「前に出ろ」

俯いていたルーシィは、顔を上げる。指示されるまま席を立ち、ゆっくりと歩き出した。
原因を作った男子が、心配そうな眼差しで少女を見ている。
ルーシィは教師の前で立ち止まり、目を見ないようにして視線を下げていた。
彼は右手に持っていた長いモノサシを机に置く。


コトッ。


教師がルーシィに近寄ると、彼の右腕が大きく振られた。
少女の頬を目掛けて、


ビシッ!!!!


静まり返っている教室内に響く音。教師の右手が少女の左頬に強く当たっていた。
突然、目の前で起こったことに生徒達は驚愕している。中には瞳を潤ませている女子もいた。
ルーシィは驚きのあまり目を大きく見開いたまま、放心状態。

「……」

少女の肩越しから見える桜色の髪の少年も、驚きを隠せないでいる。
机の上で、ギュッと拳を握る姿が目に入った。

「席に戻れ」

教師の声にハッとし、静かに背を向けて自分の席に戻って行く。
椅子に腰かけ左の頬を擦ると、そこから熱が伝わる。
重い空気が残る室内に、授業を再開した教師の声が響いた。





ようやくチャイムが鳴り、休み時間を迎える。
ルーシィは、ジワジワと痛みが出てくる頬に手を添えた。そのまま座っている少女の元へ、友人たちが近寄ってくる。

「ルーシィ、大丈夫だった!?」
「赤くなってるよ、大丈夫?」
「ひどいよね、アイツ」
「…大丈夫よ」

笑って答えていると、後ろの席の男子がルーシィの目の前に移動してきた。
両手を合わせて大きく叫ぶ。

「ゴメン!…これ、誰にも言わないから」

小さな紙を今度は大事に――、
もう一度謝りながらルーシィの手に乗せてくれる。叩かれた時よりも赤く染まった両頬。
今の自分の想いを書き綴ったそれを、鞄の中にしまった。
すると、金髪に影がかかる。


ぎゅうっ…!


「いっ…」

気が付かなかった。
至近距離にいたその少年が、加減も知らずに左頬を摘まんできたのだ。引っ張られる痛みに耐えきれず涙目になると、頬から指が放れる。

「なにす、」
「…口ん中、切れてねえか?」

行動と反して気遣うナツの声色に、ルーシィは顔全体が真っ赤に染まった。
痛みのある頬を押さえて、

「す、少し…」
「ふーん…おまえ、顔赤ぇぞ?」
「……っ!?」


ぎゅうぅぅぅ…


「ちょ、ちょっと…だから切れてるの!痛いってばー」

再度、頬を引っ張る少年の指から庇っていると、目が合った。
その瞳にルーシィは惹きつけられるが、真剣なそこから感じる想いはわからない。


――ナ、


ルーシィは名前を呼ぼうとしたが、先にナツの口が開いた。








前ページへ 次ページへ



戻る
- ナノ -