それから走っていくのか
憂はゆっくりと歩みを進めていた。
研究所内の空気は自分の散布した薬品のせいか若干気持ちが悪い。
先ほどポケットにしまいこんだガスマスクを再びかぶりなおし、憂はきょろきょろと周囲を見渡す。
数メートルほど離れた地点に見えたのは自分によく似た男の姿である。
「涅槃」
「……憂じゃないですかぁ」
くるりと振り返った男の顔は中性的である。
この顔を元に自分が作られたのかと考えると若干不思議な気持ちになる。
自分の顔をよく見たことはないが、こんな印象を与えるのかと感慨深い。
「どこへ?」
簡潔に質問を投げかける。
涅槃は特に目的もなさそうだが、気になるので尋ねる。
自分は今、目的が無い。
「……搬入口まで行こうと想いましてぇ」
えへ、と作ったような笑いを浮かべる。
「そう、ついてっていいかな」
「いいですよぉ」
間延びした口調の涅槃はそのまま歩き出す。
憂はすたすたとそれについていく。
確か搬入担当は悟と喜だったはずだ。
自分の兄弟の働き振りがいかほどかは分からないが、搬入した直後に襲撃されても困る。
二人の男はゆっくりと歩き出した。

つづく
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