「ルーシィ、またノート貸してくれ!」
「…取ってない」
「……」

翌日もそのまた翌日も――、ルーシィはナツを避けていた。

「おーい、ルーシィ!担任が呼んでたぞ」
「……ありがと」
「おぅ…」

無視をするのは子どもみたいだからと、声が掛かればきちんと返事はする。
ナツとは目を合わせず必要最低限の会話のみで、数日が過ぎて行った。
当たり前になっていた喧嘩や二人の他愛もない会話が、ふとしたことでガラリと姿が変わり、周りの生徒たちもどうしたのかと陰で話している。

「ルーシィ、どこ行くんだ?」
「購買」
「んじゃ、ついでにコレ買ってきてくれ」
「自分で行きなさいよ」
「……」

ここ何日もルーシィが笑顔も見せず、距離を置くような行動をすることで、ナツもそれが気になっていた。
彼女が友人らと笑顔を見せて楽しく話している時もある。けれど、ナツが近付くと不自然に窓の外へ視線を向けるようになって――

こっちに来ないでと言っているかのように――
明らかに拒絶しているんだと思われる、そんな態度をルーシィは、ナツにしていた。



☆★☆★☆

放課後の時間、ルーシィは図書室へ本を返しに行ってから教室へ戻る。
鞄を持って帰ろうとした際、後ろから名を呼ばれて振り向いた。

「ルーシィ、ハンカチ落としたぞ」
「あ、……」

久しぶりにナツと目を合わせて、一瞬、胸が高鳴った。
笑顔を見せて近寄ってくる彼の手には、いつの間にか落としてしまったハンカチがある。
鞄を机に置き、恐る恐るそこに右手を伸ばすと、その手が届く前に、ギュッとハンカチを握って返そうとしないナツの手が目に映った。

「ナツ、…返して」
「じゃんけんして勝ったら返してやるよ!」
「な、何言ってんの?」
「じゃんけんしようぜ!」
「…バカバカしい、返してくれなくて結構よ!」

ルーシィは「子どもみたい」と投げ掛ける。ナツに背を向けて立ち去ろうとした。
彼女のその言動に、今までの我慢が限界を超えたのであろうか、彼がツリ目を一層吊り上げて、叫んだ。

「…んだよ、その態度!いーかげんにしろよな!オレ、おまえになんかしたかよ?」
「あのねえ…」
「何だよ、言ってみろって」

足を止めて振り返ったルーシィは、勢いに任せて口を開きかけたが、グッと堪えた。

平然な顔をして「言えよ」と答えるナツに今までの理由を話したら――
あの日、電話したことを言ったら――

ナツはきっと大笑いするつもりなんだから。

――そんなの絶対くやしい。だから、言えるわけない。

この場はナツに乗ったフリをしてすぐ返してもらおうと、逃れたい気持ちを抑えて再び口を開いた。

「……すればいいんでしょう」
「おう!ゲームだろ?やろうぜ」
「「じゃーんけん、ぽんっ」」
「あ…」

ナツがチョキを出した。結果、彼が大きく口を開いて笑う。

「へっへっへー!ルーシィって絶対ぇ最初にパー出すんだぞ!ちょろい、ちょろい」
「……」
「ハンカチのためにもっかいやっか?」

ルーシィは前に出した右手を戻して、唇を噛んだ。

――なによ、結局ナツの思うツボじゃない。

くやしいけど。
本当はくやしいけど、もう我慢できない。

「――によぉ、そんな…」
「ルーシィ?」
「人のことそんなにからかって何が面白いのよお!」
「る、ルーシィ?」
「…いっつも、いっつも本気かウソかわかんないようなことばかりして」
「ルーシィ…」
「期待して、ドキドキしてるあたしはバカみたいじゃないのよ!」

ナツの顔を見られず俯くと、涙が頬に伝う。
それを拭い顔を上げると、目の前で戸惑う彼を視界に捉えてルーシィは眉を上げた。

「…12回もかけなおしたんだから」
「へ?」
「からかわれたなんて夢にも思わなくて…。バカみたいに12回もかけなおしたんだからね!…12回も!」

鞄のポケットからアドレス帳を手に取り、ナツの顔面目掛けて投げつけた。

「いってえ…」
「笑うなら笑えば!…ばかあ」
「お、おい、ルーシィ!」

ナツに腕を掴まれそうになったが、恥ずかしくて、それをかわす。
鞄を肩に掛けて、すぐさまそこから離れた。

「かけなおし…?」

そんな声が遠くから聞こえたような気がしたが、それどころではないルーシィは、溢れる涙を拭って外へと駆けて行った。


泣くのだけはしたくなかったのに、我慢するほど涙が出るのは――

“くやしい”と“好き”が比例してる証拠だから。




☆★☆★☆

※一部分ですが…
以前書いた作品の描写(じゃんけんなど)をしてしまいました。(先程、気付いたという…汗)
それが個人的に好きな描写だったのか、変換妄想していてそれにナツルーらしさを感じたみたいです。
まさか参考にした漫画に同じような描写があるとは…。気付いたのが遅かったです(>_<)
失礼いたしました。


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