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「あいつハナっから腕一本くれてやるつもりで……!!」
「ええ――!?」
 直前まで山本の腕を噛みしめていた犬はすぐには動けない。
 重く鋭い一撃がもろに犬のこめかみへ突き刺さる。
「キャンッ」
 側頭部を殴りとばされた衝撃で犬は山本の腕から引っぺがされ、短い声を上げたきり後は全身からフッと力が抜け、やがて倒れた。完全に気を失ったようでもう起き上がってはこない。
 同時に、山本も腕を抑えて蹲る。
 腕にポッカリあいた穴からどくどくと血が垂れ流されている。
 さすがの山本も、つらそうだ。
 奇跡的に無傷のまま蹲るツナは顔を真っ青にして体を戦慄かせる。
「(山本の腕が……オレを助けるためにこんな戦い方……)」
 こんなことになるなら自分がケガをすれば良かったなんて、そんなことを言えるほど勇気なんかないけれど。
 それでもこんなのはダメだ。
 絶対にダメだ。
 ツナはさっき起き上がろうとして地面に手をついていた姿勢のまま頭を下げる。
「ごめん山本!! オレのせいで腕を……、野球あんのに!! 大会あんのに!!」
 今更謝ったって遅い。いくら頭を下げたところで山本の腕が治るわけではないのだから。
 そりゃあ、ああしなければ勝てなかったのかもしれない。
 それでも、自分は山本がどれほど野球を大切にしているか知っていたはずだった。どれほど真剣にそれに打ちこんでいたか。この夏だって彼は毎日毎日血の滲むような努力を重ねてきたはずだ。
 自分の方が痛むように色を失ったツナの顔に、山本はきょとんとしていた。
 そして困ったように眉を寄せ、ついには盛大に吹き出してしまう。
「おいおいかんべんしてくれよツナ、いつの話してんだ?」
「へ?」
 いつって、今の話だが。
 山本はさもおかしそうに一頻り苦笑すると、言った。
「ダチより野球を大事にするなんて、お前と屋上ダイヴする前までだぜ。」
 だから今は、違う。
 ツナが無事でよかった。
 山本の眼はそう言っていた。
「や……山本……。」
 ツナの目に涙が滲む。
 穴の上では、リボーンがニッと満足そうに顔をほころばせていた。
 さらに山本はついでとばかり何でもないような顔で左腕を持ち上げて見せる。
「それにこれぐらいのケガじゃ余裕で野球できるぜ。」
「すげぇ!!!」
 強がりかと思ったらマジだった。
 何の支障も無くぐっぱっと手を閉じたり開いたりしている山本はいつもどおりの爽やかな笑顔だ。
 あれ、メキメキってさっき言ってなかったっけ。
 さすが山本。
 

 
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