カトウとテンマ

昨日、ジロウさんとテンマさんが'例の場所'とやらに向かって、私は結構長く外で商売をしていた。
でも、ジロウさんとテンマさんが戻って来る気配は一向になかった。
一体、何をしに行ったんだろう?

私は妙に気になって、今日も朝食を済ませ、朝から家を飛び出し商売へ!…あの銅鉱山へと赴いたのだ。

(まあ、さすがにもう違う場所に向かったんだろうな、二人とも)

私はそう考えながら、銅鉱山の前で商売を始める。
しかし、早朝の為、人通りは全く無い。
有名な場所や、難易度の高い場合ならば、早朝からも人通りはあるけれど。

(ジロウさんはどんなトレジャーハンターになるんだろう?テンマさんはパートナーになってくれたかしら?私も、二人に負けないように、頑張って新米商人から立派な商人にならなきゃな!)

そんなことを考えていると、誰かが銅鉱山へ向かい歩いて来た。
朝から立派にトレジャーハンターかな?それとも旅人かな?

……しかし。

(うっ。…なんか凄く、怖そうな人達だな)

トレジャーハンターや旅人にしては、チャラチャラとした装飾品を身につけ、髪の色を派手な金髪に染めた若い男が三人。

(これはちょっと、商売相手ではないわね、うん)

私はそう思い、目を合わせないよう、荷物の中に詰めた商売道具の確認をする。

……しかし。

「ねえねぇ、君が最近よくこの辺りに居る若い商人ちゃん?」

男の一人が私に話し掛けて来て…

「あっ、はい。そうですけど…」

私は不信に思いながら男の人を見る。

「おっ、ほんとだ、可愛い子じゃん」
「なっ、言っただろ」

後の二人の男が口々に言った。
なるほど、これは品物目当てではなく、ナンパね。
無視するのが一番だわ。

「ねぇ、君、歳は?名前は?」

チャラチャラした男達が聞いてくるが、私は無視する。
しかし、男達はニヤニヤしたまま質問をやめなくて、

「あの、私、今から準備とかするので…」

あまり男達を刺激しないようやんわりと言う。

これが、両親の、

――年頃の女の子一人にそんな危険な仕事をさせられない

…と言う心配なのだろう。

――普通に、うちで店番をしてなさい

…って。
でもでも、私は立派な商人になりたいんだ!
両親の為にも、何より自分の為にも、私を待ってくれている、お客さんの為にも!

――ぐいっ

「えっ?キャッ?!」

すると、男の一人が無理矢理、私の右腕を掴む。

「なっ、何す…」
「暇そうだし、ちょっとくらいいいじゃん。俺らと遊ぼうぜ」

なっ、なんて典型的なナンパ具合!
いえ、そんなことよりも、暇そうだなんて失礼な!
いやいやそんなことよりも!
これは危険な状況!
人通りもないし……

男三人はケタケタと笑いながらぐいぐいと私の腕を引き、歩く。

「やっ、やめて下さい!離して!だっ、誰かっ…!」

私は叫ぶ!
人通りがないのはわかってるけど…

「叫んだって、こんな朝っぱらからこんな場所に人は居ないって」

男の一人が笑いながら言う。
でもでも!私は叫ぶ!叫び続けたのだ!

「誰かー!誰かー!!」
「チッ!うるさい女だなっ!……へ?ぐぁっ!?」

悪態を吐く男一人が、急に間抜けな声を出して、それから、

――ビュンッ!!

なっ、何が起きたのかしら?!
男は何かに吹き飛ばされて、ドンッ、と、遠くの木にぶつかって地面に倒れたのだ!

「なっ、なんだぁ!?」
「ひっ、ひぃ!?」

すると、残りの男二人も何かにビュンッと弾き飛ばされ、同じように遠くの木にぶつかって、地面に倒れた…
死んでいるわけではなく、気絶しているみたいだけど……
何?自然の、力?

私はキョロキョロと辺りを見回し、それから、銅鉱山の入り口に人影があることに気付いた。
昨日の、銀髪の……

「て、テンマ、さん?」

しかし、様子がおかしい。
銅鉱山の入り口で、彼は踞(うずくま)るようにして、動かない。

私は吹き飛んだ男三人のことなんてもう気にも止まらず、テンマさんの元へ走った!

「え?え!?テンマさん!?」

すると、テンマさんは、額から、腕から、足から、ダラダラと血を流していて、重傷を負っていた!

「どっ、どうしたんですか?!いつ銅鉱山に?まさか昨日から!?じ、ジロウさんは!?そっ、それより怪我っ」
「う……うるさい、黙ってくれよ。いいから、どこかへ消えてくれ…」

弱々しい声でテンマさんは言う。

「き、消えてくれだなんて、そんな。で、でも…」
「いいから。また、変な男共に、絡まれるよ?昨日、言った、ろ。君みたいな若い女の子が、男連中に押せ押せ商売しない方がいいって」
「いっ、いえ、さっきのは商売したわけじゃ…、え?」

な、なんでテンマさんがさっきの光景を知ってるの?
距離は結構、離れてるし…

「もしかして、さっきの、テンマさんが助けてくれたんですか?」
「…なんのことかな」
「…ありがとう、ございます」
「だから、なんのことだい」

なぜか、確信があった。
助けてくれたのは、テンマさんだ。
どういった手品かは知らないけれど…

「そ、それより!手当て!消毒!」

私は慌てて商売道具の中から包帯や薬草を取り出す。

「いいよ。大事な、商売道具だろう?…払う気もないし」
「お、お代なんていりません!さっき助けてくれたんですから!」
「だから、なんのこと」

とにかく私は、テンマさんの傷口に薬草を押し当てる。
染みるのか、テンマさんは左目を細めた。

しばらくして、応急処置ではあるが、包帯を巻いたり、絆創膏を貼ったりとする。

「……ねえ、君さ、商人辞めたら?新米くんにも言ったけど、彼と同じで、君も向いてないよ、商人」

テンマさんに言われて、私は、

「わかってます。私、まだまだ新米だし、商人として一人でやっていくのはまだ未熟です。でも…」

私ははっきりと言う。

「でも私は立派な商人になりたいんです。誰かの役に立てるような、立派な商人に。それに、ジロウさんだって、立派なトレジャーハンターになります!」
「……」

しかし、テンマさんは呆れるような顔をした。

「ほんと、君と新米くんはそっくりだ。バカすぎる」
「ええ?!」
「バカだからこそ、新米くんは…」
「そ、そういえば、ジロウさんは?今日は一緒じゃないんですか?」

私が聞けば、テンマさんは首を横に振り…

「彼は、遠い地へ行ったよ。もしかしたらもう二度と、帰ってこないかもね」
「え?」

私は、テンマさんの言葉の意味がわからなくて。

「君さ、もしかして新米くんが好きなわけ?だったら、残念だったね」
「え!?」

次のテンマさんの言葉に私は驚く。

「たっ、確かに、私はジロウさんが好きですよ。でも、職業は違っても、同じ夢を追う…仲間として、徐々に変わろうとしてるジロウさんを見て、憧れるし、好きですし、応援したい!でも、多分、テンマさんが言うような、異性としてとかではありませんよ!第一、私はまだ18ですしっ…そういうのはまだ先……」

私はなぜか必死に叫んでいた。
こういう話は苦手なのだ。

それに、彼氏いない歴18年。
別段、異性をそんな目で見たことはないのだし。

「あー、はいはい。わかったよ」

すると、テンマさんは立ち上がる。
私が大雑把に手当てした箇所に触れながら、ゆっくりと立ち上がる。

しかし、完全な手当てではない。
ただ、傷口を、血をふさぐだけ。
一体、何があったのかは知らないけれど…

「テンマさん、とりあえず病院に行かれては?」
「そんな柔(やわ)なものじゃないよ。なんたって、英雄さん、にやられたからね」
「…?」

私は首を傾げる。
しかし、テンマさんの重傷。
遠い地へ行き、もしかしたらもう二度と帰ってこないかもしれないというジロウさん。

「商人の少女よ、その男から離れるのです!」

背後からそんな、若い女の子の声がして、私は振り向いた。

そこには、見覚えのない小さな女の子。
黒い髪に、紫色のローブを着て、手には丸い水晶の玉を持っている。

「え?え?」

私が首を傾げていると、

――ゴゴゴゴ…

急に、地面が地鳴りを始めた。

「…なんだ、これは。この気は。……魔界。ふ、…はは、そうか、君か……新米くん」

隣に居るテンマさんは、何か不敵に笑っていて…

「て、テンマさん?ジロウさんがどうかし…」

私が聞こうとすれば、

――ゴゴゴゴゴゴゴゴ!

地鳴りは激しい揺れに変わった…!

「なっ、キャッ」

体勢を崩し、倒れそうになった私の肩を、テンマさんが支えてくれたことに私は驚く。
でもしかし、テンマさんは銅鉱山の方を見ていた。

「はは。何があったか知らないが、帰って来たのか……新米くん」

テンマさんはとてもとても、嬉しそうに呟く。

「じ、ジロウさんが?」
「商人さん。君はここまでだ。これ以上、新米くんに踏み込むな。彼は、僕の獲物だ」
「え、え?」

よくわからないことをテンマさんは言い、再び銅鉱山へ入ろうとして…

「て、テンマさん!危ないですよ!怪我がまだっ」

すると、テンマさんはこちらに少しだけ振り返り、

「手当てをしてくれて、ありがとう」

それだけ言って、暗い鉱山へと消えた。

「っ」

何か嫌な予感がして、私は思わず後を追う。
しかし、

――ブォンッ

「きゃっ……」

銅鉱山の入り口に、何か目には見えない壁みたいなものがあって、私は中に入ることが出来ない。

「…結界か。これは厄介ですね」

すると、先程の女の子がいつの間にか私の隣に立っていた。

「け、けっかい?あ、あなたは?」
「私は占い師レーツ。大きな運命の流れを感じ、ここに来ました」
「は、はぁ」

テンマさんと言い、レーツさんと言い、なんだか、人間離れした雰囲気ね。

「でも、そうか……少年、君が居るのか。ならば、少年がきっと、なんとかしてくれるでしょう」
「少年?」

レーツさんはそれだけ言い、私に背を向けて銅鉱山から離れていった…

私は、再び銅鉱山に目を向ける。

(テンマさん……それに、ジロウさんが、居るの?)


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