンディーを売る露店に歩く。と言ってもアイスキャンディーが甘いものだということを考えれば、俺の足も自然と軽くなった。
「いらっしゃいませー……ユーリにアスベルじゃない!明日、卒業試験よね?」
いつもと変わらずテンションの高い店員に少し辟易しながらアイスキャンディーを2本注文する。
因みに、俺がサボった質問への受け答えはアスベルがしてくれるので問題はない。
「凄いなぁ。あ、でもあれから7年だもんね」
「ああ。明日の試験に合格すれば卒業なんだ」
笑って言うアスベルに店員から受け取ったアイスキャンディーを一本渡す。
「ま、そこは親友とか言ってられねぇから明日はライバルってことだな」
「もう、どうしてそんなこと言うかなぁ」
店員はむくれて言ったが、俺から代金を受け取ると笑顔で「頑張ってねー」と相変わらず高いテンションで言って、歩いて行く俺たちに手を振る。
そんな店員から離れながら、アイスキャンディーを口にくわえる。
隣を見ると、アスベルもアイスキャンディーを頬張っていた。
内心で苦笑しながら足早に歩く。
手近なベンチに腰かけると、夕焼けがさっきよりも鮮やかに見えた。意識しない間に少し時間がたっていたらしい。
アスベルはくわえていたアイスキャンディーを口から出して、俺の方を向いた。
いや、正確には俺の後ろを見た。
「ユーリ……後ろ、後ろ」
アスベルに言われるまま後ろを向くと、見慣れた女子生徒が2人視界に入ってきた。
いくら名前を憶えない俺でも、色々と借りを作ってしまったこいつらの名前は覚えている。
「どうしたんだよ、ゴーシュ、ドロワット」
赤い髪の方はゴーシュ、黄色い髪の方はドロワットだ。
言葉使いでも分かるが、外見はこれだけわかっていれば大勢の中でも見つけるのは簡単だ。
そんな2人は俺たち2人の数少ない女友達だ。友達と言っていいのかを疑問に思った回数は数えればきりがないほどだが。
実はこの2人が――おふざけか、はたまた本気だったのかは知らないが――立ち上げた俺とアスベルのファンクラブが、騎士学校内で収まりが利かないほどになっているとかなっていないとかいう話があるのだが、今はアイスキャンディーの最後のひとかけらを口に含んだ直後なので問い詰める気にすらならない。
かなり間が開いたが、俺の問いに答えたのはゴーシュの方だった。
「アスベルに奢ったのなら大して変わらないだろう」
一瞬、なんの事だかわからなかった。
発言の意味を理解しかねて固まった俺に、ドロワットが独特の喋り方で付け加えた。
「うちらにも奢って欲しい……というか奢れ☆」
ドロワットの言葉を10秒ほどかけてゆっくりと理解する。
つまり、こいつらは俺に自分達が喰うアイスキャンディーを奢れ、と言っているのか……。
数十秒考えて俺が出した結論はたった一言の単純な物だった。
……いや、おごらねぇよ。
だが、こいつらの性格上無理だと言ったところで、はいそうですかと引き下がることはしないだろう。
これ以上の出費を逃れようと手元にあるアイスキャンディーの棒を見る。
実に運のいいことに俺のその棒は当たりだったが、あと一本だ。
アスベルの方を向いて、視線で棒を要求する。
意図をつかんだのか、アスベルは俺にすぐに棒を渡した。
みれば、アスベルの方の棒も当りだった。本来ならもう一本貰いに行くところだが、アスベルもいいと言っているので2本の棒をゴーシュとドロワットに投げて渡す。
慌てて棒を取った2人に向けて一言。
「当り棒だ。引き換えにくらい自分たちで行けよ」
俺のその言葉が終わらないうちに、2人はろくに礼を言いもせずに露店の方へ駆けて行った。
相変わらずの自己中さに呆れながら、俺はアスベルに向き直った。
「当り棒は取られちまったし、日も暮れそうだ……帰るか」
俺がそう言うと、アスベルは少し残念そうな顔をしたが、すぐに元の表情に戻った。
「そうだな……って言っても、帰るって言ったってすぐそこの寮に行くだけだけどな」
苦笑するアスベルにつられて俺も笑った。
ベンチから立って、寮のある方向に歩き出す。
2人で帰りながら、俺は後ろから奇妙な声を聴いた気がした。
「気……い……よ。……が……よ」
途切れ途切れの、少女の声を聴いた気がした。

聞こえた
(それは、非日常へと続くカギの一つ)

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あとがき
誰か、文才をくださ((殴
失礼しました。本当に、こんなの読んで下さる皆さんには感謝してます。
すいませんこんなので。本当にごめんなさい。
もっと文章を磨きたいと思います……できることなら。
本当にこんなの読んでくれてありがとうございます!
thank you for reading!

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