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弟は俺が嫌いらしい。

→歪むこみゅにけーしょん



まぁ、そう思う気持ちは分からないでもないし、寧ろ俺に対して好きなどという感情を抱く方が逆に不自然だ。
自覚せざるを得ないこの自身の傲慢さだとか、感情を表さない顔(それほどでもないと思うのだが周囲の人間がそう指摘してくるのだ)だとか、なにより弟に今まで兄らしく関わったこともそれほどない上に、まるで性質が合わないのだ。

「シーザー、行儀が悪いぞ。食べないならもう部屋へ戻れ。」

目の前で頬杖をつきながら皿の上のスクランブルエッグをフォークでつつき回す件の人物は、じろりとこちらを睨みつけてきた。

「お前に指図されるいわれはないね。気に入らなきゃ自分がどっか行けばいいだろ。」

弟がフォークを動かすそのたびに、カツンという音が部屋に響く。
ハルモニアへ行く前に一度家に戻ってみればこの態度、正直うんざりする。母はトランから少し離れた別荘で療養しており、父も今は母に会いに行っているため、屋敷には俺とシーザー、あとは数人の使用人がいるだけだ。
カツンカツンカツン。
金属と陶器がふれあう音。

「……何が気に入らない?」
「お前の全て。」

そういうわけで冒頭の言葉に戻るが、弟は俺が嫌いらしい。
そして、

「ほう、奇遇だな。俺もお前が気にくわないと思っていたところだ。」

付け加えるなら俺も弟が嫌いだ。



帰った初日の夕食時以来、同じ屋敷にいながら俺とシーザーが会うことはなくなった。あちらが俺を避けているためだが、俺も別段会いたいと思っていないので特に問題はない。
留学まであと2日とせまった日、夜中に部屋の扉をノックもせずに見覚えのある影が入り込んできた。
寝る前にと読んでいた書物から顔を上げるとそれは案の定弟で、寝間着姿のまま部屋の入り口に俯いて立っているのが目にはいった。

「……………」
「………何か用か?」
「……………」

黙ったまま動かない。壁に掛けられた時計の音が鬱陶しい。
本をサイドテーブルの上に置き、再度弟をみる。

「……お前なんか嫌いだ」

依然として俯いたままの弟が静かに言った。

「…いつも自分のことしか考えない、周りが自分の思惑通りなると思ってるお前が嫌いだ」
「………」
「連絡もしない、姿を見せたと思ったらすぐいなくなる。」
「………」
「そうやって、自分の周りの人間を遠ざけて、一人になって、一族の悲願とやらを達成するつもりなら、オレは、」

顔を上げてこちらを真っ直ぐに見つめる。なによりも、まっすぐに届くその光。

「全力で、お前を止めてやる。」

口の端が上がるのを感じ、知らず目を細めて思う。ああ、これで俺は何処へでも行けるのだと。

「お前に、出来るものならやってみせろ。」
「やってやるさ。そんで、お前の悔しそうな馬鹿面でも拝んでやる、待ってろこのクソ兄貴。」
「期待せずに待っている、愚弟。」

弟は俺が嫌いで、俺は弟が嫌いだ。
この世で最も近くて遠い、憎らしいほどに愛おしい。弟が俺を追ってくる。ほかの誰でもなく、この弟が。
唯一俺を引き止める存在がそこにいるから、俺は先へと進めるのだと知っている。

目を閉じて想像する。
悪くないその未来に、また笑いが込み上げた。












■――――――――――――
アルベルトの考えを理解した上で異を唱えて、そしてそれを本当に実行出来るのはシーザーをおいて他にはいないと思うの。だから、アルベルトは一人じゃないね。歪んでいたとしても、シーザーがいるならアルベルトにはまだ救いがあると思うんだ。そしてシーザーのアルベルトへの態度は、かわいさ余って憎さ100倍みたいなそんな妄想をしている。


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