※死ネタ注意
あなたと、幾度の冬を越えて。
そして幾度めの春を迎えたでしょう。
幸せな日々はあっという間に過ぎていって、永遠に続きそうな気さえしていました。
けれど、咲いた桜がいつかは散るように。
別れは必ず訪れるもので。
覚悟していたはずなのに、それでもやっぱり私は涙を流すのです。
「……千鶴、泣くな」
「無理です」
私をしっかり抱きしめてくれている貴方はこんなにも温かいのに。
心臓は変わらぬ鼓動を刻むのに。
「……お前が泣いたら、ますます置いていけねえ気になる。俺は俺の信じるもんのためにこの道を選んだのに、本当に間違ってなかったかって思っちまう」
それでも、あなたは私を置いていく。
「なあ千鶴、お前は俺と生きて本当に幸せだったか」
「当たり前、じゃないっ……ですかっ…」
そうか、と小さく貴方が呟く。
「お前に何も残してやれねえ、結局最後までお前を置いていく。そんな俺でもか」
「何も、なんて……そんなこと、言わないっ…で、ください」
あなたが思っているよりもずっと、たくさんのものをいただきました。だから、私は大丈夫です。
私が泣くのは今日だけですから、後は貴方を心配させないようにちゃんと笑って生きていきますから。
だから、今日だけは。
私の涙を拭ってくれるその指がある間は泣かせてください。
「誰かを残していくってのは……こんなに怖いことだったんだな」
ひときわ強く私を抱きしめるその腕は少し震えている。
「もっと、もっと長くお前らと生きたい」
かすれた声で絞り出すその言葉に涙はとめどなくあふれる。
「千鶴。……愛してる」
きっとこれが貴方からの最後の口づけ。
だから私は、忘れないように。
その唇の熱も抱きしめてくれる腕の力強さも、あなたの優しい眼差しもしっかり焼き付けておこう。
あなたの表情も、二人の思い出も全部。一つとして忘れたりはしません。
「私も……愛しています」
指で優しく私の涙を拭ったあとに、また口づけを一つ。
「いつまでだって待っててやるから、できるだけゆっくり来いよ」
「私がしわくちゃのおばあさんになっても、ちゃんと見つけてくださいね?」
そう言うと、当たり前だと返される。
「お前こそ、俺を忘れたりするんじゃねえぞ」
「そんなわけないです。忘れようと思っても、絶対に忘れられませんよ」
だから。
「……来世でも、隣にいさせてくださいね」
「ああ。……千鶴、笑ってくれ。最後に見たお前が泣き顔じゃ死にきれねえ」
あなたがそう言うから、私は笑う。
あなたに心配をかけないように。
大丈夫、あなたが居なくても私は強く生きていきます。
「……千鶴、ありがとう」
そして、彼は灰になった。
春風にさらさらと、桜の花びらと共に舞って消えていく。
あなたが私の中に残してくれたもの。
それを大切に、私はこれからも生きていきます。
だから、あまり心配しないでくださいね。
「歳三さん」
たくさんの幸せを、ありがとう。
薄紅の春が逝く110110
すごくわかりにくいので自分で言います。一ヶ所だけ、土方さんは「お前ら」と言っています。
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