下級天使ハルミナ
私の名前はハルミナ。
なんの力もない、ごく普通の天使。
私たち天使や魔族は人間と違って寿命がとてもとても長い。
私も、見た目はたぶん10代後半ぐらいだけれど、本当はもう少し長く生きている。
天使は争いが嫌いな種族。でも、昔から因縁のある魔族に対しては別だ。
天使は、魔界の存在を無くそうとしている。危険因子として。
それは魔界側も同じなのであろう。
でも、私は争いが嫌いだ。
それに、魔界のことも、私はそこまで悪く思っていない。
私は幼い頃、わけあって魔界で暮らしていた。
恐ろしい魔族が大半だが、私は善き魔族に拾われ、暮らしていた。
その暮らしもわけあって、崩れてしまったが…
でも、幸せだった。
上層部の天使の何人かは、私が魔界で暮らしていたことを知っている。
いや、それ以外でも、私のこのくすんでしまった髪色を見て気味悪がられているが……
だから、私の生活は何かと監視がついていた。
――魔族とまだ繋がりがあるのではないか?
――魔族に天界の情報を漏らすのではないか?
そんな風に、見られているのであろう。
そんなつもりは全くない。けれど、私は疑われている。
だから、たかが下級天使の私なのに、上級天使の一人をリーダーに、その指揮下に入り、共に任務を遂行している。
ただ、私はもう一度、魔界に行きたい。
お世話になったあの人達の安否を、確かめたい。
わけあって、危険な状況の中、離れ離れになってしまったから…
でも、簡単には行けない。魔界へ行くことは禁じられている。
それに、魔界への道は、まず人間界を通らなければいけない。
人間界へ赴けるのは、上級天使の階級を持つ天使だけ……
特殊な羽を持った天使だけ。
今日、私はなぜか天長(あまおさ)に呼ばれた。
天長とは、天界を統べる…神様のような存在。一番偉い存在。
そんな存在が、なぜ、下級天使の私を?
私は疑われているから、何か罰せられるの?
そう思い、私は天長の待つ広間へと向かう。
「下級天使、ハルミナです…」
広間の扉の前、天兵(てんへい)にそう名乗れば、
「うむ。入れ」
そう言い、天兵は重たい扉を開ける。
「天長様、下級天使ハルミナが来ました」
天兵がそう言い、私は初めて広間に入った。
そこで私は驚く。
広間には、上級天使が勢揃いしていたから。
現段階での上級天使は8人。その8人全員がこの場に居て…
その中には勿論リーダーも居た。
リーダーは気の良い人だから、私の方を見てヒラヒラと手を振っている。
私は覚悟を決めて、彼らの前を通り過ぎ、天幕のようなもので顔は見えず、足元しか見えない天長の前へ行き、その場へ膝をつき、敬意を表すように頭を下げた。
その背後で、
「ふん、さすが異分子だな、顔色一つ変えずにこの場に来て我らの前を歩くとは」
そう、上級天使の男の一人に言われてしまう。
それに、私は振り向けない。
(異分子…。やっぱり私は、そんな風に見られてるんだ…)
そう思うと、振り向けなくて、顔向けできなくて、本当は、とても怖かった。
でも、ここではそんな気持ちを顔には出せない、出してはいけない。
怯えれば、ますます怪しまれてしまうから。
だから私は冷静を装って口を開く。
「下級天使ハルミナ、呼び掛けに応じ、参りました」
…と。
そうしてこの日、私は予想外の転機を迎えることとなる。