「間に合った…」

チャイムが鳴る前に、教室に入ったルーシィは息を整えた。自慢の金髪も全力で走ったことで、乱れている。
レビィが、フラフラと自分の席に着いた彼女に気付き、足を向けた。

「おはよ、ルーちゃん!」
「おはよう…」

鞄を机の横に掛けて、ぐったりと机に伏せた。

「お疲れさま…珍しいね、ルーちゃんがギリギリなんて」
「…うん、二度寝しちゃって」
「ルーちゃん、最近がんばってるからね!疲れが出てきたのかな…」

よしよしと髪を撫でてくれる彼女の手が温かい。――ホッとする。
瞼を下ろしそうになったが、ルーシィの顔に髪がかかり、あっと声に出した。

「そういえばあたし、髪そのままだった…」

身体を起こしてリボンどこ行ったっけ、と鞄の中を漁る。
見付かった青いリボンとクシを持つと、レビィがルーシィの髪に触れてきた。

「結ってあげるよ!」
「え!?…良いの?」
「まだ先生来そうにないし」
「それじゃ、お願いしようかな…」
「うん、任せて!」

レビィは彼女の後ろ髪を持ち上げて、クシで梳かしていく。すると、サラサラだねとルーシィの金髪を褒めてくれた。
話しながら、早々と器用に指を動かして、最後にリボンをキュッと結んだ。

「はい、出来上がり!」
「ありがとー…ん?」
「たまには良いかなって。大人っぽく見えるよ!」

顔周りの内側の髪を三つ編みに結って、それをリボンで結びつける――ハーフアップ姿。
レビィの言葉にルーシィは、ほんのり赤く頬を染めた。






午前中の授業を終えて、昼休みのチャイムが鳴る。
レビィと向かい合わせになってお弁当を食べていると、廊下から彼女を呼ぶ声が聞こえた。
委員会の当番を変わって欲しいとのことで、レビィは急いで片付ける。

「ルーちゃん、ちょっと行ってくるね」
「うん、がんばってね!」

教室を出ていく彼女を見送った。時計を見るとまだまだ時間はある。

「…外、行こうかな」

上履きのまま外に出られる場所。
天気の良い日は特に最適な所――、芝生が敷き詰められてる校舎の裏庭だ。





渡り廊下を歩き、体育館近くで足を止めた。

「なんか、今日は怠いわね…帰ったら、早めに寝よう」

頭がボーっとする。両手で頬を叩き、気を引き締めた。
ふわりと風が吹き、金髪が舞う。
その風に乗って、体育館から響き渡る吹奏楽の音色が耳に届くと――

「〜♪」

音楽に合わせて、きれいな歌声が重なった。

「この声…」

すぐ近くで聞こえてくる。それを辿って見回していると、金髪の女生徒の後ろ姿が目に入った。

初めて会った時も短く感じていたが、いつ切ったのだろうか、更に金髪の長さが短くなっていることに気付く。


――何かあったのかしら。


「カスミちゃん!」

後ろから声を掛けると、彼女が振り向いた。目が合って、一瞬、間が空く。

「……。…ルーシィ先輩?」
「うん?」

何故か疑問形で返されて、ルーシィが小首を傾げた。
すると、カスミがクスッと笑う。

「誰かと思った。いつもと雰囲気違うから…」
「あ、そっか。…どう?大人っぽい?」

瞳を輝かせて、返事に期待するが、

「…変!」
「……ぇ」

彼女の感想を素直に聞き入れてしまうルーシィは、肩を落として涙目になる。
その表情にぷっと噴き出したカスミは、大声で笑い、芝生の上に座り込んだ。

「あはは、かわいいよ!大人っぽい」
「…ありがと」

頬を膨らましたが、ルーシィも笑って答えながら彼女の隣に腰を下ろす。
スカートの裾を気にしつつ、足を伸ばした。
カスミが寝転がり、口を開く。

「もうアンタをいじめて遊ぶ気ないから…。私もルーシィ先輩と同じように変わるんだ」
「え?」


――ナツ先輩との関係…私から教えてあげるよ。

急に真面目な顔をしたカスミを、ルーシィは胸に手を当てて見つめる。

そんな彼女達の側を走って通る男子生徒の中に、桜色の髪の彼が居たことに二人は気付かなかった。





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