*これの続き
ok?↓
「皆、ちょっとこれ、見てくれない?」
そう言ってアニエスが差し出してきたのは、数枚の写真。そのどれもに虎徹が写っていた。
「…虎徹さんじゃないですか。彼がどうかしましたか?」
「バカね。そっちじゃないわよ。その隣の女性。どうやらタイガーの奥さんの座を狙ってるらしいの」
アニエスのその言葉に皆が驚愕する。
「ほら、彼ヒーローに復帰してから人気出てきたじゃない?それでファン達がいろいろ彼の事調べて、タイガーの再婚相手になるって意気込んでるらしいの」
前回、アニエスの企画で虎徹が再婚をするという嘘でヒーロー達を驚かそうというドッキリをされたばかりなので、
今回も誰もがこの話は嘘なのではないだろうか、と思っている中、バーナビーが口を開く。
「…そう言えば、虎徹さん最近再婚話が良くくるって…それにファンレターにもそういう話がって言ってたような…」
「嘘でしょう!?」
ネイサンが思わず声を張り上げる。もしかして今回のはマジなのかもしれない。
誰もがそう思い始めていた。だが今回もアニエスの仕掛けた企画。
虎徹が女性と一緒にいる所は何度か目撃されているし、実際困っているという話も本人から聞いたのだ。
これは何か企画をやらない訳にはいかない。
前回は虎徹にだけネタバラシをしていたが、今回は全部企画の中身を伏せた状態で尚且つ誰にも内容を知らせていない。
バーナビーの発言には驚いたが、それでますます現実味を帯びたのはありがたい。
アニエスは心の中でガッツポーズをしていた。
「もしかして、このままタイガーはこの女性と結婚…なんて…」
「あり得るわね。娘の楓ちゃんもいる事だし…寂しい思いをさせないために…とか」
「そうしたらヒーロー、今度こそ引退しちゃうかもしれないんだよね、タイガー…」
「…なんて事だ。僕の虎徹さんがどこの馬の骨とも分からないやつに取られてしまうなんて…!」
最後のバーナビーが少々おかしかったような気もするが、このまま話を進めれば自分の考えた企画に持っていけるかもしれない…。
もう一押し!とアニエスは口を開く。
「それに、タイガー本当に困ってるみたいなの。だから彼を助けるつもりでなんとかして欲しいのよ、貴方達に」
「それはもちろん。虎徹さんには僕という永遠の愛を誓い合った恋人がいるんですから。守ってみせますよ」
「………、ま、まぁとにかく、もしかしたらこのメンバーの中で好印象の相手がタイガーの再婚相手になるかもしれない訳だし、よろしく頼むわね」
アニエスが去った後、ヒーロー達は頭を抱えていた。
虎徹がヒーローを今度こそ本当に辞めてしまうかもしれない。
しかも再婚。祝福すべきなのだろうけれど、どうも気に食わない。
そしてもしかしたら、虎徹を困らせている相手をなんとかしたら自分達が彼の再婚相手になるかもしれないのだ。
これはなんとしなければ。一部のヒーロー達は、自分が彼の妻、もしくは夫になる為メラメラと闘志を燃やしていた。
「…なんとしてもタイガーを助けなくちゃ…!」
「そうよね〜…、そんな女じゃなくて私と結婚してーとか言えるものね、ブルーローズ?」
「は、はぁ!?ちょっ、何言ってるのよ!そっそんな事言う訳ないでしょ!それにっ私とタイガーは歳が離れてて…!」
「あら、愛に歳の差なんて関係ないと思うけど?」
各々作戦を考え、虎徹から謎の女性を引きはがす作戦は次の日から早速決行されたのだっだ。
***
アニエスは虎徹の家の周りに隠しカメラを設置し、近くのホテルで部屋を取り、様子を伺っていた。
まず最初にやってきたのはパオリンだった。手には何やらタッパーのような物を持っている。
虎徹の家の呼び鈴を鳴らし、出てきた女性に一言。
「あのっ!良かったらこれ、食べてください!!」
「は…えっ?」
「これっ、ボクの故郷の料理なんだけど、すっごく凄く美味しいから食べて欲しいんだ!!」
「いや、あの…」
「これ食べて…そのっ、ボクの事思い出してほしい!け、結婚とかはボクまだ良く分からないし…あのっだから…ヒーロー引退しないでねタイガー!!」
「えっ、ちょ…」
それだけ言い残すと、パオリンは颯爽と帰って行った。まるで嵐のような出来事。
その場に残された女性は呆気らかんと渡されたタッパーを見つめた。
首を傾げながらそのままバタンと扉を閉めた。
「…なんだったのかしら…」
これにはアニエスも首を傾げた。
その数時間後、今度はキースがやってきた。彼は彼で大きな花束を抱えている。
あまりいい予感はしない。呼び鈴を鳴らし、出てきた女性にそのままズイっと花束を渡した。
「初めまして、良かったらその花束、受け取ってもらえないだろうか」
「はい?」
「確かに彼は魅力的な男性だと思う。だけれど独り占めするのは私は駄目だと思う」
「はぁ…」
「だから、その花に免じて彼を私達から奪わないで欲しいんだ」
「いや、奪うもなにも…」
「それだけ言いたかったんだ。それでは!」
パオリンと同じくキースも駆け足でその場から去っていった。
女性と同じくアニエスもまたポカンとその場に立ち尽くした。
「…彼もダメね。相手が彼女でなければ良かったのだけれど」
実に惜しいとアニエスは次の挑戦者に期待し、監視カメラの映像を覗きこんだ。
そしてまたその数時間後、今度はネイサンがやってきた。
彼、いや彼女は特に作戦を考えているようではないように見えるが…。
虎徹の家の呼び鈴を鳴らし、出てきた女性に何か言おうとしたのだが、感の良い彼女はすぐに気付いたようで。
「あらぁ、そう言う事なのね」
「え…?」
「まぁいいわ。アタシも結構前から彼を狙ってたの。だから良く考えて欲しいわ。誰が彼の妻にふさわしいのかって事を」
「ちょ…え?話が読めないんですけど…」
「いいの、いいの。気にしないで。じゃあ、この後も頑張ってね」
「この後…?」
ネイサンはそれだけいうと近くに止めてあった愛車に乗って颯爽といなくなってしまった。
彼女の事だから誰かにバラすなんて事はしないと思うのだが、まさか見ただけで勘付いてしまうとはアニエスも思ってもいなかった。
「侮れないわ、流石ヘリオスエナジーのオーナーね…」
ゴクリとアニエスは唾を飲み込んだ。
次にやってきたのはアントニオとイワンだった。どうやらイワンが一人だと心細いとアントニオを誘い一緒にやってきたようだ。
「い、いいか…?俺達は虎徹のやつにヒーローを続けてもらうように説得するんだ…。その為にはまず同居をしてるっていう女性をだな…」
「は、はい…!タイガーさんの事を諦めてもらうようにして、僕たちがいかに能力の発動時間が短くなったタイガーさんをフォローしていくのかって言う事を伝えるんですよね…!」
若干アニエスの思惑とは違うようだがなんだか面白そうな事をしてくれそうな二人にアニエスは期待する。
彼らはあまり虎徹の妻や夫の事に関しては興味が無さそうなのだが、友人として助けてあげたいと思っているのだ。
呼び鈴を鳴らし出てきた女性に緊張しながらも自分達の思いを伝える。
「その、僕タイガーさんの事は本当に尊敬していて、これからも目標にしていきたいなって思っているんです…っ、だから、その…」
「虎徹からヒーローを奪わないでやって欲しい!ヒーローを続けるのはアイツの死んだ奥さんとの約束なんだ!!」
「えっ…、あの、もしかして皆さん…」
不審者と思われてしまったかもしれない。そう思った二人は一礼をし、駆け足でその場から逃げ出した。
残された女性はふと顎に手を当て考えたあと、何か閃いたようにパッと顔を上げ何やらふふっと笑うと静かに扉を閉めた。
「あの二人が今までで一番かもしれないわね…。彼女にとっては好印象かしら…さて、残るは…」
アニエスは手元の紙を見る。残るはカリーナとバーナビー。
なんだがとても不安だ。アニエスは監視カメラを注意深く見つめる。
「ちょっと、なんで着いてくんのよ」
「貴女が僕に着いて来てるんでしょう?」
「はぁ?」
ピリピリとしたムードの二人。何故よりによってこの二人は一緒にやってきてしまったのだろう。
虎徹の事が好きなカリーナと、自称恋人のバーナビー。これは何やら厄介な事になりそうだ。
「虎徹さんは僕が説得しますから、貴女は黙っていてください」
「何言ってんのよ!わ、私だって…タイガーに言いたいこと、たくさんあるんだからっ」
虎徹の家の呼び鈴を鳴らすと、出てきたのはアニエスに見せて貰った髪の長い女性。
彼女が虎徹の妻の座を狙っているという女性なのだろう。
バーナビーが口を開く前に、女性の方が先に口を開いた。
「ば、バーナビー!?なんでここに!?もしかしてお父さんに何か用なの?」
「いえ、あのですね貴女が……え?」
「…お、お父さん……?」
ポカンと固まる二人。あれ、とバーナビーは考える。
この家は虎徹の家だ。それに虎徹の事をお父さんと呼ぶのは一人しかいない。
「もしかして…楓ちゃん?」
「うん、そうだよ…?」
バーナビーとカリーナは顔を見合わせ、驚きの声を上げた。
「嘘でしょ!?楓ちゃんなの!?なんで!?なんでこんな大人の姿に…」
「お父さんに会いに行く途中にNEXT能力を持った誰かに触れちゃったみたいで、ふとした拍子に発動してその能力のせいでこんな姿になっちゃって…」
えへへ、と困ったように笑う女性、もとい虎徹の一人娘の楓。
まだ能力に目覚めたばかりで制御が上手くいかない楓は、自分の意思とは関係無しに能力が時折発動してしまうらしく、今回もそうなってしまったらしい。
楓のNEXT能力は他人の能力をコピーする事。
シュテルンビルドは人が多い。誰かが能力を持っていてもおかしくはない。
能力のせいで子供の姿から一気に大人の姿になった楓は一瞬誰だか分からない。
「ったく、今日は朝っぱらからピンポンピンポンうるせーなぁ…一体何が…あれ、バニーじゃん。ブルーローズも…どうしたんだ?」
「虎徹さん…」
安堵の表情を見せたバーナビー。隣でプルプルと震えるカリーナ。
一体何があったのだろう。状況が読み込めない虎徹はポカンとする。
そこに観念したのか、呆れた表情でアニエスが現れた。
「タイガー、貴方は本当に私の企画をぶち壊してくれるわね…」
「はぇ?アニエス?なんでここに…」
「アニエスさん!これは一体どういう事なんですか!虎徹さんが謎の女性と同居で困ってて妻の座が…」
「なに?なにそれ?バニーどういう事だよ。妻の座?おい、アニエス…」
「待って。全部話すから…皆に集まって貰いましょう」
♂♀
「全部嘘ォ!?」
「ごめんなさいね。この前のドッキリ作戦が御蔵入りになっちゃったからリベンジしようと思って企画を企てたのよ」
「ちょ、俺を巻き込むなよ…。それに楓が俺の彼女って…無理あるだろ!そりゃあ、友恵に似てるっちゃ似てるけど…」
「本当お父さん!?私、お母さんに似てるの?」
一旦トレーニングルームに移動した一行は、アニエスのネタバレにぐったりとしていた。
やっぱりアニエスの企画だったか。ヒーロー達は何度目か分からない溜息を吐く。
そもそも皆怪しいと思っていた話だったのに、バーナビーが余計な事を言い始めてからこんな事になってしまったのだ。
「もう!ハンサム!あーたが余計な事言うからこういう訳の分からない事になっちゃったのよ!」
「だって…実際虎徹さん困ってるって…」
「俺はそんな事言ってないぞ」
「ええ、言ってませんけど、僕がそうかなって思ったんです」
「やっぱりバーナビーが悪いんじゃない!!!」
カリーナは怒って能力を発動しバーナビー目掛けて氷の粒をぶつけようとしたがヒョイっとバーナビーはそれを避けた。
虎徹は、困っていたというのは迷惑で困っていた訳ではなく、どうしたら楓が元に戻るのかという事で困っていたらしい。
なんて紛らわしい。
楓は楓で、当初家に来た彼らがヒーローだとは気付かなかったらしい。なぜなら楓は彼らの素顔を知らないからだ。
「でも皆お父さんの事好きなんだなぁって思ったよ。皆必死にお父さんの事引きとめようとしたり、一緒に居たいって。お父さん、皆から愛されてるんだね」
「えぇ?そうなのか?なぁ、ブルーローズ」
「ちょ…止めてよ!何で私に聞くのよ!わ、私は別に…」
「なに言ってんのよブルーローズ。貴女が一番…」
「わー!やめてってば!!」
必死にネイサンの口を塞ごうとするカリーナ。ワイワイと騒ぐヒーロー達に、アニエスはそっと楓に近づき声を掛ける。
「ねぇ、今回の事で誰が一番タイガーを任せられそうって思った?」
「えっ…んーっと…」
楓は少し悩んだあと、
「今は誰もいない、かな!お父さんにはまだ私が一緒にいないとダメみたいだし!!」
にこっと笑う楓に、この子は将来大きくなるだろうとアニエスは今後に期待する事にした。
(もう少し大きくなったらヒーローTVにでもスカウトしようかしらこの子…)
そしてヒーロー達は今後絶対にアニエスの出した企画には乗らないようにしよう、と一致団結するのであった。
The lie which connects bonds strongly
(いやぁ、本当ビックリしたぜ…楓はでっかくなるし、お前らは早とちりするし…俺はまだヒーローやめねぇよ!)
(悪かったって虎徹。今日は俺が奢ってやるから機嫌直せ)
(本当ですよ…。虎徹さんが再婚だとか女性と同居してるだとか恋人の僕がいながら全く…、あ、バイソンさん、僕はロゼを…)
(いやお前いつの間に。あとお前と恋人になった覚えはない!)
(なんで俺がバーナビーの分も奢る事になってんだ!モー!!)
――――――
イナギ様、大変お待たせしました!
一年ぶりぐらいに完成させました!!
ドッキリ話の続きという事で、なんだかもうグッダグダな展開になってしまってすみません><
虎の出番が、少な過ぎる…。
ヒーローの皆は虎が大好きなんだよって感じが伝わってくれれば幸いです!!
リクエストありがとうございました!!
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