「…あいつはキレやすいんだから、気ぃつけろよ」
「……」

ボーっと見つめていたルーシィは、自分を案ずる言葉を耳にして大きな瞳を一段と見開いた。

「あ…アンタだっていつも叩かれてるじゃない!」
「女の殴られるとこなんか、見たかねえんだ!」

目を逸らして、少女の側から離れたナツは背を向けて席に戻っていく。
ルーシィは机に視線を移して、熱をもつ頬に手をあてた。


『比べてみるか?』


思いがけないやり取り。ナツの声と自分に向けてくる大きな右手を思い出すルーシィ。


――…へ、ヘンなの。あたし、もう痛くない。それよりも熱いよ。アイツに触れられた、…ナツの、大きな手。…ドキドキする。





今朝まで降り続けていた雪の粒が小さくなると、窓際に寄って様子を窺う。
ルーシィはそれを見て、親友に声を掛けた。

「あ〜〜〜、雪が…止むわ!」
「止みかけてるっ…てことは、今日の体育は!?」

制服の上にコートとマフラー、手袋をして校庭に出て行く。吐く息がみんな白い。
体育担当の教師が生徒の前に立ち、指示を出した。

「今日は“雪掻き”ね。男子は内側、女子は外側」

辺り一面、白い雪に囲まれている。グループごとに分かれて手際よく雪寄せを行う。

「…この一月の寒空に、もし風邪引いて肺炎になって、受験当日に寝込んだら学校は責任とってくれるのかしら」
「そうだね…」

鼻の頭を赤くして、ズルズルしているルーシィを見て、親友が肩を叩く。

「ルーシィ…鼻かめば」
「うん」

ポケットティッシュを渡されて、それを受け取る。
鼻をかみスッキリしていると、雪を投げて遊んでいる数名の男子が目に入った。
その中にいる一人の男子の笑顔に目がいく。

「ねえ、ルーシィ、あいつら雪合戦してるよ。元気だよねー」
「ふふ、…子どもは風の子だもの」

横を向いて笑っていると、後頭部に雪の球が当たって割れた。

「わっ、何するのよ!!」

後ろを向いて、大きく声を張り上げる。もちろん犯人は桜髪のアイツ。
面白いのか、お腹を抱えて笑っている。
頬を膨らませて少年を睨むルーシィへと、近付いてきた。

「オレにもティッシュくれ!ハナかみ女」

その場にしゃがむナツが上目づかいをして、左手を伸ばしてくる。
手袋をしたその手に乗せてやると、

「……はい、どうぞ!ハナかみ男」
「サンキュー」

白い歯を見せてニッと笑みを向けてくるナツを凝視する。


――か、可愛いわね。


鼻をかんでいる少年を横目で見つつ、そっと逸らした。
そんなルーシィの視線に気付いていたのか、ナツは立ち上がって、

「…なんだ?何か付いてっか?」
「な、なんでもない!」
「お!わかった…コレが欲しいんだろ?ほれ!やるぞ。遠慮すんな!」
「きゃあー!」

逃げようとしたルーシィの右腕を掴んで引き寄せた。

「ホレホレ・・・」
「ちょっとー、やーめーて!」

鼻紙をルーシィの頬にあてようとしているが、少女は左腕を振って抵抗している。
二人の姿を近くで傍観している親友が、口を開いた。

「あんたらって、お似合い。付き合っちゃえばいいのに」

その言葉に反応して騒いでいた二人は、身体の動きが止まる。
真っ赤に染まりながらも苦笑いを浮かべる少女の隣で、まだ腕を掴んでいるナツは口を閉ざした。
少し間が空き、口を結んでいた少年が微笑んだかと思うと、

「なんだ、それ?」

――え、

「……」

ルーシィの腕を離して、男子がいる方へ戻っていく。
膝がガクガクする。力が抜けたようで、ルーシィはその場にしゃがみ込んでしまった。









前ページへ 次ページへ



戻る
- ナノ -