教室の窓際から、よく知っている名が叫ばれた。

「きゃーっみてみて!実習生のドラグニル先生よー!」
「ナツ先生だー!」
「あー、私もナツ先生って呼びたい!」
「私も!」

女子高だからなのか、学校内にいる男性の姿は新鮮に感じるのだろう。
校庭で行われている隣のクラスの体育の授業を覗き見て、煩く感じられるほどの声量で騒いでいる多数の女生徒。
そんな彼女達の側で、興味なさげな金髪の女子が見えた。彼女は自分の席に座り、頬杖をついている。
彼女の名は、ルーシィ・ハートフィリア。青いリボンが目立っており、彼女のトレードマークでもある。

「えっどこどこ?わあ、かっこいー!」
「笑うとカワイイよね!」
「うんうん」
「今日から体育の教育実習なんだって」

ルーシィのクラスが自習になった為、彼女は静かに本を読んでいた。
溜め息を吐き、ページを捲っている。そんな彼女を目にして、外の様子を窺っていたクラスメートの友人は、小首を傾げて呼びかけた。

「ルーシィも見てみなよ」
「えー、」

ルーシィは、渋々と窓に近付き、校庭を見渡した。
同級生たちが浮かれているその実習生に視線を向けると――
桜色の髪が映える紺色の上下、ジャージを身に着けて生徒に見本を見せている。
童顔だからだろうか、生徒達とさほど変わらない容姿をしている若い彼。
女生徒に声を掛けられたその人は、ニッと歯を見せて笑っていた。

――へえ、…楽しそうにやってんじゃない。

なーによ、ヘラヘラ笑っちゃってさ。


「…ナツの、――ドラグニル先生のばーか」

両腕を胸の前で組み、隣の友人に気付かれないようにして、彼のいる方へそっと呟いた。










場所が変わって――とあるアパートの一室。
実習生の住むそこからルーシィの声と共に、彼の声が響いてきた。

「しょーがねえだろ!ムスッとしながら、授業できるかってーの!」
「でも、ナツったら…必要以上にニコニコし過ぎよ!」
「つーか、それはルーシィの意識し過ぎだっつーの」
「…そ、そんなことないわ」

高校生にしては露出度の高い私服を着て、スカートから覗く白い太腿も気にせずに口を尖らしている。
ルーシィの正面で胡坐を掻くナツは、深い溜息を漏らし、側に投げられてあったジャージの上着を掴んで、彼女の足に掛けた。
それが逆効果になったのか、彼の想いを勘違いしてルーシィは頬を膨らませている。

――こんな格好するなって言いたいの?

リビングで口喧嘩を繰り返すふたり。

「ルーシィ…」
「何よ!」
「オレがおまえの学校の実習生になったこと…うれしくねーの?」
「……」

ルーシィは視線を外して、俯いた。
距離を縮めながら、ナツの右手がルーシィの左手を握る。
途端、俯いていた顔を上げる彼女は、唇を噛んだ。
目の前にいる彼が、珍しく眉を下げている。目を合わすと、ツリ目が寂しいと訴えてきた。

「ルーシィ?」
「…ううん、嬉しいよ」

金髪を揺らして、左右に顔を振る。ルーシィも眉を下げて、肩の力を抜いた。

「だけど…複雑な気分なのよね。なんか、みんなにナツをとられちゃうような気がして――素直に喜べないの」

それって、良くない考えだってわかってるのよ、と続けて、

「だけどあたし、」
「ばーか、オレは誰にもとられたりしねーぞ!」
「…ナツ」

握られたままの左手が前に引かれた。ポスッとナツの腕の中に収まる。
ギュッと抱きしめられると、赤く頬を染めたルーシィが目を閉じた。

「他の女を好きになれるかよ?オレはそんな器用じゃねえよ」
「うん…知ってる」

ゆっくり目を開けてナツの顔を見上げると、そこにはいつもの彼の笑顔がある。

「だろ?…だから、あんまし余計な心配すんな!な?」
「うん、わかった」

笑顔を返して、再び彼に身体を預けると――

「んー、おまえ香水変えたか?」
「えっ!?ちょっとしかつけてきてないのに…」
「オレの鼻、なめんなよ!…この匂いって」

ルーシィの首元にクンクンと鼻を近付ける彼に、彼女は微笑んだ。

「…ふふ、この香りナツが好きだって言ってたから」
「おう、好きだ。…何か安心すんだよな!コレ」
「そうなの?」
「ん…ルーシィを匂いに変えたらコレだろ?」
「何よそれ?」
「いーんだよ、オレがわかってれば」
「…もう」


皆さんがお気付きの通り、

あたしは――彼、ナツと、…ドラグニル先生とお付き合いしています。
もちろん二人の仲はナイショよ!
教育実習生とはいえ、教師と生徒。あたしたちの関係が知られたら、大変だから。

ナツがうちの女子高に一か月間、教育実習に来ると聞き、毎日のように会えるんだと感激したけれど、冷静に考えて内心は、不安でいっぱいなんです。


あたしたち、大丈夫よね?






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