魔族メノア-届かなかった言葉-
遠くから光が見えた。
一筋の閃光。
私を目掛けて……?
戦う力をもたない私にはそれを避けることは出来ないし、ネヴェルも気付いていない。
でも、この娘を守ることなら……出来る――!
ねえ、ネヴェル。
知ってる?
彼――リョウタロウは孤独だったんだよ。
彼は、たった一人だった。
たった一人で、全てを背負わされ、あの結末を導いた。
とてもとても、可哀想だと私は思うの。
きっと今も、彼は後悔しているわ、苦しんでいるわ。
ねえ、ネヴェル。
あなたがいつかそれを理解してくれる日が来るならば、私は安心できるんだよ。
レディルさんも、ヤクヤさんもきっと乗り越えられる。
でも、ネヴェルは優しすぎるから…
だから、そんな顔をしちゃうんだよね。
自分を責めないで、ネヴェル。
'あなたのせい'なんて言葉は一つもないじゃない。
レディルさんが救ってくれて。
ヤクヤさんが見守ってくれて。
カーラさんとフェルサちゃんとミルダさんと友達になれて。
何より、あなたが居てくれて、あなたと生きて、愛し合えて、この娘に出会えて……
あなたは私の手を引いてくれた、離さなかった、ずっと握っていてくれた。
私はそれだけで良かったんだよ。
嬉しかったんだよ。
幸せだったんだよ。
だからネヴェル、お願い。
この娘を守って。
私達の大切な娘を、産まれたばかりの娘を……
私のことはいいから。
私はもう、充分、幸せを感じられたから。
でもこの娘はまだ何も知らないの。
愛も、悲しみも、楽しさも、苦しさも、何一つ知らないの。
だから、この娘の人生を守って。
そして何より、ネヴェル。
あなた自身も、大切にして。
あなたは優しいから。
ねえ、伝わるかな。
私は幸せだったの。
何も、恨んでないの、憎んでいないの。
この地底で暮らし始めた時から私はわかっていたから。
私はきっと、あなたより先に死ぬ。
だって……
魔族の皆、絶望していたから。こんな地底の、何もない世界に。
だから、争いはいつか起きる。
私は……生き残れない。
覚悟はしているけれど、でも本当は悲しいよ、辛いよ。
あなたと、この娘と、もっとずっと居たかったから。
でも、大丈夫。
私は、幸せだった――…
どんな世界になるのかな?
どんな未来になるのかな?
ネヴェル、あなたのことをわかってくれる人達が現れるかな?
あなたは一人じゃないかな?
あなたに真っ向からぶつかって、あなたの手を引いて導いてくれる人達が、どうか、あなたの傍らにいますように。
そして、産まれたばかりの'あなた'。
あなたにもいつかきっと、素敵な巡り合わせが訪れることを、祈っているわ。
もう、何もいらないよ、言葉も、何もいらないよ。
だからお願い、泣かないで。
私の死を、後悔しないでね。
引きずらないでね。
私――本当に幸せだった…!
心から――……
――――……
―――……
――……
―……
『昔の世界』end