『トゥルルルルル…トゥルルルルル……』
あたしの恋の呼び出し音に彼が気付いてくれますように――
ナツと話すと、つい喧嘩ごしになってしまうルーシィ。でも、本当は…。
☆★☆★☆
1時間目の授業が始まる前、一人黙々と机に向かっている金髪の女子生徒が居た。その彼女の名は、ルーシィ・ハートフィリア。長い髪を右上で結い、青いリボンを付けている。
友人から借りたノートを見ながらシャーペンを持つ右手が動いていると、そこに影がかかった。
それに気付き、顔を上げると同時に、満面の笑顔を向けてくる男子生徒と目が合う。
「今日も朝からいそがしそーじゃん!ルーシィ!」
「そーよ、忙しいの!何か用?」
「今日も?」と疑問符を浮かべつつ、指は動かしたままでいつものように軽く受け流していると――桜色の髪をした彼、ナツ・ドラグニルはルーシィの前の席に座った。
「オレさあ、昨日いいモン拾ったぞ」
「へぇ…そうなの」
「コレ…心当たりねえか?」
「……」
目の前に差し出された見覚えのあるものに一瞬、目を疑う。だが、ナツの手にあるそれは青い猫のイラストが描かれている彼女のお気に入りであった。
見間違えるはずはないと、握っていたシャーペンを置いて、思わず立ち上がった。
「あっあたしのアドレス帳じゃないの!」
「ん?…ほお、そーなのか?」
身を乗り出して驚くルーシィを見ながら、頷くナツは口角を上げる。
「何よ、わかってて持ってきたくせに!どこで拾ったのよ!?」
「拾って届けてやったのに、その態度は何だよ!」
「……」
右手を伸ばしてきた彼女から放すように、彼はアドレス帳を遠ざけた。
ナツの不敵な笑みを受けて、ルーシィは頬を膨らませる。そして、棒読みで言い放つ。
「どうもありがと、本当に助かりました」
返して、と右手をナツの前に向けた。
「まー、待てって」
彼はパラパラとアドレス帳のページを捲って、適当に開いたところでそれを机に置いた。
ルーシィの筆記用具入れの中からサインペンを取り出し、蓋を外したナツ。
その一連の流れを黙って見ていると、彼の口が開いた。
「男の名前が一つもねえってのも、気の毒だしな…」
「は?」
「オレが花を添えといてやっから」
――え、
「ありがたく思えよ」
ナツの筆圧が強いせいか、きゅっきゅっと文字を書く音がルーシィの耳に届く。
それを見つめながら、彼女の心臓は激しく動いていた。
「…ちょっとお!どうせ書くならもっとキレイに書いてよね!態度のでかい字だし、…は行に書いてるし」
素直になれないルーシィは両頬を赤く染めているにも関わらず「それお気に入りなのよ」と、強い口調で怒りを表す。
彼女の言葉にツリ目の彼は焦りながらも、その瞳で睨み返した。
「う、うるせっ。悪ぃかよ!」
「うるせーとは何よ!!頼んで書いてもらってるんじゃないのにー!」
ナツの腕や胸を叩くルーシィの力は強くない為、痛みを全く感じていない彼は面白そうに笑っている。
すると、聞きたくなかった音が室内に響いた。
「お!1時間目のチャイムだぞ、ルーシィ!」
「えっ!?もうー!まだノート写し終わってないのにー!…ナツのせいよ!くだらないことで時間割いてっ」
「んだよ、それ!宿題は自分でやってこい!」
「なっ、…自分はやってるわけ!?」
自分の席に移動したナツに向かってそう言ったルーシィに「オレはとっくに写し終わってるぞ」と、偉そうに答える彼。
廊下まで聞こえるのではないかと思う程の大声で笑うナツを凝視して、彼女は溜め息を吐き、右手を額に当てた。
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