守人リョウタロウ

いつもなら、特にそこまでの警戒はしない。
この場所は、付近の村の住人しか知らず、温厚な村人は此処を荒らす気配は見えはしないからだ。
しかし、今日は違った。
だから俺は、姿を現す。
もはや、生ける亡霊のような、この俺が…

「…お前は村の…」

黒い髪に、茶色のバンダナを巻いた、まだ年若い少年。
確か、この少年は最近よくこの銅鉱山内で見掛ける、付近の村の住人だ。

「……へ?あんたは?」

少年は俺を見て首を傾げた。
しかし、俺は少年に興味は無かった。少年の気など、存在など薄れる程の気があったからだ。
俺は少年の隣の男に視線を移す。
珍しい銀髪の髪、右目は前髪で隠れ、金色の左目が目を細めて俺を見た。
俺は、

「貴様…」

と、男に言うが、

「なんだい?新米くん。君の知り合い?」

男は少年にそう聞くと、

「い、いや。知らない。ただ、この先が目的の…」
「お前達はこの先に何をしに行く?少年、お前は付近の村の住人だな?この先を侵してはいけないと知っているだろう」

俺が少年に言えば、

「え、あ、いや、別に墓荒ししに行くわけじゃないぜ!悪いことしに行くわけじゃない!…ってか、あんたこそなんだよ?この先を知ってるのは、村の住人だけだが…オレはあんたなんか知らないぜ?」

少年は疑問の眼差しを俺に向けた。
俺は表情を変えずに言う。

「…侵し、荒らさぬと言うのなら、この先に用は無いはずだ、去れ」

…と。

「いや、あの…」

少年が戸惑えば、

「僕らはトレジャーハンターなんだ」

と、銀髪の男が言う。

「え!テンマ、トレジャーハンターやる気になってくれたのか!?」

男の名前はテンマと言うらしい。…'天魔'。
しかし、テンマは少年を無視して、

「かと言って、宝が欲しいわけじゃないんだ。ならさ、君にならわかるんじゃないかな?この先が、何を示すのか…」
「貴様……やはり…」

テンマ、この男は、この先の意味を知っている。
感じるのは、白い気と、黒い気。
ただの人間の若い男の姿をしているが、この男は…まさか…

「だからさ、通してくれないかな?長年、探してたんだよ。ここまで来て、ようやく感じた。そうか、こんな深い場所に隠されていたとはね」

テンマは嬉しそうに笑う。

銅鉱山内。
入り口から少し進んだ先に、隠し扉と隠し階段がある。そこを通らなければ、ここには絶対に辿り着けない。
それに、隠し扉を開けるには暗号入力が必要だ。
それを知っているのは、付近の村人だけ。
新米くん。などと呼ばれる少年が、テンマにこの場所を教えたのであろう。

……なんて愚かな。
しかし、そんな愚かな少年は、純粋すぎるのか、

「あ、あのさ。この先にこの銅鉱山で命を落とした旅人達の墓があるのは知ってる。だけど、本当に墓に用はないんだ。テンマには、長年、追い求めてる夢があるんだ。ただ、それを確かめに行くだけなんだ……だから、約束する!絶対に荒らさない!」

本当に、何も知らない少年はそう言った。
少年は、まるでこれが正義だと云わんばかりに、引く気はなさそうだ。
…仕方無い、ここは、力尽くでも…

「…!」

しかし、俺は、動けなかった。
強い魔力が、俺の足元に絡み付いている。
やはり、そうか。
この力。この、テンマと言う男は…
しかし、こうされては、俺は手出しできない。
だが、見過ごすわけにもいかない。
なんとか俺が魔力を弾こうとすれば、余計に魔力が絡み付いてくる。

(これは……)

俺は、息を一つ吐いた。
所詮、今の俺には力は無い。ここを守る程度の力しかなかった。
しかし、これは予想外だった、予想外の、相手だった。

もはやこの世界で、この流れを止めれる人間など居ないであろう。
戦乱の世は遠い昔に終わり、今では神話となり、戦いを忘れた人間には、どうすることも出来ないであろう。

俺も、世界を本気で守ろうとは思っていない。
もはや俺がどうこうすべきでは、ないのだ。

「…行きたいなら、行けばいい、この先に。そして、その結果に後悔しようと……」

俺が少年を見て言えば、

「通ってもいいんだってさ。行こう、新米くん。案内してよ」

俺の言葉の途中で、テンマは少年の背をトン、と、軽く叩いて促す。

「え?あ、おう…」

少年には、異変はわからない。ただの人間だから。
俺にかけられた魔力だとか、テンマの様子だとか、少年には、何もわからない。

…しかし、少年は戸惑いながらも先へ進む。

その場にテンマは残り、俺を見た。

「まだ生きていたんだね。そこまでして生きる必要があるなんて、可哀想なものだな。今の君は所詮、生き長らえているだけの、無力な人間の一人。可哀想だから、殺さないであげるけど」

そう、俺に言う。

「そう、言うということは、やはり、貴様は…。何をするつもりだ、今更、世界を繋げて、また、戦乱を巻き起こすのか」

俺は'テンマと名乗る男'を睨む。
それに、テンマは口元に弧を描く。
そして、何かを言おうとしたが…

「おーい、テンマ!何してるんだよ、早く来いよ!」

先に進んだ少年の声がして、テンマは何かを言い掛けた口を止め、

「…。……ああ、叫ばなくても聞こえてる。今、行くよ、新米くん」

そう言って、もう俺には見向きもせずに進んで行った。

…利用しているのだろう。少年を。
しかし、僅かに何か、別の感情が混じっているようだ。完全に、利用しきれていないような…

…本気で止めきれない辺り、俺も所詮、今となっては恨んでいるのであろうか。己が運命を。

この世界は平和に見えて、歪んでいる。
神話では'人間の英雄'が世界を救ったとあるが、結局、何も解決してはいないのだ。

今の人間の中で、天界も魔界も、<神話>の中の存在。

しかし、日々……
空では天使が策略し、地底では魔族が策略している。

それぞれの、己が種族の為に…

それを、人間だけが知らない。

天使と魔族が長年策略している間、人間だけが……何も準備をしていない。

英雄はもう居ない。

人間界を守る者は、もう居ない。

<神話>の中の英雄は、朽ちることを許されない体を与えられた。

天界と魔界の争いで、尊厳を奪われていた人間。

一人の優れた人間が選ばれ、その人間一人に託された。

百年も前には存在した生命術師の術により、魂を弄られ、不老不死の身にされ…

かつてこの世界には、英雄が居た。


人間の世界を、守る為に造り出された、英雄が、いた。


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