お昼休みの時間になると、女子が数名窓際に寄っていく。
「ドッジボールやってるよー!」
「ホントだー」
「こっち見ないかな…」
お目当ての子が見つかると、声のトーンが上がった。
実際その場に居なくても、少女たちの実況のおかげで、今何が起こったのかと耳に入ってくる。
ルーシィは、自分の席に着いてクラスを見回した。
――このクラス、
女子は元気良いけど、やっぱり男子は地味かもしれないわね。
前のクラスは、
ナツが居たから元気良かったっけ…。教室の中でドッジボールしたりして。
中学の頃を思い出して懐かしんでいると、女子達が騒ぎ出す。
「ねー、見て!ちょっと、」
「誰、あれ?」
「うわー、反射神経良い!」
「えー、あんな子いた?」
「…どの子?」
「ほら、あの小さい子!」
「えー?顔見えない」
「あ、今こっち向くよ!」
――小さい?
「きゃー、うそー!可愛いー!!!」
ルーシィは席を立ち、窓の方へ駆け寄る。
そこには桜色の髪の少年がボールを受け取って、すぐさま投げようと構えていた瞬間であった。
「うわー、すごい!よくあんなボールとるよね」
「7組?…ちょっとチェックじゃん!」
「あ、笑った顔かわいー!名前知ってる?」
「F中のナツ…」
「え?」
ナツ・ドラグニルって言うのよ――。
「同中ならさ、ちょっと手、振ってみてよ!」
「…え、」
「良いから、良いから!こっち向くかも」
「や、ちょっと恥ずかしいーって!」
ハルカは、勝手にルーシィの右腕を掴んで左右に振って見せる。
すると、ナツが何かに気付いたようでゆっくりと走ってきた。
「あっ!」
「…うそ」
驚くルーシィ達は咄嗟にしゃがんで顔を隠すと、
「なんだ?」
『!!』
「担任呼んでるよー」
「んー、」
「すぐ職員室来いってさー」
『……』
目の前にナツが居る。しかし、その声は2階の教室へと向けられていた。
相手の声は、同じクラスの女子である。
「マジか…、見てねえって言っといてくれ!」
「何言ってるの、あはは…」
――ナツ。
気付かれないように金髪の頭を少し覗かせて、背を向ける少年をルーシィは目で追った。
「…なんだ、上か」
「7組って真上なのね…」
「あ…、行っちゃう」
ハルカが残念そうにしてそう呟くと、
『ナツっ!!』
――え、
「見なかったことにしといてあげるから、何かおごってよー!」
「あん?…おごってくれんのか?」
「違うってー!ばーか…」
真上からぎゃはは…と、笑い声が響く。
「な、ナツ…って」
――入学4日目で、すでに呼び捨て!?
…なによ、それ。
なんか新しいクラスの子と、もう随分仲良くなっちゃってるのね。
笑顔の少年を目に留めながら、額に汗を掻いた。
「ルーシィってあの子と中学、同じクラスだったの?」
「う、うん」
「良いなー…それじゃ結構、親しいの?」
「……うん、まあ」
――そういえば、あんなに近くにいたのにあたしに気付いてくれなかった…。
高校に入ってからまだ一度もしゃべってないことに…
アイツは気付いてるの――?
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