生還
人混みが減ってから薮田と三月は非常階段を降りた。
途中で停電が起きたが、畜光素材の滑り止めのお陰で足元を見失うことはなかった。
停電ということはおそらくエレベーターも止まっているだろう。
薮田は自分の幸運に感謝しつつ、その遅い足で階段を下る。
その少し後ろから三月は数歩ずつゆっくりと追いかけていく。
本来ならばすぐに薮田を追い越せるのだが、三月はあえてそうしない。
「45階、大分降りたな」
ぼそぼそと薮田は呟く。
普段の自己陶酔気味の発言ではないあたり、彼も疲れているのだろう。
「うえ」
「?」
三月が唐突に天井を指差す。
薮田はよく見えなかったらしく、階段の踊り場からゆっくりとフロアへ足を進める。
「ひ」
三月が何か言いかけた瞬間、天井が崩落する。
なるべく被害の少なく済みそうな場所に向かって走る。
しかしあまり走るのが得意でない薮田は追い付かない。
「あーー」
砂煙、瓦礫の山、そこにはかつてのフロアの姿は無い。
三月はキョロキョロと辺りを見渡し、薮田を探した。
「いない」
不機嫌そうな無表情でそう言うと、まだ先に歩いていく。
電気は復旧したらしく、46階の電気が45階を照らす。
「まぶしい」

続く
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