≪設定≫
・エルザ:幼いころに遊郭に売られ、そこで生活する。厳しく教養や芸事を教え込まれ、太夫と呼ばれる最高級花魁となる。(そう簡単に客も取らない)
・ルーシィ:エルザと同じように商売に失敗した父に遊郭に売られるが、父が頼み込んだおかげで、遊女ではなく芸者の道を歩むこととなる。(芸者は身体は売らない)
・ナツ:町の役人の息子(父親はかなりの地位)教養の一環として習わせられた三味線でルーシィ、エルザと知り合い仲良くなる。
・ジェラール:町一番の商家の一人息子。基本的に優しく頭も良いが、エルザにある恨みを抱いており、冷たくあたる。
・グレイ:ナツと同じく役人の息子。ナツ同様習い事でルーシィ、エルザと親しくなる。団子屋の看板娘のジュビアといい感じ。
※(ナツ×ルーシィ ジェラール×エルザ描写有り)
〜プロローグ〜
不自然なほど明るい照明。きらびやかに着飾った女たち。女たちの媚びる声。
少女の目の前にある世界は今までとはかけ離れた異次元だった。
いや、この空間内では少女の方が異物なのかもしれない。
この場にふさわしくないボロボロの着物に、汚れた髪と肌。身体は栄養失調のためか、ひどく痩せ細り、骨と皮だけのようになっている。齢はおそらく6、7歳くらいであろう。緊張しているのか、俯いたまま顔を上げようとしない。
少女の生まれ育った村はひどく貧しかった。飢饉のため、ろくに食べ物も食べられない中、多くの家族が口減らしを行った。
口減らしとは、飢餓で家族全員が飢え死にすることを防ぐために、一家のうち一人あるいは数人を消すことである。
消すとは、文字通り、消すーー殺害することとは限らない。男の子であれば奉公に。女の子であれば遊郭に。
そのような手段で口減らしを行うことも少なくなかった。
少女が売られた先は高級遊郭。本当は彼女の10歳上の姉が売られる予定だった。
だが、売られる予定の前日、姉は村から逃げ出したのだ。
少女はそれを仕方ないことだと思った。誰だって、売られるなど嫌に決まっている。だが、両親はそうは思わなかったようだ。
もういない姉に対して親不孝者となじっていた。
姉は少女の目から見ても美しく、妙齢で遊女としてもすぐ働けるので、高値がついたのだと両親は言っていた。
当日、引取り人が来た時に、両親は姉が逃げたことを意気消沈しながら話した。
引取り人はその時に、そばにいた少女を指さし「この娘を代わりに買おう」と言った。
両親はひどく驚いていたが、同時に喜んでもいた。
売る対象として少女が選ばれなかったのは、まだ幼いからだというわけではない。理由は少女の髪の色だ。
両親の髪の色は共に黒だというのに、誰に似たのか、少女の髪色は夕焼けのような緋色だったのだ。
村では、珍しい髪色が不吉だと言われ、避けられることも少なくなかった。
だから、そんな少女を買おうと言った言葉に両親は驚いたが、不吉の象徴の娘を厄介払いできるチャンスとばかりに、即座に売りとばした。
ゆえに少女はここにいる。
「顔をお上げ」
この遊郭の女将であろう女の声が聞こえ、少女はようやく顔を上げた。
目の前には端正な顔立ちの40代くらいの女がいる。
「うん。痩せすぎだけど、顔は悪くないね。ちゃんと身なりを整えれば、この髪の色も物珍しさで客を呼べるかもしれない」
女――いや女将は少女をじろじろ見て、満足げに頷いた後、声をかける。
「おまえ。名前は何て言うんだい?」
少女はそれに対しまっすぐ目を見つめ返して答える。
「エルザといいます。これからよろしくお願いします」
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