カトウとジロウとテンマ
数日振りに、私は初心者のトレジャーハンターや旅人が探索する銅鉱山付近の街道に来た。
勿論、商人として、商売のために!
さあ、今日はどんなお客さんに出会えるかしら?
……あれ?!
見覚えのある姿が…
「トレジャーハンタージロウさん!お久しぶりですね!」
それは、新米トレジャーハンターのジロウさんだった。
でも、隣に見知らぬ人が……
「か、カトウだったっけ?その呼び方やめてくれよ」
ジロウさんが言い、
「お隣の方は?」
私は聞く。
珍しい銀髪をした、長い前髪で右目が隠れた男の人だ。
「えーっと、オレのパートナー…」
「予定のテンマね」
ジロウさんの言葉の途中で、銀髪の男の人……テンマさんが言った。
「ジロウさん!パートナーが出来たんですか!?おめでとうございます!」
「いや、だから、聞いてたかい?パートナー予定だってば。仮ね、仮」
テンマさんはそう言ったけど、私は二人の関係を全く知らないけれど、でも!
――…無職みたいなもんだから、あんまトレジャーハンターって響きも好きじゃないんだよなぁ
初めて会ったジロウさんはそう言ってた。
トレジャーハンターなんかやってられるか!って感じで、やる気ナッシングだった!
そのジロウさんが、パートナーを!!
「ジロウさん!やっと、トレジャーハンターにやりがいを見出だしたんですね!?」
「え?あ、いや、……ああ、まあ、そんな感じ」
ジロウさんは照れ臭そうに頭を掻き、
「あんたとかさ、このテンマとか、他にも色々あって……皆の色んな言葉や出会いに、世界ってまだまだ知らないことだらけだな、と思って。まだ、この銅鉱山離れできてないし、まだ自分の宝は何も見つけてないから、新米のままだけどさ」
そう言ったジロウさんは、なんだかキラキラしていた。まるで、楽しんでいる。いや、楽しもうとしている、これからを。
「感動です!感動しましたジロウさん!」
「あんた、大袈裟だなー」
呆れるジロウさんを余所に、私はテンマさんを見て、
「テンマさん!パートナーとして、これからもジロウさんのこと、よろしくお願いしますね!」
「はあ?」
テンマさんは嫌な顔をする。
「なんで僕が……大丈夫だよ、新米くんは僕なんかが居なくても、おバカだし、おバカだし、ちゃんとやってけるさ」
「おい!馬鹿しか言ってねぇじゃんか!?」
そんな二人のやり取りに、私は声をあげて笑った。
「やっぱり!テンマさんが居ないとダメですよ!」
「だからさ。僕と君は初対面だろう?何がわかる……」
「ジロウさんは先日まで、こんな楽しそうじゃなかったんですよ?嫌々トレジャーハンターをしてたんです。でも、テンマさんと一緒でとても楽しそうで!今のジロウさんは全然、トレジャーハンターを恥じてない!」
私はニッコリと笑って言った。
テンマさんは嫌な顔をしたまま私を見て、次にジロウさんを見る。
「え?何?君さ、僕と居て楽しいの?」
テンマさんがジロウさんに聞けば、ジロウさんは顔を真っ赤にして両手をブンブンと振り、
「なっ!んなわけねえだろ!?何を言ってんだカトウ!こっ、このテンマはな!出会ったのは今日なんだぜ!?出会ってまだ半日だぜ!?半日なのにオレに嫌味ばっか言う奴と居て楽しいわけ……」
「ふーん?あ、そう?じゃ、例の場所だけ聞き出してさっさとサヨナラしようか」
「え?!あ、ちょっ!パートナー!あんたはオレのパートナー……予定だろ!」
出会ってまだ半日なのね。
でもでも、全然仲良しにしか見えないわ。
例の場所とは何か知らないけれど、ジロウさんが案内する様子ね。
それなら、
――…ふーん?あ、そう?じゃ、例の場所だけ聞き出してさっさとサヨナラしようか
――…え?!あ、ちょっ!パートナー!あんたはオレのパートナーだろ!
……の会話の流れより、ジロウさんが、
『そんなん言うんだったら、場所を教えてやんないぞ!』
…みたいに言ったらいいのにな。
それを言わない辺り、思い浮かばない辺り…
ジロウさんはテンマさんの言うように、おバカ……コホンッ。
…根っからのお人好しなんだろうな。
だからこそ、私は歳も近いし、そんなジロウさんを応援したくなってしまうのだ!
「あ、ところでお二人さん!今から銅鉱山に行かれる様子ですよね。何か必要なものはありませんか!?」
「ないよ」
「お、おいテンマ。即答かよ」
「じゃあ、新米くんは何か必要なわけ?この初級の銅鉱山内でさ」
「うっ…」
再び言い合いを始める二人に、
「携帯食料とかもありますよ?初級の鉱山でも、お腹くらい空きますよ!」
私はニコニコと笑ったまま言えば、何やらテンマさんは大きく大きくため息を吐いて、射抜くような鋭い右目で私を見遣り、
「…じゃあ、君が欲しいな」
…沈黙が走る。
私はしばらくぽかんと口を開け、
「…………。……え、え?えーーー!!?」
言葉の意味を理解して、顔を真っ赤にして叫んだ。
「え!?テンマなに言ってんだよ!?」
ジロウさんも当然、驚いている。
すると、テンマさんはまた深くため息を吐いて…
「……なんて、言われたらどうするわけ?」
呆れるような声音で私を見て言った。
「え?え?」
「見るからに、君も新米くんと同じで新米商人だろう?ましてや若い女の子。あんまり男連中にそうやって押せ押せ商売しない方がいいと思うよ」
「え、あ…」
私は何も言い返せなくて、視線を泳がせるしか出来なくて…
「おいテンマ。なんてこと言うんだよ。カトウはさ、商人って職に誇りを持ってんだ。……オレは何も知らないけどさ。でも、カトウはオレに教えてくれた。トレジャーハンターって素敵な職なんだ、って」
あれ?あれあれ?
ジロウさんが私を庇ってくれている?
「同じ新米でも、オレとカトウは全然違う。職に対する情熱を持っていた期間が、たぶん、カトウのが先だし上だ。だから、女とか関係ねえよ」
「ふーん。言うね、新米くん…」
テンマさんはそこで、初めて笑う。
笑うと言っても、嫌味な笑いだけど…
「ごめんごめん、商人さん。僕が言い過ぎた」
「あ、いえいえ!私、そういうの気にしませんから!」
私はすぐに笑顔を作る。
だって、女だから危ない、とか、父や母にも言われるもの!
だから、気にしない!
「むしろ、私がビックリしたのは、テンマさんみたいな美形にナンパされたのかと思ってドキドキしてしまったわけですから!」
「……ぷっ!あはは、なんだそりゃ!」
私の言葉にジロウさんが笑い、それから……
「……君も、新米くんと同じで……バカだね」
呆れ口調で言われた。
「まあいいよ。さ、新米くん。案内してくれよ」
「ん、ああ、行こっか。じゃあなカトウ。商売頑張れよ!」
「はい!」
私は銅鉱山へと向かう二人の背を見送った。
…先日は、私がジロウさんを諭したのに、今回は、私がジロウさんに助けられたなぁ。
人の成長って、本当に凄い。
ジロウさんはたった数日で、本当に変わってきた。
私も、負けちゃいられないな。
それに、テンマさん。
嫌味な態度をしているけど、でも、ジロウさんや、初対面の私なんかを心配してアドバイスしてくれている、ような気がした。
うん!悪い人じゃないな!
ジロウさんとテンマさん、きっと、素敵なパートナーになれるはず!