立ち寄った国で【ギルド】という仕事があるのをヒロは知った。
依頼をこなすだけで褒賞金が貰えるそうだ。
見たところ簡単そうな仕事もあり、安価ではあるが、試しにひとつ、それを受けてみることにする。

「あのー、ここの項目‥‥異端者ってなんですか?」

ヒロはギルドの受け付けの男に尋ねた。
『異端者の回収』という、よくわからない依頼がある。

「なんだい嬢ちゃん、異端者を知らないって、頭のネジ飛んでんのかぁ?」

なんて、馬鹿にするように男に言われた。
ろくな知識を得られず施設で過ごし、学院では知識に武術に魔術にと授業を受けたが、あの戦で卒業も出来ず‥‥
全部を全部学んでいないし、それにサントレイル国以外の世界を知らないヒロに常識がないのは当たり前だった。

「それによ嬢ちゃん。あんた歳はいくつだぁ?」
「十三ですけど」
「十三!!ぶわははは」

男が今度は大笑いし出したのでヒロは目を丸くする。

「いいか嬢ちゃん。世間知らずにも程がある。ギルドってのはな、十六の歳から請け負うことができるんだ。十三じゃあ歳も足りん。せめて保護者でも居たらいいが‥‥まあ十三のガキにゃあどの仕事もこなせるとは思えんがな」

そう言った後で、男はまた大笑いをした。

(むっ‥‥ムカつく男だわ!)

ヒロは心の中で思う。

(でも、保護者なんてのも居ないし、ギルドは諦めるしかない、か。他に私ができる仕事、あるかなぁ)

はあ、と、ため息を吐き、大笑いする男に踵を返そうとした時、

「保護者なら俺がなりましょうか?いいでしょう、支配人」

背後からそんな男の声がしたのでヒロは振り返った。

◆◆◆◆◆

「あっ‥‥あの、シハルさん。さっきはありがとうございました」

ペコッとヒロは頭を下げて礼を述べる。

「いいよ。あの支配人は俺もあんま好きじゃないからさ」

と、先程ギルドでヒロの保護者役を買って出てくれた男、シハルが言った。

シハルはこの国ーー【武術の国、ソードラント国】出身らしく、ギルドの仕事をこなして生活しているらしい。

「で、ヒロさん。君が受けるのは、本当にこれでいいんだね?」

そうシハルが確認する。
先ほど目についた『異端者の回収』の依頼を受けることにした。
異端者についてシハルが説明してくれて、世界にはそんな人達が居たのか、ということをヒロは初めて知る。

この依頼は付近の村の異端者をこの国まで連れてきてほしいという依頼であった。

(でも、人間なのよね。回収だなんて言い方、なんだか酷いな。それに‥‥連れてきて一体どうするのかしら?)

最終的にこの依頼を選んだ理由は、異端者という人達がどんな存在なのか‥‥それを確認したいが為でもある。

「あの、シハルさん」
「ん?」
「見ず知らず、初対面の私なんかを助けてくれてありがとうございます」
「ああ、そんなこと。言っただろう?あの支配人が気に食わなかったからって」

シハルは笑って言う。
シハルは別にヒロの生い立ち等、何も聞いてはこなかった。
きっと、根っからのお人好しなのか、今回以外にも、こんな風に誰かを手助けして来たんだろうなと感じる。

「ああ、忘れてた。ギルドでは衣類と武器の配給もしてくれるんだよ。その格好じゃ、ちょっとギルドには不向きかもしれないね」

シハルに言われて、改めて自分の格好を見る。
確かに、今の格好はただの普段着であった。

◆◆◆◆◆

剣を携え、赤いマフラーを首に巻き、腰の辺りまで伸びている漆黒の髪をマフラーと衣服の中にしまいこんで、ヒロは新しい生活を始めようとした。

選べる衣類や武器は他にも多々あったが、重そうな鎧や動きにくそうな和装は不向きだと思い除外。
武器は、学院で剣のみ扱ったことがあった為、それを手にした。

(でも、武器なんて使う依頼もあるのかしら)

そう考えながら、シハルの元に向かう。


ーーソードラント国近隣の村。
そこでヒロは初めて異端者を目にし、初めてその扱いを知ることとなった。

「おお、ギルドの依頼を受けてくれたか、気味悪くて仕方なかったんだよ。じゃあさっさとこいつを国へ!」

と、村人が小さな女の子をヒロとシハルに突き出す。
ぼろぼろに薄汚れた衣服に、虚ろな表情。
まるで、あの施設に居た子供達や昔の自分のようで‥‥

ヒロは、一瞬疑問の言葉が出そうになったが、寸でのところで飲み込んだ。
シハルから聞いた異端者の説明に扱い‥‥
世界ではこれが、当たり前なのだ、常識なのだ。
ヒロがここで疑問を口にすれば、ヒロの身もどうなるかはわからない。

(私には‥‥約束があるんだ。ソラと、タカサとの‥‥)

それを思い浮かべ、異端者の女の子の小さな手を握って苦い顔をした。


ソードラント国へ戻る短い道中で、

「シハルさん、この子はどうなるんですか?」
「ん?国が保護するんだよ」
「保‥‥護」

それを聞いて、ヒロは安心するーーが、

「まあ、保護された後に異端者達が実際どう扱われてるかはわからないけれど」

そのシハルの言葉に、

「そっ‥‥」

そんな、と言い掛けて、慌てて飲み込む。
そんなヒロを見て、シハルは薄い笑みを浮かべ、

「さっきから‥‥いや、最初から思ってたけど、君はその異端者を国に渡したくないんじゃないかい?」
「え!?」

ドキッーーと、心臓が大きく鳴り、冷や汗が流れた。

まずい、これはとてもまずい状況だ。

「あ、あの、私‥‥」

ヒロは異端者の少女の手を握ったまま、ゆっくりと後ずさる。

「だったらその子、死んだことにしたらいいんじゃないかな」
「ーー!?」

シハルのその発言に、ヒロはますます彼を警戒し、

「‥‥し、死んだことにって!?こっ、殺す気なんですか?!そんなの絶対ダメ!」

ヒロは異端者の少女を背後に隠すようにして首を大きく横に振り、

「異端者なんて、今日初めて聞いたし初めて見たし、まださっぱりわからないけど‥‥感情が無いだけでしょ!?感情が無くったって、生きてるんだから人間だわ!それを、さっきの村の人も‥‥皆おかしい!」

ヒロはそう叫んだ。
異端者のことは、まだよくわからない。おかしいのは自分なのかもしれない。でも、ヒロの思いはこうだった。

「ギルドの報酬も、いっ、要りません。私、この子を連れて行きます!」

それまで、しばらく口を開かなかったシハルが「何処に?」と聞いてくる。

「そ、れは‥‥」
「それに、異端者はその子だけじゃない。世界中にわんさか居る。それを、ヒロさんは全員助けるのかい?何処でどうやって匿う?一人でじゃ絶対無理だ。同調し、協力してくれる人間が居ないとね。いつかバレて、ヒロさんも異端者もどうなるかわからないよ」

きっとそれが正論なのだろう。だからこそヒロは今度は言い返せなくて、俯いてギュッと目を閉じ、歯を食い縛った。

「だから、その子を死んだことによう」

また、シハルが言う。
だがヒロは冷静に考えた。

死んだ'ことに'しよう。

「死んだ、こと、に?」

シハルの顔を見つめれば、彼はにやりと笑っている。


ー11ー

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