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 一方その頃。
 ツナは落ちていた。
 より分かりやすい言葉を使うと、落下していた。
「うぎゃあああ!!!」
 一瞬、浮遊感。
 そして次の瞬間、顔面を襲う衝撃。
「げふっ」
 ツナは見事に顔面からの無様な着地をキメた。
「何やってんすかリボーンさん!」
「だまって見てろ。」
 穴の上では信じられない光景に顔を蒼白にした獄寺がリボーンに噛みついていた。
 危うく敵の襲撃と全く関係ないところでボスがやられてしまうところだ。というか今も現在進行形でやられそうになっている。
 いくらこの恐怖の家庭教師のやることとはいえ理不尽すぎる。
 が、リボーンは取り合わない。
 穴の下、未だ立ち上がれず這いつくばっているツナを、呆然と立ち尽くす山本を、そしてここからの展開をじっと見つめている。
「いで〜〜!! 死んだかと思った〜〜!」
「ツナ!!」
「んあ? 誰こいつー? ザコのお友達れすか?」
 思いもよらぬ事態に山本は驚いて焦った声を上げる。
 そのうろたえようでだいたい把握したのか、犬はにんまりと残虐な笑みを浮かべた。
「よーし、山本逃げるし、さきにウサギを狩っとくかな〜。」
「な!」
 言うが早いが犬は標的を山本からツナに変えてとびかかった。
 山本の拳が、静かに固く握りしめられる。
「うぎゃー!! 来たー!! 食べられるー!!!」
 ツナは逃げることすらできず悲鳴を上げた。
 しかし、犬の攻撃が彼に届くことはない。
「んあ?」
「おまえの相手はオレだろ?」
 後頭部に直撃したストレートボールに犬が振り返ると、山本は既に次の一球を手にとっていた。
 パシ、パシ、彼の手の内で石のつぶてが跳ねる。
 その手はなめらかにスナップをきかせて不格好な石のボールを意のままに扱う。
 さっき正確に犬の後頭部を捉えて投球した手だ。
 山本は牙をむいて笑っていた。
「こいよ。こいつぶちあててゲームセットだ。」
 勝利を確信した目。
 弧を描く口元は上から犬を煽っている。
 へたり込むツナをよそに、犬は目を細めてのっそりと山本に向き直る。
「ほへー……挑戦状だ。」
 険呑な声音。
 それとは裏腹にどこか楽しむような色が瞳に宿る。
 懐から取り出されたものは、今さっきつけていたのよりも少し小ぶりな歯だった。
「面白そーじゃん。んじゃオレも本気を見せちゃおっかな。」
 四足で構えるその体は、やがて無駄な部分が一切無くなり、ただ狩るためだけの姿へ。
 ザッザッと数度地面を蹴って足を慣らす。
 丸めた体にぐっと力を溜め、温め、そして一気に、爆発させる。
「チーターチャンネル!」
 一瞬にして距離が半分まで詰められた。
 今までのスピードが可愛く見えるほどの圧倒的な加速。
「くっ」
 山本が石を放つが、素早く横に跳んでかわされた。
 次の投球動作に移る間もない。
 瞬く間に犬は山本に肉迫する。
「いたらき!!」
 ガッと鈍い音が響く。
 山本の左腕に犬の牙が深々と突き立てられた。
 破れた皮膚の隙間から血が噴き出し、さらに強烈な力で噛みしめられ骨と肉がメキメキ軋む。
 腕がもげるんじゃないか。傍目にはそう見えるほどの有様だった。
 ツナが悲痛な声で山本を呼ぶ。
「!?」
 山本は、呻き声一つ洩らさなかった。
 痛みに眉をきつく顰めたままグッと口角を持ち上げる。
「そいつは……お互い様だぜ!!」
 追い詰められるばかりに見えた先程の激しい攻防の中でいつのまにか再び手に取っていた、折れた刀の柄の部分。
 山本はそれのかしら側を犬のこめかみめがけ振り抜いた。


 
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