幕間

――世界は分断された。
そこまで話し、俺は唇を固く結ぶ。

二人の少年は話の続きを待っていた。
しかし……

ここまでにしておこう。

『え!?』

スケルとタイトの驚きの声が重なった。

『リョウタロウさん、ぜんぶ話すって…』
『そうですよ、まだ、あなたとレーツさんの話すらでてませんし…』
『それに、かんじんのリョウタロウさん自身の話もあまりくわしく…』

二人の少年は当然、困惑の表情を浮かべる。

…本当に、すまない。

やはり俺には、何かを語る権利などなかった…
こんな俺だから、レーツにも、独り辛い日々を送らせ、息子すら、幸せにしてやれなかった…

――…
―――…

『あの険しい顔してるリョウタロウさんが、くるしそうな顔をしていたな…』
『ふむ。まあ、だいたいはわたしの中にあるネクロマンサーの記憶にはあるけど……まあ、確かに思い出したくない時代なんだろうなぁ。ただ、リョウタロウさんの思いとかはサッパリわからないけど』
『…そうか。リョウタロウさんは、どんな思いで魔族と天使の前に立ち、世界を分断したんだろうな』

モグモグと、各自で握ったおにぎりを頬張りながら、スケルとタイトは話す。

『でも、レーツさんなら話してくれるんじゃないか?』
『ふむ。たしかに、あの人なら話してくれるだろうなぁ』
『よし、お見舞いついでにおにぎりもたくさん握っていこう』
『タイトは本当にレーツさんが好きだなぁ』
『スケルこそ、二人のこと好きなんだろ?』
『……さてねぇ。まあ、とりあえずおにぎりを握ろう』

――…
―――…

二人が去り、俺は一人、銅鉱山の底で岩の中に封印した英雄の剣が在る場所に立ち尽くしていた。

もう、見たくもない剣。

つくづく、自分は弱い人間だと俺は思う。

あの日々を思い出せば思い出すほど、俺は罪の意識に苛まれる。

簡単に死ぬことすら許されないこの身。

自身を造り上げたネクロマンサーや生命術士はスケルを残し、滅びていったというのに、俺だけが……


ネヴェル、レディル、ヤクヤ。
ミルダ、フェルサ、カーラ。
そして、メノアだったか。

最後の日に、世界が分断される様を俺の目の前で見ていた彼らの存在を、未だ覚えている。


――…ねえ、私の…私達の祈りは届かなかったの?争いを望まない人の声は、誰にも届かないの?


…いいや、届いていたよ。


――今までは魔族と天使の争いで、人間は隠れて行動していたわ。でも、たった一人、最後の最後に、あなたが現れた。でも、あなただけだった


……メノア、お前は…


――…ねえ、教えて?あなたの意思は、どこにあるの?あなたの本心を聞かせて。そうしたら、皆のこの憎しみは……これ以上、酷いものにならない!あなたも、苦しまずに済むわ


……お前だけは、俺の孤独に、気付いてくれた。
…そうだ。
結局、俺は、全てを押し付けられ、独りだった。

俺は取り返しのつかないことをしたんだ。

魔族と天使は、恨みを募らせているだろう。
殺意を芽生えさせているだろう。

そして…
名も知らない男。
英雄に成れなかった存在…
俺の、片割れのような者。


お前も、今も何処かで俺を……全てを憎んでいるのだろう。

俺は救われるつもりはない。
幸せになる資格すらない。

だが、その生き方が、レーツと息子を…巻き込んでしまった。

俺に出来るのは、こうして世界の行く末を傍観するだけ。
英雄の剣を封印し続けることだけ。
英雄なんて存在が必要ない時代に進んでくれることを祈るだけ。


そう。
争いを望まない者の声――…メノアが望んだように。

彼女が俺なんかの為に一筋の涙を流してくれたこと。
あの時代で唯一、俺を理解した存在。
たった一度のあの邂逅。
それだけが……
沢山のものを奪ってしまったこんな俺の、あの時代での救いだった。


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