知られざる物語

――かつての時代が終わり、世界は分断され、それからも人間の英雄リョウタロウは老いることのない身体のまま、日々を重ねていた…

(全て、この身に背負わされた……俺一人に)

分断前の世界で自らが英雄となる為に実験された場所――銅鉱山の地下にある実験場。

分断した人間だけの世界で、リョウタロウはそこに身を潜めていた。

人間達はリョウタロウを人間を救った英雄だと称賛したが、リョウタロウ自身はそう呼ばれることに苦悩する。

英雄の剣はもう、誰の目にも触れぬよう封印した。
老いぬこの身。
死ねないわけではないが、自害は考えていなかった。
封印した英雄の剣を、この実験場を、もう誰も見つけられぬよう、番をする道を選ぶ。

――それから。
かつての時代から数十年経った頃。

銅鉱山内にある墓標のある地。
英雄の剣を封印した場所。
そこに一人の少女が訪れ、祈りを捧げていた。

この隠し通路である場所を知っているのは近くにある村の住人だけ。
恐らく、誰かの墓参りなのであろう。
年の頃からして、分断後のこの世界で生まれた少女。

英雄の剣を見守るリョウタロウは、いつだって気配を殺してこの場に訪れる者を見ていた。
誰も気付くはずがない、それなのに…

祈りを終えた少女は顔を上げ、

「君は…もしや英雄ですか?」

……と、岩壁を見つめて言う。
その場所は、同じく隠し通路なのだ。
しかし、その先は実験場に続く隠し通路の為、ネクロマンサーや生命術士しか知らないはず。
しかし、少女は真っ直ぐにこちらを見ている。

それも、英雄と見定めて。

だが、当然リョウタロウは姿を現さなかった。
しかし、少女は言う。

「私は占術士の末裔。この体に流れる血は……生まれた時から君を知っています」

そんなことを、言う。

「君の敵ではありません」

そう言って、少女は寂しそうに笑い、

「君が独り、孤独に戦わされた姿も、ぼんやりと見える。だから君は、こんな世界から…隠れているのですね?」

そう、言った。
年若い少女なのに、達観した話し方をする少女。
それでいて、実際にあの時代を知らないのに、それでもリョウタロウの真意を見抜こうとする少女。

ぼんやりと、リョウタロウはあの時代で自身を理解しようとしていた魔族の少女――メノアの姿を思い浮かべた…


――占術士の遺伝子を持つレーツ。
彼女との出会いこそが、ある意味で、今を繋ぐ架け橋となった。
それでいて、悲しい日々の始まりでもあった。

リョウタロウとレーツ。
二人はそれを承知して、だが…

一人は耐え切れずに逃げ出した…

これは、未来が築かれるまでの、物語。

知られざるリョウタロウの思いと、それを支えた少女レーツ。
そして、リョウタロウの予備として造られた存在や、ジロウという存在にまつわる物語だ。


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