ルーシィの髪型はコロコロ変わる。最近は三つ編みをしていたが、今日はハーフアップ姿。
自慢のネイルにも抜かりなく、細くて長い指が一層引き立っている。


提出期限が迫ったプリントで赤く染まった頬を隠しながら、上目遣い。
ルーシィは、たまに猫なで声も出す。それがカワイイと、周りの男共は言っていた。

「ナツぅ…」
「なんだ?」
「…プリント、教えてくれないかな?」
「あー、ホレ!」

「ち、違うの!!答えじゃなくて…やり方!!」
「ああ…そっちか」

プリントを持っていない方の腕をブンブン振り回して、顔全体が赤くなっていくルーシィの様子にも全く気づかないナツは、シャーペンを持ち直して、空欄の箇所をうめていく。

「ココをこーして、こーなって…」
「うん、…うん。そっか」

膝を曲げて座り、ナツの机の端に指を掛けその上に顔を乗せて、彼の手元を覗き込んでいる。
コクコクと、素直に頷いている彼女を見て、首を傾げた。


―――なんか、子どもみてえなルーシィがいる、…おかしいぞ。


ルーシィの顔をこんなに近くで見るのは意外にも初めてなのか、彼女の大きな瞳に一瞬、目を引かれた。

「なあ、ルーシィのそれって、つけまつ毛なのか?」
「え?…ううん、違うわよ」
「嘘だろ?そんな長ぇまつ毛、あっかよ?」
「バカ!!これは、マスカラって言って…」
「へえ〜」

当たり前でもあるが、女の子の化粧品を知らないナツは珍しいものを見るように、じーっとルーシィの目元に釘付け。
ルーシィは火照った頬がようやく落ち着いてきたと感じていたが、突然の至近距離に慌てて、恥ずかしいのかまた振り出しに戻ってしまった。

「ちょ、やだ!!…もう、見んな。火竜!!」
「はあ!?火竜…って、なんだよ、それ!?」
「え?ナツ、知らないの?竜のマスコットの名前よ?アンタに似てるの…」
「…知らねえし!」

プリントの解き方を教えて、怒鳴られて。
ヘンなアダ名をつけられるんじゃ、どうしようもねえな。


―――オレって、ルーシィに振り回されてるのか?










「おいナツ!あれ、おまえの部の二年じゃね?」
「ん?…あー、そうだな」
「なーんか、仲良さそうに話してるけど…」
「………」

昼休みの時間、廊下の角で楽しそうに笑っているルーシィをクラスの奴らと見掛けた。
先日、ルーシィのことを聞かれた部の先輩と二人でいる。
特に気にする必要もないのだが、ナツは視線を逸らして鼻の頭をポリっと掻いた。

予鈴が鳴り、

「それじゃ、また…」

ルーシィの声が耳に入り、そちらに顔を向けた一瞬、目が合ったがフイッと逸らされてしまった。

そして、なぜかその日はずっとルーシィの機嫌が悪かった、


―――と、思う。

つーか、しゃべりかけてはいねえけど。




―――触らぬ神にたたりなし。ってか?





今日は部活が休みのため、ナツは帰り支度を始めて教室を出ていく。

「じゃーね、バイバイ!」

下駄箱の側で、背後からルーシィの明るい声が聞こえたが、すぐ近くまで来ていることに気が付かなかった。

どんっ!!

「きゃっ」
「あ、悪ぃ…」

ぶつかった拍子にルーシィの手袋が落ち、それを拾おうと手を伸ばしたナツ。

ばっ!!

勢いよく彼から奪ったその瞬間、
カッ!
ルーシィの自慢のツメが、ナツの右手を傷付けてしまった。

「い、―――…」
「あ、」

タラリと血が流れる。

「ってえ〜〜!!」
「ご、ごめんナツ!…ごめんね、ごめん。あたしバンソーコ…」
「おまえの手は凶器か!?軍手でもはいてろ(はめてろの意味)!!」

ナツは何気なく放った言葉であったが、何度も謝る彼女は傷ついたような表情を見せた。
すると、

バコッ!!

ルーシィは自分のカバンを振り、ナツの頭に思い切り当てた。桜色の髪が激しく揺れている。
痛みよりもその衝撃でキョトンとしているナツに背を向けて、駆け出していくルーシィ。

「あれ?…ルーシィ?―――何が起こったんだ?」
「ドラグニル…サイテー…。謝ってきなよ!!」
「へっ?…オレが!?」

ルーシィの友人数名から睨まれたナツは、教室の方へ駆け出して行った彼女に謝るため、渋々足を進めた。


―――オレがなにしたっつーんだ?


静かにドアを開けて教室に入るが、ルーシィは自分の席に座って両腕に顔を埋めていた。
ゆっくりと足音を立てずに、彼女の元へ近づいて行く。


「…ぐ、具合悪ぃのか?」


―――んなわけねーか。


「――あの、さ。別にそんな、イタかったわけじゃねえからな…」


――すっげえ、痛かったけど。


「あー、…気にすんな!!」

「………」


―――ん?いあ、気にするべきじゃねえのか、……よくわかんねえな、もう。


「つーか、なんか間違えてねえか?なんでオレが、こんなこと…」

ひいっく。

ルーシィの泣き声が響く。
机に伏せて何も言わない彼女からナツは、目を離さずに真剣に見つめて、

「…ルーシィ、ごめんな。オレが悪かった」

「…………」


――オレは何故だか夕日に当たった金色の髪がキレーだ。

なんて、考えていた。

ルーシィ、オレはもしかして―――







「わかれば、良いのよ!」
「おわっ!?」

突然、立ち上がったルーシィは、いつもの大きな声を出して、ナツを見ている。
眉を吊り上げながら両手を腰にあてて、

「何か間違えてるですって!?それは、ナツが間違えてるに決まってるじゃない!アンタ、たまにすっごくムカつくのよね。調子に乗って…」
「…おい、うそ泣きかよ」
「あたし、性格キツいらしいからねっ!」
「あ?…誰が、んなこと…。―――あっ」


“付き合ってる奴いないのかなー?”


―――そういえばあの時。


つーか、いーじゃねえか、おまえはキツくったって。
それが、ルーシィだろ?
あー、やっべえ…オレもう少しで血迷うとこだったぞ。…あっぶねえ。

キツい性格に戻ったルーシィの背中を見つめて、ナツはポリポリと頬を掻く。
オレも帰ろうと教室を出る一歩手前で、ふとルーシィの机へと振り返った。







あれから、もういつものルーシィに戻っている。

「わあ!それカワイイね、見せてー」
「うん、いいわよ!」
「クレーンで取ったの?…なんだっけ名前?」
「ふふ、火竜よ!カワイイでしょー!…大好きなんだー」

相変わらず教室中に聞こえる大きな声で、ルーシィは友人と話しながら楽しそうに笑っている。
その手には、個性的な竜のマスコットが握られていた。
嬉しそうな彼女の横顔を目に入れて、机に肘をつき頬に手を置いて息を吐き出す。


―――素直なのかそうじゃねえのか、オレにはわかんねえけどーーー

なんて考えていると、

どんっ!!

「あ、ごめーん。…てゆーか、ナツ邪魔よ!」
「ふっ」
「…な、何よナツ?」
「いあー、べっつに〜」
「ちょっと、なにその顔!?…火竜のバカーッ!!」
「うっせえな!!…バカでもオレに似た火竜が大好きなんだろ?好きならもっと優しくしろよな」
「…す、好きじゃないわ」
「ほー、好きじゃねえのか?なら、それくれよ!いらねえだろ?」
「…もう、ナツのいじわる!あげるわけないでしょ!あたしのだもん…」

ぎゅうっと大事そうにそれを、大きな胸へ押し付けると、
何故か頬を赤く染めるナツは、竜のマスコットから視線をズラして彼女の指先を見ていた。

ナツの視線に気づき、

「もう魔女の手なんて、言わせないからね!」
「へっ?…あー、そうだな」
「…べ、別にナツの為にしたわけじゃないんだからねっ!」
「…………、おう」




ルーシィのツメは短く切りそろえられていた。

子どもみたいな笑顔を向けて、―――素直じゃねえけど、可愛いな。

今なら、ルーシィをカワイイと言っていた奴らの気持ちがわかるような気がした。




それと、昨日机が濡れていたのは、
よだれだったということにしといてやろう。






―――オレって、ルーシィには甘ぇのか?






(終)



☆★☆★☆

…終わり方とか原作の漫画よりも、かなり変更・妄想が+されております。
ナツルー変換だから、そういう事気にしなくていいのかと思いつつも、ナツルーらしさが表現できているのか不安です…(-_-)

これから長編があるのに、大丈夫かな、私。(ナツルー楽しいから、その気持ちを大事にして進めて参ります)

目を通して下さり、ありがとうございました。




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