ある旅路で


「シュイアさん、王国とはどのような場所なんですか?」

王国へと向かいながらリオはシュイアに聞いた。

「そうだな。フォード国と言って、女王が国を治めている。まあ簡単に言えば、人が多くてとても大きな国だ」

シュイアは簡易に説明する。

「大きな国‥‥」

リオは今まで小さな村にしか行ったことがない。
それに、ほとんどが野宿の生活と言ってもいいだろう。

ーー大きな国、人が多い。
そう言われても想像がつかない。

「確か、女王には一人娘がいたな。今の王女ーー次期には女王だな」

シュイアは思い出すように付け加えた。

「でもシュイアさん、王国には一体なんの用で?まさかカシルさんの手掛りが?」
「まあ、勘と言うものだな」
「かっ、勘ですか‥‥」

いつも勘で行く場所を決めているのだろうかと、リオは思う。

「シュイアさん、あのー‥‥」

リオがなんだか気まずそうに話しかけてくるので、

「どうした?」

と、シュイアは首を傾げた。

「えっと、カシルさんのことについて‥‥」

リオはカシルという人物について、まったく何も聞かされていない。
何度か今のように尋ねようとしてみたことはあるがーー‥‥

「ああ‥‥カシルが、どうかしたか?」

リオからカシルの話題を持ち出すと、シュイアの表情はいつも暗くなる。

「ーーいっ、いえ!なんでもありません!」

だから、リオはいつも聞くのをやめた。
気にはなるし、知りたいけれど‥‥
リオがカシルの名前を出すと、シュイアはどこか暗い目をして‥‥
なんだか、何かが、おかしくなるような気がして‥‥

結局いつも、何も聞くことは出来ない。

でも、リオは今の生活で満足なのだ。
シュイアと共に旅をし、初めて見る景色をまっさらな記憶に留め‥‥なんとなく流れていく毎日。

ーーそれだけで良かった。

だけど、カシルという存在がいつか、それを崩しに来るんじゃないかと‥‥
シュイアがカシルを見つけたら、この旅は終わりになるのかと‥‥
幼い少女は時折、そんな不安を感じていた。

だから、カシルのことは結局、何も聞けない。
聞いてしまえば全てが崩れるようで。

それに、シュイアに暗い顔をしてほしくないと、リオは思った。

「シュイアさん、王国に着くにはどのくらいかかりますか?」

リオは気持ちを切り替え、笑顔で聞く。

「明日の夜までには着くだろうな」
「あ‥‥明日の夜‥‥じゃあ、今日もまたどこかで野営ですね」

リオは「あはは」と笑った。


◆◆◆◆◆

夜も好きだ。
魔物の活動時間ではあるが、安全な場所にいれば害はない。

静かで、普段は聞こえない葉のささやき。
風の音。
何よりも、静かに物事を考えられる。

今夜もやはり、野営になった。
リオは毛布をかぶり眠っている。

シュイアはリオから少し離れた場所にある木にもたれ掛かり、剣の手入れをしていた。


『り‥‥り‥‥』

夢の中で、不思議な音が聞こえてくる。
鈴の音?虫の声?風の音?

『り‥‥り‥‥お‥‥り‥‥お‥‥』

しかし、夢ではないとはっきりした。
それは、自分を呼ぶ声だと。

「ーー!?誰!?」

がばっーーと、リオは起き上がる。

「あ」

起き上がった瞬間、小さく声をあげた。

「やっと、会えましたね」
「え」

リオの目の前に、幻想的とも言えようーー。
長い銀髪、赤い瞳ーー‥‥天女のようなふわふわと風になびいている衣を身に纏った、美しい、美しい女性。

リオは警戒していたが、相手の『やっと、会えましたね』と言う言葉を思い出し、

「私のことを、知って‥‥?」

小さな声でそう聞けば、

「ええ‥‥とても懐かしい‥‥遥か遠い昔のことを思い出します‥‥」

女性は柔らかく微笑む。

「あなた‥‥私の知り合いだったんですか‥‥?私‥‥昔の記憶がなくて‥‥教えて下さい!私は一体‥‥だれ‥‥」

すると、いつの間にか女性が眼前まで来ていて、彼女はリオの口に人指し指をあてた。

「リオ。私は【道を開く者】です。そしてあなたは【見届ける者】‥‥見届け人となるのです」
「?」

女性がいきなりわけの分からないことを言うので、リオはぽかんと口をあける。

「あ‥‥あなた‥‥もしかしてカシルさんですか?」

リオは思わずそう聞く。
カシルは女性なのか男性なのかーーそれすらも聞かされていない。
だが、女性は首を横に振ると、

「違いますよ」

と、優しく言った。

「そっ、そうですか‥‥」
「ただ‥‥ただ、あなたはカシルに会ってはいけません」
「ーー!?」

リオはその言葉にはっとする。

「あなた、カシルさんのことを知っ‥‥」

女性はまたもリオの唇に人指し指をあて、

「リオ、私はあなたを信じています。あなたなら、きっと‥‥」

さあーー‥‥と、光が差し込む感じがして。
視界が眩しくて、リオは目を閉じる。
しばらくして目を開ければ、

「あれ?」

リオは毛布にくるまって、その場に眠っていた。
いつの間にか朝だ。
ゆっくりと体を起こすと、

「あれ‥‥夢‥‥?」

どうやら先程の女性は、夢の中で会ったのかもしれない。

「お、おかしいな。夢‥‥だったんだ」

だが、リオは不思議に思う。

「本当に、夢?私は【見届ける者】‥‥あの人は【道を開く者】?なんだろう、本当に夢なのかな?」

リオの鼓動がはやくなる、あれは夢なんかじゃないーーと。
なぜだかそんな気がした。

リオはゆっくりと顔を上げ、

「あ‥‥あれ?シュイアさんがいない」

辺りを見回すが彼の姿がないことに気付く。

「またカシルさんを捜してるのかな?」

思い起こされるのは、夢の中の女性の謎めいた言葉の数々。


「起きたか、リオ」
「わっ!?シュイアさんっ」

後ろから声を掛けられ、リオは、はっとした。
シュイアはどうやら食糧を集めに行っていたようで。

「シュイアさん‥‥おはようございます」
「?」

リオの元気のない声にシュイアは首を傾げたが、寝起きだからだろうと、特に何も聞かなかった。

「さあ、リオ。食べたら一気に王国に向かうぞ」
「ーー。はいっ」

リオはいつものように笑顔で答える。


ーー信じています、あなたなら‥‥きっと‥‥

そんな声が少しだけ、頭から消えないけれど。


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