頭の中ではまっすぐ家に帰ろうと思っていたものの、足はいつも寄り道をしている公園に向かっていた。

「はあ〜…」

足元に鞄を下ろしてブランコに乗ると、溜め息を吐いた。日が沈んだからか空気が冷えているように感じる。
冷たくなっていた手に息を吹きかけて、温めた。
両手を擦り合わせていると、仔猫の鳴き声と共に幼い女の子の声が耳に届く。

「にゃーん!」
「ハッピー待ってよう、ハッピーってば!」

そちらに顔を向けると、仔猫がルーシィの元に走り寄って来た。その後からランドセルを背負った少女が息を切らして追いかけてくる。

「…ハッピー、あれ?」

――なんでこの子ハッピーって呼んでるんだろう…。

「おねえちゃん、ハッピーとなかよしなの?」
「う、うん!」
「すごーい!ハッピーっておともだちいっぱいだあ」

ルーシィはブランコから降りて、ハッピーを抱きかかえた。
少女と一緒にベンチへと移動する。
無邪気な笑顔で話す少女の口から自然に出てくるその名を不思議に感じて、問い掛けてみることにした。

「ね、ねえ…この猫、ハッピーって名前、誰が付けたの?」
「えーっとね、どっかのおにいちゃん!私、ここでよく会うよ」
「…へえ、そうなの」
「あ、あのおにいちゃんだよ!」
「え…?」

少女が指差す方へ目を向けると――ルーシィは驚きのあまり、大きく両目を見開いた。

「…ナツ」
「ルーシィ…」

二人は視線を合わせてから、同時に俯いた。ナツがルーシィ達の居るベンチへと歩み寄る。
つい先ほど喧嘩したばかりであったため、何から話したら良いのか分からずにルーシィは言い淀んでいた。
すると、彼女の隣に居た少女がベンチから降りて、彼の方へ駆け寄っていく。

「おにいちゃん今日は遅かったけど、どうしたの?」
「…あー、ちょっとな」
「あっ、私もう帰るね」
「おう!気ぃ付けて帰れよ」
「うん、バイバイー!」

少女の頭を撫でて、ナツは手を振った。「おねえちゃんもバイバイ」と手を振ってくる少女にルーシィも笑顔を向けて振り返す。
もう夕方過ぎの時刻でもあり、公園内には他に誰も居なくなっていた。
その場にはナツとルーシィ、彼女の脚の上で丸くなり眠っている仔猫のハッピーだけ――その状況にふと気付いて、心臓が高鳴る。
いつの間にか自分の隣に座っていたナツが、先に口を開いた。

「オレはなあ、…ルーシィのことならなんだって知ってんだぞ」
「…え?」
「アドレス帳拾ったのもココだしよ…、野良猫に名前付けてることも。――誕生日が一日違いってことも。…実は○○の大ファンだってことも。何だって知ってんだ」
「な、なんでそんなことまで…」

自慢しているかのように、そう言い放つ彼が珍しく頬を赤く染めていた。
恥ずかしくて視線を逸らしたルーシィ。だが、彼の思い掛けないセリフに反応して凝視する。

「…あたしだってナツのこと知ってるわよ!誰かに聞けばわかるようなことじゃなくて…」

腕も足も組む時は絶対右が上だとか――手ヘンを逆書きすることとか――

「…す、好きじゃなきゃ、気がつかないこと、いっぱい知ってるわ!…でも、」

ルーシィは話の途中で俯き、ギュッと両手を握る。
頭の中で、アドレス帳のナツが書いてくれたページを思い浮かべた。

「知らないのは、…ホントの電話番号だけよ」
「……」

溜め息を吐いた彼女の前で、桜頭を掻くナツもまた、深い溜め息を吐いていた。
突然、彼の右手が視界に入る。人差し指を向けられて、疑問符を浮かべていると――

「それなー…すっげー誤解だぞ!」
「誤解…?」
「オレはウソなんかついてねーからな!」

ナツは上着のポケットから、ルーシィのアドレス帳を出した。それを目にして、嫌な記憶が過ぎったのか、彼女は目を逸らす。
そんなルーシィとは逆で、みるみるうちに耳まで赤く染め上げたナツは、アドレス帳を彼女の手に載せて話を続けた。

「番号変わったこと言おーとしたら、おまえ破って捨てたってゆーから。…あっさりそんなこと言うから、言う必要なくしちまったんじゃねーかよ…」
「…え!?そうだったの。ご、…ごめんね」

番号が変わったと耳にして、自分の勘違いであったと――ホッとした気持ちにもなったが、それが余計に恥ずかしく感じて、ルーシィはナツの顔を直視できずにいた。
そんな彼女の様子に口角を上げた彼は、立ち上がり近くにあった木の棒を手に取る。
ナツの背中が目に留まると、彼はしゃがんで砂にガリガリと何かを書いていた。
書き終わると振り返って、ナツはルーシィに視線を合わせる。

「オレの新しい番号。忘れねえようにちゃんと写しとけよな!」
「え…」
「二度と教えねえぞ!」
「……」

照れたのであろうか――彼はほのかに頬を染めた。そして、白い歯を見せて笑っている。
彼女もまたその笑顔に釣られて微笑むが、鞄に手を掛けて立ち上がろうとした。

「…さーてと、帰ろうか?ハッピー」
「なっ!?おい、ルーシィ!おまえ、メモするとかなんなりだなあ…」
「うるさいなー、もー覚えちゃったのよ!」
「へっ?」
「忘れろって言われても、きっと一生かかっちゃうわ!」

ルーシィは傍に寄ってきたナツに照れながらも笑顔を見せる。久しぶりに感じる自然な自分を――。

寒空の中、暫く見つめ合う二人の間で仔猫がくしゃみをした。
寒かったのか、ハッピーが体温の高いナツの方へ移動する。

「ハッピーも寒いのね、…あたしも」
「うあっ!おまえの手、冷てえぞ」
「…ナツはあったかいわね」
「まあな」

ナツに手を握られると、ルーシィも強く握り返したのだった。




終わり


☆★☆★☆

猫ってくしゃみしますよね…?
※ルーシィ家は猫を飼えないので、ハッピーをナツが引き取ることにした。
その辺りまで妄想していたのですが、描写できずに終了…汗。

二人の掛け合いが好きなんですよね!
…でもそういう部分が上手く書けなくて毎回苦戦してますが、ナツルー愛を感じていただけるように今後も精進してまいります。
こちらの作品に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!



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