「くっそー!!…ルーシィのバカやろー」

ナツは校舎の裏でドガッと壁を叩く。
自分が情けないのか両手で頭を掻いて、乱れた前髪も気にせずに溜め息を吐いている。
壁に寄り掛かっていると、白衣の女性が近付いてきていた。

「ナツ…」
「ん?リサーナ…」

突然、名を呼ばれて横を向くと、そこには申し訳なさそうに眉を下げて、微笑む彼女の姿があった。

「ごめん、さっきの…見るつもりはなかったんだけど、窓から見えちゃって…」
「……」
「ナツの彼女って、ハートフィリアさんのことだったのね」

口元に右手を添えて笑う彼女と目が合うと、恥ずかしさからなのか視線を逸らして、彼はコクンと頷いた。

「何かあったみたいだけど…良かったら、話聞くよ」
「あー、…いあ大丈夫だ。オレとアイツの問題だしな」

照れて頬を掻くナツに、口角を上げたリサーナが口を開く。

「ナツ、変わったね」
「あん?」
「あの子のおかげ?」
「…そうかもな」

ルーシィを思い浮かべているのだろう、ナツは笑みを見せてから急に真面目な顔をした。
頬を叩いて気合いを入れる。

「んじゃオレ、行くとこあっから、先行くな!」

頷きながら手を振る彼女に背を向けて、彼は決意を新たに駆け出していった。










体育科の部屋を訪れたルーシィは、ノックをしてから中に入ると、すぐ近くに居た教師の一人に声を掛ける。

「ドラグニル?…いや、まだ戻ってきてないけど」
「そうですか、ありがとうございました…」
「いえいえ」

ナツの不在を確認すると、急いで彼を探しに走った。
外には居なかった為、校舎内を見て廻るが、目立つ髪色の彼は全く見当たらない。


――ナツ、どこに居るの?

やっぱりもう一度、謝りたい。

このまま終わっちゃうなんて、絶対イヤ!


走りながら涙を拭って、階段を駆け上がった。
一番上の階に辿り着くと、扉を開けて中を窺う。

屋上にもいないか――

ここに居るかもと思っていた場所がはずれて、ルーシィは溜め息を吐いた。
もしかしてもう戻っているかもしれないと考えて、もう一度体育科に寄ってみることにしたが、不意に男性の声が耳に入る。

「誤解だって?」
「…はい」

――ロキ?…と、ナツの声!?

咄嗟に扉近くの壁に身を隠した。そっと二人の様子を覗き見る。
ルーシィは彼等の言葉に疑問符を浮かべるが、壁に身を寄せて会話に集中した。

「これからルーシィに会って、ちゃんと話し合うつもりです。だから…もうアイツの気持ちを乱すようなことはやめてもらえませんか?」
「…君にそんなこと言う資格はあるのかな?」
「……」

眼鏡の位置を直しながら、そう言い切るロキは両腕を組んだ。
ナツに背を向けて――

「ルーシィはね…君が考えているよりずっと傷つきやすいんだよ。誤解であれなんであれ、ルーシィを泣かしたことに変わりはない」
「……」
「そんなことにも気付かない君には、ルーシィを任せられないな。あの子の傍に居る資格はないよ!」

振り向いて、勇ましく言葉を投げ掛けるロキ。
近くでそれを聞いている彼女は、思わず口を押さえた。
自分を守ってくれる彼の気持ちは嬉しいが、今のルーシィにはその言葉を受けたナツのことが気掛かりであった。
彼がどんな顔をしているか――どんな気持ちでロキの話を聞いているのか。

ナツだけが悪いわけではない。
実際にルーシィ自身も、自分の言動でナツを傷付けたのだ、と両手で顔を覆った。

――ナツ。







ジーっとロキを見つめるナツは、グッと拳を握って口を開いた。

「…それでも、」
「ん?」
「それでも、オレは――ルーシィが好きだ!」
「……」

ツリ目を一層、つり上げて自分の想いを言葉にする。
ロキは口を挟まず、そのまま聞き続けていた。

「オレはルーシィが誰よりも好きで、大切なんだ!…だから、アイツは絶対ぇ渡さねえぞ!」

ナツが息を切らして「言ってやったぞ」という表情をしていると、ロキの背後にある壁から金髪の彼女が飛び出る。
――と同時に、ナツの胸に抱きついた。

「ナツっ!」
「うあー!?」

細い腕に力を入れて、触れられずにいた彼を全身で感じるように強く抱き締めた。
堪えきれない想いが涙になって、頬に流れていく。

「ナツ…ナツ!」
「…ルーシィ?」
「ごめん!ごめんね…全部あたしが悪いの!」

ロキの前であったが、ナツは遠慮せずにギュッと抱き締め返してから彼女の身体を離して、顔を見る。

「…もしかして、おまえ…今の聞いてたとか言わねえよな?」
「……ごめん、聞いちゃった」
「マジかよ…」

ルーシィは、耳まで赤く染めた彼を見上げる。
彼女はおかしくて笑ったが、背中に受ける視線の方へとゆっくり振り向いた。

「…ロキ、あの…あたし、」
「そんな顔しないでよ。…僕はルーシィが幸せそうに笑ってる顔を見ていたいだけなんだから」

ロキはルーシィに近寄り頭を撫でると、目の前で口を尖らせているナツに真剣な表情を見せて言い放つ。

「今度ルーシィを泣かせるようなことをしたら…」
「言われなくても、わかってるっつーの!」
「“わかってる”って?…先輩に向かって」

眼鏡の奥の瞳が光ったように感じて、ナツは肩を震わす。

「う…、わ…わかってます」

隣で、クスッと笑うルーシィ。
彼女の右手が彼の左手に当たると、ナツはその手を握った。

「…それじゃ僕はお邪魔だろうし、退散するよ」

はははと笑って、背を向ける。彼が歩き出そうとしたところで、

「ロキ!」
「なんだい、ルーシィ?」

彼を呼び止めた彼女は、笑顔を見せた。

「…ありがとう」
「どういたしまして…」

ロキは微笑み、右手を上げて去っていく。扉が閉まる音が耳に届いた。
ルーシィが隣に目を向けると、空を見上げているナツの横顔が嬉しそうに笑っているように感じて、心臓がトクンッと鳴った。









夕日が沈み、金色と一緒に青いリボンが風に靡いた。彼女の髪よりも高い位置で、桜色の髪も揺れる。
ナツがルーシィを見つめていると、

「…ナツ?」

その視線に気付き、彼女は彼の手を握り返して微笑んだ。
すると、

「あー…まあ、今回のことは大目にみてやっか!」
「はあ?」

ナツの思いがけない発言に、目を丸くする。
ルーシィは眉を上げて、キッと睨んだ。

「どっちがよー!もとはと言えばナツが原因作ったんじゃないの!?」
「おまえ…自分も同じことしときながら、よくそーゆーこと言えるな!」
「もーっ、ナツっていざという時、素直じゃないのよね!こーゆー時はねえ…」

握っていた手を放して背を向けた彼女に、ナツはムッとしたがニヤリと口角を上げた。

「ルーシィ!」
「きゃっ」

彼は後ろから飛びついて、彼女の首筋に唇を寄せた。
ナツの体温と湿ったそれを直に感じて、ルーシィは真っ赤な顔を向ける。

「…誰かに見られたらどうするのよ」
「こんくらい平気だろ?」

彼女は涙目で訴えているが、身体を捩りつつも結局は彼の腕から離れられなかった。
ナツは抱き締める腕に力を籠めると、彼女の耳元で呟く。

「…誤解させて悪かった」
「ううん、あたしもナツにひどいことしちゃったから…ごめんなさい」

ルーシィは誤解していた時、ナツに見せた自分の態度をふと思い出して、俯いた。
ナツの左手にポツンと雫が当たる。

「ルーシィ、どうした?」
「え?あ…も、もうあたしったら、また涙出てきちゃった」
「……」

後ろから回していたナツの両手が放れると、涙を拭うルーシィを前に向かせて彼は唇を寄せた。
彼女は驚き、咄嗟に両手で口を塞ぐ。

「ダメよ、ナツ!…バレたら大変でしょ!」
「…うぐっ」
「……あたし、今日は泊まっていくわ…だから」

学校ではしちゃダメ――と小さく声にした。解放されたナツは溜め息を吐く。

「仕方ねえ、我慢すっか…」

渋々身体を放したナツに「そろそろ戻ろう」と伝えて、ルーシィが先に扉の方へ歩いて行った。
彼女の背後で彼は何か考えているようであったが、すぐ後ろについて行く。
ルーシィがドアノブを回して少し開けると、彼女の後ろからナツの右手が伸びてきた。
彼の手が、扉を閉める。

「え、なんで閉めるのよ?」

振り返った瞬間、顔に影がかかる。額にナツの唇が触れて、目を閉じたルーシィはそうっと開けると、

「…っ!?」

いつの間にか、彼女は彼の両腕に挟まれていた。

「ルーシィ…、ちょっとだけなら良いだろ?やっぱ、我慢なんて無理だ。こうやって隠せばわかんねえよ」

ナツの両手がルーシィの顔を隠している。至近距離で見つめられると、拒めない。
ルーシィは呆れながらも頷いた。彼は目を閉じた彼女に唇を寄せる。
軽いリップ音が鳴ってゆっくり唇を離すと、ルーシィは真っ赤な顔を見せて笑っていた。
ナツも頬を染めて、笑顔を向ける。

「もっかいして良いか?」
「…良いけど」

再度顔を近付けようとするナツの唇に向かって、今度は背伸びをしたルーシィが口付けた。

「…っ!?」

不意打ちだったことで、ナツの両目が大きく開く。
身体が勝手に動いた結果だが、彼女は自分の行動に驚きつつも笑顔を見せている。

「…じゃ、またあとでね」
「ルーシィ…おまえ、ズリぃぞ」

消え入りそうなナツの声を聞いてから、扉を開けて階段を下りて行った。
彼女の足音が、リズムよく響いている。

――初めて自分からしたキスは、ダメだと言った校舎内。

お詫びの気持ちも含めて、今回だけは積極的に行動したのであった。
暫くは熱が冷めてくれないだろうと、熱い頬に両手をあてる。
仲直りできて本当に良かったと、微笑んだ。


ルーシィはナツがアパートに帰ってくる前に食事の用意をして待っていようと、レシピを頭に浮かべながら、急いで教室に向かう。
鞄を持ち、着替えの服を取りに行かなきゃと、自宅に足を向けて駆け出したのだった。











――そして、日々が過ぎ

ストラウス先生は結婚して学校を辞めていった。

危なかったけれど…ナツも無事に、教職試験に合格しました。



あたしはというと――


「ふふふ」
「なんだ?変な顔してっぞ」
「う、うるさいなー!…嬉しいんだもの」
「嬉しい?」
「うん!だって、これで堂々と外で“恋人”できるじゃない?」

ルーシィはナツのアパートで紅茶を飲みながら、満面の笑顔を見せている。
そんな彼女とは対照的に、何故か言いづらそうにする彼が居た。

「……あ、えーとな。そのことだけど…」
「ナツ?」
「言いたくねえけど、言わねえとダメだよな…」
「どうしたの?」

頭を掻く彼に、疑問符を浮かべて近寄った。
意を決して、ナツの口が開く。

「ルーシィの学校に決まりそうなんだ、体育の教師…」
「へっ?」



――二人の恋愛に平穏が訪れる日は、まだまだ遠そうです。



☆★☆★☆
ナツ先生はルーシィが高校を卒業したら…『結婚するぞ!』って言いそうな気がする。
実習生と生徒って関係のお話…全然活かしきれていませんね゜゜(´O`)°゜
恋人設定って難しいです…。
好みのシチュエーションを組み込んだので、流れが不自然な印象を受けた方も多いでしょうかね。ううむ。
参考にした漫画にプラスした部分も多いので、纏まり感がない。
表現力に未熟さを感じて成長が見られておりません(愚痴っちゃったよ…失礼しました)

ここまでお付き合いくださった方へ…
ハチャメチャな文章になってしまい、ご期待に添えず申し訳ありません。(期待されている前提での発言(笑))
…ですが、楽しかったです♪挑戦することは大事ですよね!
最後まで目を通してくださり、ありがとうございました^^

ではでは、今後は原作に…FTの世界へ戻ります。



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