※エリリオ18禁前編。後編(エロ本編)へ続く。それでもよければスクロール。 どうしたって、君のことばかり考えてしまうんだ。 扉の方をちらとみて、視線をまた字の羅列へと落とす。 この作業を一体何度繰り返しただろう。 僕の視線の先にあるもの、それはエリオットが女の子に話しかけられている、ただそれだけの光景だ。扉のこちら側で受け答える形のエリオットと、扉の向こう側から話しかける形の女の子。 何を言われているのだろう、何と返しているのだろう。少し距離がある上にそれほど大きな声でもないので、周囲のざわめきに紛れてその声は聞き取れない。ただ表情だけはみえたから、それを僕はこうして観察している。真面目な顔…あっ、今のはちょっと困ってる顔だ。 そんな彼の様子をいつの間にかまじまじと見ていた僕に、ふとエリオットが視線を寄越す。 …これは、SOSのサイン。助けにいってあげてもいいのに、なんだか気乗りしない。もやもやと内側に広がっていく想いに蓋をすることが出来ず、僕はエリオットから視線を逸らし本の世界に没頭することで、その想いを頭から消し去ってしまおうと考えた。しばらくした後、視線を戻すと、彼と女の子の姿は消えていた。 「…リーオ、お前なんで無視したんだよ」 「…なんのこと」 「とぼけんな!教室で目ェ合ったのに逸らしただろっ」 ドカッと自身のベッドに腰を降ろしたエリオットを、僕は自分のベッドに背中を預けながら見上げる形で一瞥する。 一足先に男子寮に戻って読書を楽しんでいた僕に、開口一番エリオットは助けに入らなかったことを問いただした。 「単に本の続きが気になってたんだよ。それよりあの後、姿が見えなかったけどどうしたの。」 僕が逆に問えば、うっ、と声を詰まらせた。…まぁ、聞かなくても分かっていた事だけど、この少し頬を染めてる様子だとか、泳いでいる目だとかで、予想が確信に変わる。 「返事はしたの?」 「………」 「あー、そう。また断ったんだ?もう少し考えてあげても良かったのに」 エリオットはモテる。まぁそれは陰で何と言われようと四大公爵家の一つであるナイトレイ家の御曹司で、しかも見目もいいとくれば放っておく方が不自然だろう。そして彼のその内面を知っているなら、惹かれるのはいっそ自然であるのかもしれない…それこそ、僕みたいに。 「そういえばエリオット、この間も断ってたよね。断る前に一度くらい付き合ってみてもいいじゃないか」 けれど、口をついて流れる言葉はいつも想いとは裏腹なものばかりだ。 「…好きでもないのに付き合うなんて、相手にとっても失礼だろうが」 少し拗ねたように話すエリオットはいつもよりも幼く感じて、愛しくて、ついからかいたくなる。…ああ、だめだだめだ。抑えないと、隠さないと。この話は終わりにしないと。 なのにどうして、この口が吐き出すのは、続きを求める言葉だった。 「じゃあ他に好きな人でもいるわけ?」 僕の問いにゆっくりと瞬く晴天の空のような青。真剣な光でもって返された答えに、心拍が一つ跳ね上がった。 「……へぇ、いるんだ。僕が知ってる人?」 黙ったままの蒼い光に見つめられ、がらにもなく緊張する。僕はなんでさっき話を切らなかったのだろう。居心地の悪さに今更後悔しながら、努めて平静を装い引っ込みのつかなくなった質問を重ねた。 …あーやだやだ、どうして君って突然真剣な顔をするんだろう、本当にやめてほしい。 だってこんなに不安なのに…僕じゃ、駄目なのに。君の相手はもっと相応しい子がなるべきなのにあまりにも真剣な瞳を向けるから、ありえないことを期待してしまう自分を抑えられなくなりそうになるんだ。 目の前に座る彼の、形のよい唇が動いた。 「本当にわからないのかよ」 「本当に分からないね」 「…本当の本当に?」 「本当の本当に。」 「…………そうかよ、なら、」 彼はゆっくりとベッドを離れ、僕の方へと一歩を踏み出した。 思考が止まる。もしかしたら時間も止まったかもしれない。 僕は動けない。 エリオットの手が顔のすぐ横、ベッドに伸びて体重を支える。彼の体が僕に覆い被さるようにしてランプの灯りを遮断していた。 柔らかい感触、ただそれだけに全神経が集中する。脳が誤作動を起こして体がしびれる。そして僕に甘いという単語を思い出させた。 「…なに」 「オレが好きなのはお前だ」 甘い吐息とともに告げられた言葉はあまりにも唐突で、聞き逃しそうになった。 「リーオが、好きだ」 …嘘。 聞き逃すにはそれはあまりに望んだ、望んでやまなかった答えだった。 再度耳に届いたその言葉は僕が必死に築いた壁を易々と打ち破って、抑えていた気持ちを溢れさせる。 ああ駄目だもう止められない。 腕を伸ばしてエリオットを引き寄せる。近づく一瞬、彼の目が見開かれるのが見えた。形のよい唇に触れて舌で割って入り、彼の舌に絡める。何度も何度も絡めて、愛しい八重歯をなぞってから唇を離した。 「エリオット…僕の事が好きだっていうならさ、もっと、証拠を見せてよ。僕の事が好きだって、証明してみせてよ」 胸倉を掴んだままで、瞳を覗き込む。 そしてまたゆっくりと、顔を近付けた。 < |