死線
「いてててて」
砂煙に細い目を更に細める。
少々砂煙を吸い込んだらしく、喉が痛い。
「上階の崩落、そして算哲動けずか」
足元を眺めてみれば、瓦礫に足を挟まれている。
どうしようもない。
三月は先ほどから見当たらない。
彼のことだから上手く下に降りるだろうが、自分を助けにくるのでは、という淡い期待を抱かないでもない。
周囲に人が居るかを確認する。
あまり自分とは大差がない。
自分よりはマシな状況のものはあまり見かけない。
「やぶた」
ぐるりと視界を変更すると、見下ろされている。
外界を映すには適さない灰色の目がこちらに向けられ、ぱちぱちと瞬きする。
「三月、」
「おはよう」
顔はいつもの無表情のままだ。
何を考えているのかはいつもと同じくわからない。
「足元に瓦礫があるんだが」
「ん」
じっと三月は足元に目を向ける。
上手く誘導出来れば脱出出来るだろう。
「それさえ食ってくれればいい」
三月はじっくりと瓦礫を吟味した後、薮田に目を移す。
そして出刃包丁を振り上げ、構えた。
嫌な予感がする。
薮田は視界を自分の目に戻し、三月の顔を見る。
笑っている。
初めてこんな表情を見た。
「三月」
底知れないなにかを感じとり、避けようと少し身を引く。
しかし足元は動かない。
「いただきます」

続く
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